マスコミ倫理懇談会 宇都宮市で全国大会開く

編集広報部
マスコミ倫理懇談会 宇都宮市で全国大会開く

マスコミ倫理懇談会全国協議会(代表理事=徳永康彦・日本新聞協会事務局次長兼企画開発部長)は10月3~4日、宇都宮市で第66回全国大会を宇都宮市で開いた。全国の新聞、通信、放送、出版、広告など75社・団体の215人が会場に集い、オンラインからも50人が参加、メディアが直面する課題を話し合った。

複眼的に報じること

初日の午前は「ジャニーズ性加害問題などに見る新聞社・テレビ局・出版社の問題点・課題とは」をテーマに、早くから故ジャニー喜多川氏の性加害問題を報じてきた「週刊文春」の元編集長で現取締役の新谷学氏が、元「週刊ポスト」編集長で日本雑誌協会の専務理事を務めたこともある坂本隆氏からインタビューを受けるかたちで進行(写真㊦)。問題の経緯をあらためて振り返りながら、さまざまに批判された「メディアの沈黙」の要因を「ジャニーズと仲良くしていれば得」という損得勘定が優先されたと分析。同様の判断は芸能関係のネタに限らず、政治や権力者の取材にも横行しているとした。また、ジャニーズや宝塚歌劇などファンクラブをベースにした商圏と支持層を有するネタを扱う場合、批判を許さない強固な"共同体"的風土が受け手だけでなくメディアにも根強いと指摘。ジャニー氏が日本の芸能界に果たした役割を認めたうえで、「ダメなものはダメ」と言える勇気と複眼的な見方で報じることが大切だと話した。

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「つながる」ことで克服

初日の午後は「災害報道」「実名報道」「人権報道」「ジェンダー発信」「政治・自治」「生成AI」「広告」の7テーマで分科会討議を行った。実名報道の分科会には軍事転用できる機械を不正輸出した容疑で逮捕され、後に起訴が取り消された大川原化工機の大川原正明社長が当初の"犯人視報道"などに言及。人権報道の分科会には2016年の津久井やまゆり園事件で重傷を負った尾野一矢さんとその家族が登壇し、同家族の取材を続けるTBSスパークルの福田浩子氏などと被害者取材のあり方などを話し合った。

本誌記者が参加したのは「ジェンダー発信」。今年で3回目となった新しい分科会だ。開催地の地元紙・下野新聞社が昨年1年にわたってキャンペーン報道を続けた「ジェンダー未来へ」の成果を報告。神奈川新聞社からは今年5月に公表した同社の「DEI宣言2024」(DEI=多様性〔Diversity〕、公平性〔Equity〕、包括性〔Inclusion〕)を紹介し、地域に立脚する新聞社としてジェンダー平等やコンテンツの多様化に足元から取り組んでいく意義を強調した。どちらからも、ジェンダー問題に取り組みたいという現場の声があっても、なかなか一歩を踏み出しにくい雰囲気が社内にあることを紹介。経営や編集の意思決定の場に女性やマイノリティが参画することの重要性が指摘された。

同分科会で放送の分野から報告したのはNHKエンタープライズの原田由香里・社会文化部シニア・プロデューサー(写真㊦)。2019年に『クローズアップ現代』で「性暴力」の取材にかかわったのを機に「発信したいけど、なかなか企画が通らない」という現場の声を見聞きし、「なら、キャンペーンを組んで発信していこう」と20年から「#BeyondGender ジェンダーをこえて」プロジェクトを立ち上げた。その結果、同じような悩みを抱える制作現場が連携することで、男女格差や性教育、性的マイノリティにちなんだ情報を横断的・継続的に発信できるようになってきたことを紹介した。NHKでは現在、10~11月と3月に関連番組を集中的に編成し、参画する番組も『おはよう日本』や『クローズアップ現代』といった報道・情報系だけでなく、『大奥』や『作りたい女、食べたい女』などドラマにも広がり、23年度に年間で放送したジェンダー関連番組は21年度比で約100本増の250本超になった。

DSC_3310.JPGまた、キャンペーンの情報サイト(外部サイトに遷移します)で関連番組の情報や見逃し配信のリンクをウェブで毎週更新。視聴者の反響を制作現場にフィードバックするとともに、アンケートにも活用して次の企画にも役立てており、NHK内の意識喚起にも大いにつながったという。さらに、この取り組みに在京民放テレビ6局(TBSテレビ、日本テレビ放送網、テレビ朝日、フジテレビジョン、テレビ東京、東京メトロポリタンテレビジョン)が賛同し、毎年3月8日の「国際女性デー」には民放との連動キャンペーンも実現した。注目すべきは、NHKのこの取り組みが上意下達や誰かの強力な旗振りで実現したのではなく、各部局や現場の小さな声が連携することで、自然発生的に立ち上がり、やがて大きなうねりになっていったということ。「発信しにくいと思っていたことも、いまでは社内や同業他社と"つながる"ことで意識が大きく変わってきた」と原田氏は話した。

2日目は各分科会の座長による報告と全体討論の後、「社会のメディア不信は高まっているが、民主主義社会を支える存在であるとのもと自覚のもと、読者や視聴者の期待と信頼に応える」との今大会申し合わせを採択した。来年の大会は福井市で10月9、10の両日開催する。

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