3期目突入を確実にした習近平指導部による管理統制強化がエスカレートする一方だ。その矛先はメディア・エンターテインメント分野、とりわけ巨大ネット企業に向けられている。昨年末に独占禁止法の改正・運用強化が宣言され、今年はアリババ、テンセント、バイドゥなど主要ネット企業が巨額の罰金を徴収されたほか、テンセントの出資先である動画配信企業間の経営統合が独禁法を根拠に差し止められる動きも出ている。
法・行政規則の整備も急ピッチで進められている。2017年サイバーセキュリティ法に続き、21年のデータセキュリティ法、個人情報保護法によりデジタル経済圏の基盤となるデータ3法が完成。これに加え、民間企業による報道事業を禁止するなど情報分野における党・国家主導体制が盤石になりつつある。
そして今、顕著なのが社会的規制強化の動向だ。「共同富裕」というスローガンのもと、企業や富裕層は社会還元すべきとの習主席による警告を受け、ネット企業はこぞって寄付を表明したほか、ネット通販のバーゲンセールで社会貢献色を打ち出すなど対応に追われている。また、社会的に認知度、影響力の高い芸能人・インフルエンサーに脱税で高額の罰金が頻繁に科されている。さらに親日・親台湾と目される女優の出演作品のクレジットが全削除されたほか「BLは不良文化、ゲームはアヘン」といった批判を党・政府機関が繰り広げるなど、価値観や美意識にまで踏み込んだ規制の嵐が吹き荒れている。
独占禁止法による規制、経済的規制、社会的規制という公的規制をフルメニューで展開しているわけだが、忘れてはならないのは規制対象が企業、著名人、一般生活者のいずれであろうと、最大の目的は党・国家にとっての不安定要素根絶と体制維持強化にある点だ。
米ハリウッドはテーマパークに注力
近年、米企業の中国資本・市場に対する過度の依存が問題視されている(4月米上院財政委員会公聴会)。中国の主張する南シナ海境界線が登場する米中合作アニメ「アボミナブル」、新疆ウイグル自治区の政府機関に対する謝辞をきっかけに物議をかもした「ムーラン」など、中国政府・市場に"忖度"した自主検閲の例は枚挙にいとまがない。
そうした中、ハリウッドが現在力を入れているのがテーマパーク事業だ。今年9月のユニバーサルスタジオ北京の開園に続き、11月にはパラマウントピクチャー(「タイタニック」「トランスフォーマー」など中国での大ヒット作品を多数保有)が24年に昆明でテーマパークを開業する計画が発表された。コロナ禍による渡航制限下でも国内消費を活性化するカンフル剤として中国側が期待している節もある。中国における映画興行の旨味が薄れつつあるハリウッドにとって、中国市場アプローチの主軸がテーマパークにシフトするかもしれない。
韓国企業への影響も決して小さくない。中国版ツイッター微博は今年、BTSやNCTなどK-POPアイドルのファンアカウントを一定期間停止する措置をとっている。「推し活」のためには団結力と行動力を発揮することで知られるK-POPファンの影響力を警戒した形だ。ただ、韓国はTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備以降、中国から報復措置として韓流コンテンツ規制(限韓令)を受けており、規制に対する「免疫」があると言えなくもない。韓流コンテンツは日本、中国のほか、東南アジアでも着実に市場を獲得してきた。さらに、最近はBTSや「パラサイト」「イカゲーム」に見られるようにグローバル市場における台頭が著しいため、中国による規制の影響は限定的だとの見方もある。コロナ禍で進めたオンライン化が奏功したことに加え、アップデートされた限韓令がさらに韓流ビジネスを成長させることになるのかもしれない。
日本企業にとってのチャンスとリスク
日本のメディア・エンターテインメント業界でも中国ビジネスを懸念する声は各方面で聞かれるが、吉本興業と中国メディアグループ、KADOKAWAとテンセントの事業提携に加え、日本市場における中国エンタメ企業の存在感の高まりは日中ビジネス連携の新たな形を予感させる。来年の日中国交正常化50周年に向けて両国内であれ第三国市場であれ、バリエーション豊富な日本コンテンツを活かしてチャンスを手繰り寄せたいところだ。
リスクへの備えも欠かせない。大連の京都風施設が文化侵略批判でたちまち営業停止に追い込まれたように、日中関係リスクは常に存在する。データ3法の「域外適用」が濫用されれば情報セキュリティリスクが増大するし、ハリウッドが直面する「自主検閲」「共産党への加担」リスクは、「日中友好」「文化交流」などの美名が持ち出されることの多い日本こそ注意すべきだ。そして、中国企業による最近の日本市場攻略ぶりからすると、広告考査基準や製作委員会など身近な実務面にも個社を超え業界として再点検すべき課題があるのではないだろうか。