『スーパー・ササダンゴ・マシンのチェ・ジバラ』(以下、『チェ・ジバラ』)は、新潟放送で毎週日曜の深夜(23・00―24・00)に放送しているラジオ番組です。パーソナリティは私、新潟市東区在住の覆面プロレスラー、スーパー・ササダンゴ・マシン(=写真㊦)。現在45歳、2児の父です。普段は実家の金型工場・坂井精機で社長をやっています。あとは新潟でテレビの情報番組のMCをやったり、東京で月に1、2試合プロレスのリングにあがったり、年に何本か舞台やコンサートの台本を書いたりもしています。
ラジオ番組を持ちたいという目標
『チェ・ジバラ』がスタートしたのは2021年7月です。それまでは1週間に何度も新潟と東京を往復しながら、忙しく仕事をさせてもらっていた生活が、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で一変しました。東京で予定されていたテレビ出演や、脚本執筆の仕事は全てキャンセル、毎日実家の会社に顔を出せるようになり「これはこれでよかったのかな......」と思ったところで、金型の受注も激減。その頃は本当にやることがなくて、人けの少ない田んぼ道や、海岸沿いを毎日のように散歩しながら、radikoのタイムフリーで深夜ラジオを聴いていました。TBSラジオの「JUNK」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」は、ほぼ毎日聴き続けていたので、最低でも3、4時間は毎日散歩していたような気がします。ずっと好きだったラジオの存在を意識し直したのもこのタイミングでした。
2021年になって、県境をまたぐ往来は極力控えるべしという気運がいよいよ高まり、新潟県内でラジオ番組を持つことができないかと本格的に画策するようになりました。第1希望の放送局は、新潟放送。TBSテレビと同じJNNネットワークで、テレビとラジオの兼営局です。また、私のいとこでテレビやラジオの音声マンを束ねるヒロくんという、放送技術業務全般を司る新潟新通の社長が同局と深く関わっています。2歳離れてはいますが、誕生日と血液型が一緒で、父親から事業承継して社長になった日も一緒、という謎に私と全く同じバイオリズムで生きている体格もそっくりの親戚です。
彼と話していると、ラジオ界でどんどん削減される番組制作費や、コロナ禍でラジオの重要性が話題になるものの実際は売上が増えないなど、シリアスな現状が見えてきました。でもそんなことは、テレビだって、製造業だって、プロレスだって同じような現実と直面しているので、何一つ驚くことはありません。これは「自分の番組を持ちたい」という目標を達成するためには、逆にチャンスだとさえ思えました。制作費がないのであれば、自分たちで負担すればいいんです。
ヒロくんの会社には、2020年6月で閉局した新潟県が放送エリアのFM PORT(新潟県民エフエム放送)というラジオ局で使っていた機材がそっくりそのまま保管されていたので、自社の倉庫を改造して番組収録ができるスタジオを作りました。さらにヒロくんのPCにはAvid社の「Pro Tools」という高級な音声編集ソフトも入っていることを確認したので、編集とMA(音の最終仕上げ)の心配もありません。構成と出演はスーパー・ササダンゴ・マシン、音声と編集はいとこのヒロくんという、まさかの4親等内で、かつ自分たちがフル稼働する前提なら、自社の固定費のみでラジオ番組の完パケが作れることが判明してしまったのです。
放送休止枠を購入
番組制作自体はなんとかなるとして、その前に放送枠を確保しなければいけません。そこでわれわれが目をつけたのが日曜深夜の放送休止枠です。新潟放送では日曜の25時から29時までが、そっくりそのまま空き地のようになっており、このスペースは実にもったいない気がしていました。実際に放送機材のメンテナンス作業をする時間が必要だったりもするのですが、その作業を担当しているのがヒロくんの会社だったので、日曜25時から26時までは放送しようと思えば可能だということは確認済みです。
局との話し合いの結果、毎週日曜の25時から25時30分までの枠を、「私とヒロくんが自腹で購入する」という形ならすぐにでも番組をスタートできることになりました。いわゆる「枠買い」というやつです。1カ月の波代(電波料)はいくらなんだろうか、びっくりするような金額を提示されたらどうしようか、とドキドキしましたが、坂井精機と新潟新通で折半すればなんとかなりそうな額でホッと胸をなでおろしました。私が新潟放送のテレビ番組でたくさんロケに出て出演料を稼ぎ、ヒロくんが接待を伴う飲食店に行くのを月に何度か我慢すればいいだけです。
逆にしっかり波代を支払う形にすることで、番組の内容自体に局は全然口出ししませんよ、だからしっかり深夜放送らしいフルスイングした番組を期待してますからね、と言われているような気さえしました。実際、新潟放送の編成担当者は番組がスタートする前から驚くほど柔軟です。自分たちが作りたい番組の趣旨も理解してくれていて、放送初回からわれわれが新潟放送を「お金に細かく超コンサバティブでなおかつ権威主義的な放送局」という巨大な仮想敵であるかのような演出上の設定を続けているにもかかわらず、一切クレームを言ってきません。むしろどんどんやれと無言の挑発をされ続けている感じです。これは新潟放送と『チェ・ジバラ』による、お互いの信頼関係の上で成り立つ「戦い」をテーマにしたショーでもあるんですが、たまにエンタメの域を超えた攻撃がガッチリと相手に入ってしまって、1カ月ほど放送を謹慎させられてしまったこともあります。
自慢話はしない
スタッフも最初は私とヒロくんの2人だけでしたが、聞き手の小林友さん、編集面でヒロくんをサポートするK村さん、番組のアシスタントプロデューサー的存在の若杉司さんが合流してくれて、5人ともノーギャラにもかかわらず、喧嘩をすることもなく番組を続けることができています。プロの音声マンが1人いるだけで、あとは元テレビ局員や、デザイン会社の副社長などキャリアはバラバラ。ただの友人たちが週1回、スタジオに集まって草野球やキャンプをやるように深夜ラジオを作っています。気づいたら番組もスタートして2年間がたち、日曜25時から30分だった放送枠も、23時から24時までの1時間と、25時から25時30分までの合計90分番組に拡大。それに伴い、波代も少し上がりましたが、短期のスポンサーになってくれる企業が現れたり、毎年開催するイベントにもたくさんの人が来場してくれるので、自分たちのギャラ以外の経費は、だいぶ賄えるようになってきました。
本当だったらもう少し、番組の手ごたえやリスナーからの反響、印象的な放送回やエピソードにも触れたり、県外のリスナーからも人気になっている秘訣なんかを冷静に分析すべきだと思うのですが、パーソナリティが直々にコラム形式での原稿執筆を依頼されてしまった以上は、どうしてもこういったテーマの内容にはなり得ません。ラジオのエピソードトークもどうしても、仕事で忙しすぎた話や、今週がんばった話などをついつい勢い余ってしてしまいがちですが、気をつけておかなければいけないのが、ただの「忙しい自慢」や「売れてるぜ報告」になってしまってはいけないということ。エピソードトークの本質は失敗談であり、恥ずかしかった話であり、なによりリスナーが共感できる話でなくてはいけません。なので『チェ・ジバラ』が今まで2年間、うまくいきまくってきた話なんて、もう自慢中の自慢でしかありませんし、それを私自らやってしまったら、その時点で深夜ラジオのパーソナリティ失格なんです。こんなことなら最初からプロデューサーのヒロくん名義で執筆させてもらえば、自分で自分のことをもっと褒め放題だったのに......。