【2024年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】新しい気づきや考えるきっかけを与える テレビの存在意義示す

井上 知大
【2024年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】新しい気づきや考えるきっかけを与える テレビの存在意義示す

【10月10日審査】
審査委員長=夜久敏和(三井住友銀行 上席顧問、テレビ東京放送番組審議会副委員長)
審査員=新井茂和(アリナミン製薬 プロダクト戦略本部マーケティング部メディア戦略グループマネジャー、日本アドバタイザーズ協会理事・メディア委員会委員)
井上知大(毎日新聞 学芸部記者)
岡田惠和(脚本家、日本テレビ放送網放送番組審議会委員)
最相葉月(ノンフィクションライター、フジテレビジョン番組審議会委員)
田中東子(東京大学大学院情報学環 教授、TBSテレビ番組審議会委員)
野口聡一(宇宙飛行士、テレビ朝日放送番組審議会委員)
松井薫(I&S BBDO メディアビジネスグループ執行役員、日本広告業協会メディア委員会委員)
丸山玄則(朝日新聞 文化部長代理)
行成望美(時事通信 文化特信部記者)


8つの候補作は甲乙つけがたい良作が並び、議論は例年になく白熱した。

日本では認められていない安楽死を求める人々に迫ったフジテレビジョン『最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~』や、病気やけがで手足を失った方を技術によって支える義肢装具士の日々を見つめたワールド・ハイビジョン・チャンネル(BS12トゥエルビ)『#つなぐひと~わたし、義肢装具士になりました~』といったドキュメンタリーから、ラグビーやサッカーなど高校スポーツの強豪校として知られる東福岡高校の意外な一面を豊かに見せた福岡放送『地元検証バラエティ福岡くん。東福岡高校徹底解剖SPのような娯楽番組まで、硬軟多様な作品の数々。どれも視聴者に新しい気づきや考えるきっかけを与えてくれるものばかりだった。このほか、信越放送『SBCスペシャル 寅や』毎日放送『俳句×SDGsの未来教室』関西テレビ放送『春になったら』をそれぞれ強く推す審査員がいたことも記しておく。

見事、グランプリに選ばれた信越放送『SBCスペシャル 78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~』(=冒頭写真)は、太平洋戦争中の1945年に現在のマレーシア・ボルネオ島で起きた日本軍の無謀な移動命令によって起きた悲劇を掘り起こしたドキュメンタリー。被害者と加害者双方の視点と遺族たちの心の傷に向き合い、互いを理解し合う長いプロセスを丁寧に描いた。

今、「被害者」「加害者」と書いたが、戦争において、それは単純に分けられないことであり、ある意味、全員が被害者であることを突きつけられる作品でもあった。審査の中で、信越放送(SBC)という地方局が、一つのテーマについて何年もの取材を重ねたこと、さらに硬派で重いテーマであるにもかかわらず、ゴールデンタイムで放送したことを讃える声もあった。

来年は、戦後80年を迎える。本作でも重要な取材対象者が途中で亡くなるなど、語り部が少なくなっている。反比例するようにウクライナやガザで多くの命が失われ、日本国内では分断と憎悪、ヘイトが蔓延している。戦争の記憶は遠のき、危機が近づく今こそ、「戦争は終わっていない」と問いかける今作を嚙み締めたい。

記事中写真 TA_243_仮番1071_NTV「最高の教師」メインビジュアル(ロゴ無し).jpg

準グランプリは日本テレビ放送網『最高の教師 1年後、私は生徒にされた』(=写真㊤)。高校で起きた「いじめ」を扱ったドラマ。そこにミステリーやSF的な要素を入れドラマでしかできない表現で描いた。ともすれば長めな登場人物のセリフだが、その一言一言に現実世界にたたずむ問題を動かすかもしれない大きな力を感じた。審査において、連続ドラマの初回で判断する難しさを指摘する声もあった一方で、オリジナル作品である同作の魅力は大きいとの評価が集まった。

グランプリ、準グランプリの2作は、テレビの存在意義が問われる中、テレビという映像メディアだからこそ成しえたドキュメンタリーであり、ドラマであった。民放連賞として全国で再放送され、さらに多くの人に届くことを強く願う。


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