ネット中立性規則が米国で復活

編集広報部

米連邦通信委員会(FCC)は4月25日、ネット中立性規則の復活を民主党3対共和党2で決めた。これによりインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は、特定のウェブサイトをブロックしたり(ブロッキング)、速度を落としたり(スロットリング)、追加料金の支払いと引き換えにより高速なサービスを提供すること(有料の優先順位づけ)などが禁じられ、すべてのコンテンツを平等に扱うことが義務づけられる。

「Safeguarding and Securing the Open Internet(オープンインターネットの保護と安全確保)」と題された今回の規則は、バラク・オバマ政権時代の規則をほぼ踏襲している。ISPを1996年通信法におけるタイトルⅡの電気通信サービス(公益事業)に再び分類し、FCCの規制権限が及ぶようにしている。

2015年にオバマ政権下で制定され、17年にドナルド・トランプ前大統領政権下で廃止されるという党派性を帯びた同規則は、昨年9月に3人目の民主党委員が決まりFCCが定数に達してから、復活が既定路線とみられていた。

「見るものを制御するISPから消費者を守る規則」として同規則を支持していた、デジタル分野の課題に取り組む非営利組織パブリック・ナレッジ(Public Knowledge)は「市民を最優先した、消費者保護の扉を開く重要なもの」として歓迎している。一方、共和党およびISP側は「同規則の復活は投資とイノベーションを抑制し、消費者に打撃を与える」と批判している。

共和党は、ISPを規制する権限を持つのは議会だけで、新規則は違法な権限掌握だと非難。ISPの事業者団体USTelecomの代表は、バイデン政権が注力する「Internet for All」に水を差すもので、企業の意思決定に対する政府の不要な介入の一例だと反発している。また、NCTA(全米インターネット・テレビ連盟)のマイケル・パウエルCEOは、法的措置をとることを明らかにした。

ただ、同規則復活が消費者に与える影響はさほどではないとする見方もある。17年に規則が廃止された際にも、カリフォルニア州、ニュージャージー州、ワシントン州など10州あまりが独自にネット中立性規則を制定していたためだ。

FCCは同規則復活の必要性を主張するにあたって、主に中国がもたらす脅威を念頭に、今回新たに国家安全保障上の懸念を提起している ¹。ISPをコモンキャリアに分類できなければ、通信法214条に基づいて、外資系通信企業の米国内でのサービスを停止させる権限が制限され、利用者の位置情報などのセンシティブ情報を不正に取得される可能性があるというのだ。

今回の規則制定により、FCCはチャイナテレコム、チャイナユニコム、チャイナモバイルに対し、命令の発効から60日以内に米国での事業を停止するよう命じた。また、公共の安全やパンデミックなどの国家的危機に際して、ISPの問題に対処する権限も持つこととなった。

ネット中立性規則については政権交代のたびに反転している。過去15年、議会での立法化が試みられてきたが、実現していない。今回の規則制定についても、反対派が「重要問題法理(major questions doctrine)」を論拠に提訴するとみられている。行政機関の権限を承認するのは国民の代表たる議会であり、経済的・社会的に重要な問題については、議会の明確な承認が必要だという論理である。22年6月に最高裁判所は、環境保護庁(EPA)の温室ガス規制権限を制限する判断を下しており、ネット中立性についても同様の結論となる可能性は高い。

ほかにも今後、問題となるのはインターネットの範囲に関する定義づけだ。FCCは調査中であることを理由に明言を避けたが、専門的サービスについては「高速レーン」での運用を認めるとしている。ISPは自動運転や遠隔手術、自動制御の工場など、高速で低遅延の動作が求められる5G技術を用いたサービスの展開に取り組んでいる。この5G技術は、ネット中立性規則とは対極にある「トラフィックに優先順位をつける」という考え方に依拠したものなのだ。

消費者団体はこの例外的措置が抜け穴として利用されることへの警戒を示しており、電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)は、ネットワーク層を仮想的に分離する技術が用いられることで全体の速度が遅くなると指摘している² 。

これらの課題への対処以前の問題として、今回の規則制定が恒久的だと捉える見方は少ない。法的な結論を待つまでもなく、半年後あるいはその後の大統領選の結果次第では、規則はまた反転することも予想される。「議会が行動しなければ、規制のピンポンは永遠に続く」(非営利組織「TechFreedom」のベリン・ショカ理事長)といえよう。


¹  「米英でネット中立性規則が見直しへ/韓国はネット使用料に軸足も、デジタル経済の発展には冷水か」(民放online 2023.12.15)

² 「5G時代のネット中立性とは?~トランプ政権下の放送政策 その8~」(『民放経営四季報』122号、2019年12月)/『民放経営四季報』は民放連ウェブサイトの会員ページ(※閲覧にはユーザー名とパスワードが必要)に掲載しています。

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