マスコミ倫理懇談会全国協議会は、9月21―22日に第65回全国大会を宮崎市で開催し、96社・団体から281人(会場210人、オンライン71人)が参加した。
記念講演は、プロデューサーで東京藝術大学副学長、同大学院教授の岡本美津子氏が行った。「アート思考が未来を創る――イノベーションを起こす人材を育てる方法」と題し、アーティストは見る側に問いかけを生み出しており、見る側はその答えを「考え続ける必要がある」と提起。「イノベーションに重要なのはアート思考の"明るい未来の物語"を創造する力」と結んだ。
分科会は、AからFの6つがそれぞれ行われた。「南海トラフ巨大地震への備えと報道」がテーマの分科会Bは、講師と報告者がそれぞれ説明を行った後、今回が初めてとなるワークショップ(WS)を実施した。参加者は南海トラフ巨大地震・津波発生時にも安全な災害報道を継続させるためのタイムラインの作成を行った。
はじめに東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの松尾一郎客員教授が、南海トラフ巨大地震の発生シナリオと宮崎県内の被害総額などを説明。続いて、共同通信社気象・災害取材チーム長の所澤新一郎氏が、南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合などに発表される「南海トラフ地震臨時情報」について139市町村を対象にした調査を紹介、住民の理解が得られておらず周知のあり方に課題があると指摘した。岩手日報社編集局次長の太田代剛氏は、2008年の岩手・宮城内陸地震の経験を踏まえて備えを行ってきたが、東日本大震災は想定外だったと振り返った。そのうえで、「地元の人たちのために何ができるか答えは現場にある。それを受け止めて、実行できるデスクを育てておく必要がある」と語った。
<松尾一郎客員教授>
続いて、松尾客員教授がタイムラインについて「メリットは何が起きるかリスクが理解できる」と解説。九州朝日放送報道情報局役員待遇解説委員長の臼井賢一郎氏が同社の「大雨タイムライン」の活用例を紹介した。宮崎日日新聞社編集局生活文化部編集委員の川路善彦氏とテレビ宮崎アナウンス部兼報道部の藤﨑祐貴氏は、7月に両社の合同研修としてタイムラインを作成した模様をVTRを交えて報告。藤﨑氏は「自分ごととして考えるきっかけになった」と振り返った。
その後のWSでは、参加者は4班に分かれ宮崎日日新聞社、テレビ宮崎にそれぞれ勤務しているとの想定で、班ごとにくじ引きで社長や報道、制作、総務など所属する社の部署を割り当て、地震発生後に災害報道を継続するために課題となりそうなことを付箋に書き出した。それらの課題をもとに、▷専門家の確保▷安否確認▷取材スタッフの安全確保▷系列局への応援要請――など平時と地震発生から1週間後までの各時間帯における行動項目と誰が担うのかを記入し、タイムラインを作成。各班でそれぞれの内容を発表した。
<タイムライン作成の様子>
最後に松尾客員教授が「タイムラインを読者、視聴者に伝えてほしい。それを見た人が活用することで、一人でも多くの命が救われることを目指し、活動してほしい」と語り、締めくくった。
このほか、分科会A「災害をどう伝えてきたか」は、災害発生前の平時から取り組む防災、減災について議論を深めた。C「南西諸島有事とメディア」は米軍や自衛隊基地が地元にある新聞社の記者に加えて、沖縄県議会議員が基地に対する住民の受け止めや市町村間の温度差などについて報告し、質疑応答を行った。「新たな人権報道への試み」をテーマにしたDは、人権について読者や視聴者に考えてもらうために、記者が当事者として取材し、一人称の記事を書いた試みを報告。E「ネットでの配信とプラットフォーマーとの協働」は、言論空間の信頼性向上に向けたヤフーの取り組み、佐賀新聞社のデジタルファーストの方針やデジタル環境下でのジレンマや課題などを紹介した。「ジェンダー平等、現場から」のFは、朝日新聞社のジェンダー面の取り組みや番組制作にあったって日本テレビ内で寄せられた実際の相談案件などを報告した。
22日は、各分科会の報告を行った後、「大会申し合わせ」を採択。その後、若手記者による報告会が、▷『あな特』の取り組み――発想、展開、現状と統合編集▷こうのとりのゆりかご・内密出産について▷曖昧な運用続く 危険運転致死傷罪―時速194km交通死亡事故―▷被爆地ナガサキの現在地 継承の担い手とは▷大崎事件から考える地方メディアの在り方――の5つに分かれて行われた。
次回の全国大会は2024年10月3―4日に宇都宮市で開催する予定。