「放送局がSNSとうまく付き合っていくために」 前編 SNS利用時に注意すべきポイント~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」②

國松 崇
「放送局がSNSとうまく付き合っていくために」 前編 SNS利用時に注意すべきポイント~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」②

このデータ(下図)を見れば分かるように、友人とのコミュニケーションから、広く社会に向けた情報発信まで、Twitter、Instagram、TikTok、LINEなどに代表されるSNSは、特に若い世代において今や日常生活に欠かせないツールとなった。これは放送局にとっても例外ではなく、例えば「バズった」投稿を探して番組のネタや企画につなげる、番組を見た視聴者の反応をチェック・分析する、あるいは番組や企画に関する情報発信のツールとして利用する、といったことは今や当たり前のように行われている。

【サイズ変更済み】令和2年度報告書(抜粋).jpg

<図. 【令和2年度】主なソーシャルメディア系サービス/
アプリ等の利用率(全年代・年代別)>

出典:令和2年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書
     (総務省情報通信政策研究所)

このように、われわれにとっては大変有効的な使い方がある一方、思わぬところで「トラブル」が生じるケースも見られるようになってきた。そこで、本記事では前後半に分けて、こうしたSNSの利用に関する基本的なポイントから、ありがちなトラブルの例、SNS(主にTwitter)をめぐる最近の裁判例などを紹介していきたい。

他人のSNS投稿を利用したいとき


番組の中で、他人のSNS投稿を利用する際は当然「著作権」や「肖像権」を意識する必要がある。投稿テキスト、写真、動画等には著作権があるし、そこに誰かが映り込んでいる場合は、当該人物には肖像権があるからだ。事件報道の際の使用など、中には許可なく使用しても問題ないケースもあるが、その判断には常に個別具体的な法的検討が必要となるうえ、一つのコンテンツに含まれる権利は決して一つではない可能性もある。したがって、番組等の中で使用する際は、著作権等に明るい人間によるチェック体制を構築しておくことが望ましい。

ここで注意が必要なのは、SNSに投稿した人間と、実際の権利者は必ずしも一致しないということだ。著作権はあくまでも著作物を創作した「著作者」に生じる権利であって、「投稿者=著作権者」である理論的必然性はない。また、著作権は他人にそっくり譲渡可能な権利であり、仮に「投稿者=創作者」ということが確認できたとしても、「創作者=著作権者」であるという保証は実はないのである。つまり、投稿者の使用許可さえ取れば安心して使えるというのはまったくの誤解であり、こうした運用は非常に危険であるということをまずは基本として押さえておきたい。

他人のSNS投稿を利用したい場合は、許可なく使用してよいケースかどうか識者によく確認したうえで、もし許可が必要だとの結論になったときは、投稿者を通じて、コンテンツの各著作権や肖像権の情報を一歩踏み込んで確認するように心がけるとよいだろう。

自らSNSに投稿するとき


職員やスタッフ等による個人的な利用も含め、放送局に関連してSNS上で発生しがちなトラブルは、①「著作権・肖像権(パブリシティ権)侵害」、②「名誉棄損」、③「中立性への疑念」、④「企業秘密や個人情報の漏洩」などである。これらについて、筆者が考える注意点を以下にまとめておきたい。

(1)著作権・肖像権侵害
著作物や誰かの肖像をSNSに投稿する行為は、放送とは別に、それ単体で立派な著作権等の利用行為にあたり得る。つまり、たとえ権利者から特定のコンテンツを番組で利用する(放送する)ことの許諾を得ていたとしても、そのことがSNSでの使用許諾を当然に含むとは限らないということだ。したがって、放送番組を切り出してSNS上に投稿する際は、厳密に言えば放送とは別に、必ずSNS上における投稿も含む形で著作権や肖像(著名人であればパブリシティ)権の利用許諾を得ておかなければならない。この点は、主要な出演者であれば出演契約によってカバーされていることも多いが、これに当てはまらない一般の方などの肖像やコンテンツを利用する際は特に注意が必要である。

(2)名誉棄損
名誉棄損や侮辱表現については、それ自体が犯罪にもなり得る行為であり、絶対に避けなければならない投稿である。ここで一つポイントを挙げるとすれば、名誉棄損は、投稿内容が公共の利害に関わるものであり、かつ公益を図る目的で投稿したという状況でない限り、仮に「真実」を述べたものであっても成立し得るということだ。特に個人のアカウントでついやりがちなことだが、例えば正義感から安易に誰かの行動をとがめるような投稿を行ったりすると、その事実がたとえ真実であってとしても、名誉を棄損したと判断される可能性がある。したがって、こうした投稿を行う際は、それが本当に公共の利害に関する事柄だといえるのかどうか、よく吟味して行うように心がけたい。

(3)中立性への疑念
個人アカウントの作成・利用は本来自由であるが、特に名前や所属等を明らかにしたうえで行われる投稿は、閲覧者から当該所属組織と一体として見られる危険性を孕んでいる。いうまでもなく報道機関を持つ放送局は、物事に対する客観的・中立的な視点を持つこと、つまり公平性が何より求められるが、例えば、個人のSNSアカウントとはいえ、報道記者が社会的な関心事(事件や政治ネタ)に対し、過度に偏った意見を投稿していたとしたら、その投稿を見た閲覧者はどのような感想を持つだろうか。都合よく個人の意見だと取ってくれる可能性はかなり低いだろう。こうした疑念はひいては放送局を支える国民の信頼性を揺るがしかねないことになる。ここまで極端な例は珍しいものの、放送局の仕事に関わる以上は、自分の投稿が閲覧者にどのように受け止められるのか、常に意識をしておくことが重要である。

(4)情報漏洩
制作過程や取材に関わる情報、あるいは顧客に関する個人情報は放送局の財産であり、その管理は社として厳格な運用が求められるべきものである。また、番組出演者に関わる情報(肖像写真やスケジュール等)は、本来本人や所属事務所の管理下にある情報だ。ところが、番組関係者と思われる個人のアカウントが、フォロワー受けを狙って、例えば制作の裏話を暴露したり、個人的に撮影した出演者の写真などを安易に投稿する例がしばしば見られる。こうした行為は、厳密に言えば放送局や所属事務所が保有・管理する情報の漏洩にあたりかねないものであり、社員であれば就業規則違反、スタッフであれば契約違反に問われる可能性のある行為である。また、それだけでなく、出演者の情報や写真投稿などは、突き詰めると当該出演者や所属事務所に対する営業妨害だと言われてしまうおそれもある。特に個人のSNSアカウントではどうしても気が緩みがちになってしまうが、こうした行為が最悪の場合は懲戒処分などにつながりかねないものであるという認識を持つようにしたい。

以上、前半ではSNS利用時に注意すべきポイントを中心に筆を進めてきたが、後半では、具体的なトラブルの例や対応策、SNS関連で押さえておきたい最近の裁判例などを紹介する。

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