第43回「地方の時代」映像祭(2023年) シンポジウム「危機の時代に、メディアはどう立ち向かうのか?」

編集広報部
第43回「地方の時代」映像祭(2023年) シンポジウム「危機の時代に、メディアはどう立ち向かうのか?」

第43回「地方の時代」映像祭(主催=民放連、NHK、関西大などで組織する実行委員会)が11月18―24日まで大阪・吹田市の関西大で開かれた。「みんなの広場を取り戻そう」をテーマに掲げ、新型コロナ感染症が流行する前と同様に参加制限を設けずに開催。18日にコンクールの贈賞式やシンポジウムを開催したほか、翌19日にはワークショップを開催、23日には特別上映会を開き『拳と祈り―袴田巖の生涯―』(現在進行形版)を上映した。

18日のシンポジウムは「危機の時代に、メディアはどう立ち向かうのか?」と題し、テレビ新潟の大谷萌恵、名古屋テレビの村瀬史憲、NHK大阪放送局の持丸彰子の3氏に、記念講演を行った「無言館」館主・作家の窪島誠一郎氏を加えた4人が登壇。番組制作者の3氏がそれぞれ制作したドキュメンタリー番組をダイジェストで上映したうえで、「孤独・孤立が生む犯罪」「精神医療に見る人権侵害」「被爆体験の継承」などをテーマに問題意識を述べ、これを手がかりに議論した。司会はノンフィクション作家の吉岡忍氏が務めた。

ダイジェスト上映した番組は、大谷、持丸、村瀬の3氏がそれぞれ制作した『ドキュメント新潟 震える手~少年の転落 被害女性の孤独~』『ルポ 死亡退院 精神医療・闇の実態』『ゲンは忘れない』。

持丸氏は局内で2016年ごろから精神医療の取材班が立ち上がり、これまで3本の番組を放送したと説明し、東日本大震災のときに福島県で転院を迫られた精神病院の入院患者を取材して初めて精神医療の実態がわかったと述べた。取材を進める中で内部告発を受け、それが「死亡退院」の制作につながったと明かした。精神医療は、半世紀以上前に病院に隔離収容する政策が進められ、現在はその方針が変わったものの、医療現場ではそのままのやり方が残っていると指摘した。

大谷氏は、デイリーニュースで特殊詐欺を伝えたのがきっかけで、お金の問題よりも、高齢者の孤独・孤立、少年たちの居場所や存在価値を見いだせずにいる現実を描きたいと考えたと番組制作の理由を説明した。特殊詐欺事件が頻発する時代の背景には、「格差社会、不況、閉塞感があること。そして、SNSで他人との比較が容易にできる一方、自己肯定感が下がる面があるのではないか」と述べた。

村瀬氏は、被爆体験をテーマにした番組を制作した理由について、広島サミットを見ての違和感を挙げ、「広島平和記念資料館から首脳たちが出てきた時、数人が笑っていた。また、急遽ゼレンスキー・ウクライナ大統領が出席することでお祭り騒ぎになった感があるが、戦争の被害国であるウクライナ大統領の横に立っている日本の首相を見て、日本は戦争での加害について総括してきたのだろうかという思いと、被害国と加害国の代表が並んで献花しているように見えたことから、これを褒めはやしていいのかと感じた」など、問題意識を語った。

吉岡氏がダイジェストで視聴したドキュメンタリー番組について「壊れつつある社会が描かれていた。20世紀までは地域社会というものがあったと思う。それが息苦しさを生んでいた面もあるかもしれないが、いま見た番組には地域社会というものがなかった。コミュニティ、共同体の変化をどう見たか」と投げかけると、窪島氏は「現状では解決するきざしもない徒労感、無力感を感じる。いま、親や身近な大人などで子どもが見て奮い立つような人物がいないのではないか。SNSで"いいね"をたくさんもらいたいと数の勝負になっているところに根深い孤独がある」と応じた。

大谷氏は、「被害者が追い詰められている。失敗に対して不寛容な社会になっているからではないか。既定路線を外れた人に対する目が冷たい。セーフティネットであった家族の中で責められているケースがある」と、社会が壊れていると指摘した。持丸氏は、「この国には本音と建て前があって、命や尊厳は対等に扱われていないと取材を通じて感じる。隔絶された場所で起きたことだからと、多くの人が関心を向けていない。その隔たりを埋める作業をメディアがしなければいけない」と述べた。村瀬氏は、「人権よりも制度を重視する社会になっている」と持論を述べるとともに、「社会から外れた人は人間として認めなくてもいいという社会になってしまっている」と指摘した。

「これからのテレビはどのようなものをつくるか」との問いに、大谷氏は「複数の視点から取材し、伝えたい。世の中のことをもっと学びたい」。持丸氏は「今も精神病院の取材を続けている。自分も当事者として問題に蓋をせず、可視化する努力をして社会の問題にあらがっていく」。村瀬氏は「自分がこの仕事をしている理由は、戦争の芽を摘みたいから。これまで中国や米国、自衛隊などを取材したが、それは有事をどのように伝えるかということ。それを伝える言葉の用法を考えるべき。体感のあるテレビをつくっていきたい」と抱負を述べた。

最後に吉岡氏は「戦争体験について記した本はあっても、それを"直接語る"のを聞く機会はほとんどなかった。長野県の無言館に行き、戦争で死んだ人の肉声を聞いた思いがした。同じように、加工されていない肉声を聞きたいと思う。それを伝えられるのはドキュメンタリーだ。メディアの仕事は2つある。誰も知らないことを明らかにすること。もう一つは誰もが見ているなかに誰も気づいていないことを見せること」と結んだ。

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19日には、大学生・が参加する映像ワークショップ①「~見る目 作る目 私の目~」とワークショップ②「"生成AI"でテレビが変わる?」を開催した。ワークショップ①は、参加者が4~5人のグループに分かれ、番組企画を作り、発表した。ワークショップ②は、生成AIを番組制作に活用した事例や取り組みの報告から、今後の可能性や課題を議論した。

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