日本テレビ「ジェンダーチームプロジェクト」 ジェンダーを身近に話せるメディアに

長谷部 真矢
日本テレビ「ジェンダーチームプロジェクト」 ジェンダーを身近に話せるメディアに

「なんか、モヤモヤするね......」。きっかけは報道フロアでの同僚との何気ない立ち話だった。時は今年2月、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の「わきまえている女性」発言が、私たちの働く日本テレビを含め、あらゆるテレビニュースで連日大きく報道されていた。

私自身、職場で耳にするジェンダーに関する発言に違和感を覚えることは何度かあった。ただ、その感覚は私だけのものかもしれないし、いちいち指摘することはよくないことなのかと思っていた。「自分が我慢すればいいのか」もしくは、「気にしすぎなのかもしれない」と。今思えばまさに、「わきまえる」ことが社会人として正しいと思っていたのだ。しかし、この森前会長発言が報じられた時、世間がいつも以上に怒りをあらわにしたように感じた。「もしかして、私が感じていた違和感は、多くの人も感じているのかもしれない」。そう思った私と同僚は、報道の仕事の中で自分たちが感じている憤りについて話し合った。「これは日常にもよくあるジェンダーの問題。メディアとしてもっと発信すべきだ!」

みんなで考える場を作り発信

思いついたものの何も知識のない私は、当時早稲田大大学院で「女性首長の政策とリーダーシップ」について研究中だった「news every.」の小西美穂キャスターと、学生時代は上野千鶴子ゼミでジェンダーについて学び、現在は価値観のアップデートがテーマの配信番組「Update the world」の企画・演出を担当し、またゲイの当事者として多様性などについて取材をする白川大介の元に駆け込んだ。そして私のモヤモヤについて2人に整理整頓してもらいつつ、「ジェンダーチームプロジェクト」を発足。その後、気付けば同じ問題意識を持ったメンバーの輪が広がり、最初は報道局内の数人の集まりだったが、今では60人が参加するようになった(11月18日現在)。年齢は20代から50代、女性36人に対して男性23人と、ジェンダーバランスは意外にも大きく偏らなかった。所属部署は報道局を中心に、社長室、コンプライアンス推進室、スポーツ局、情報・制作局、ICT戦略本部、アナウンス部、厚生労務部、編成部、グローバルビジネス局、日本テレビアート(テロップセンター校閲)などに広がっている。

プロジェクトのメンバー(=写真)は、コロナ禍で社内のメインツールとなったチャット上で、ジェンダーに関連する話題や提案、時には自社の番組についての意見などを活発に共有し、取材や出稿・放送につなげている。一番の利点は、例えばジェンダーに関する表現などで迷った時に「これどう思う?」と投げかけると、多様な価値観と経験を持ったメンバーからすぐに意見が返ってくることだ。時には、自分自身のバイアスに気付かされることもある。そのために年代も、仕事も、性別も違う人たちが自由に意見できる雰囲気があることを大切にしている。

発足以来、ジェンダーチーム発の取材企画を精力的に発信している。3月8日の国際女性デーには、小西が最年少女性市長となった内藤佐和子徳島市長にインタビューを実施。昭和女子大と駒場東邦中学校の共同プロジェクトの取材では、女子大学生と男子中学生が共にジェンダーバイアスについて学ぶ取り組みを伝えた。LGBTQなど性の多様性についても、メイクアップアーティストで僧侶の西村宏堂さんが発案したお寺向けのレインボーステッカーを取り上げた。

5月には社内でジェンダー勉強会を企画主催。東京大の瀬地山角教授を講師に迎え、社内各部署から400人以上が参加した。主に女性への偏った負担などを解説したこの会では、抵抗を感じた人もいれば「よく言ってくれた!」と賛同する人まで反応はさまざまだったが、メディアの役割である「発信してみんなで考えるきっかけを作る」ことを実践できた。

【サイズ変更】日テレ にじモ.jpg

<新しいお天気キャラクター「にじモ」>

勉強会で教授に指摘されたことの一つに、日テレのお天気キャラクター「そらジロー」たちのジェンダーバランスがあった。男の子は黄色とグレー、女の子はピンク。今まで考えたこともなかったキャラクターの"ジェンダー"について考え直すきっかけとなった。そこで、白川のアイデアをきっかけにこのチームの発案で誕生したのが、新しいお天気キャラクター「にじモ」だ。「にじモ」の色はLGBTQの象徴とされる6色レインボー。名前やデザインについてチーム内で意見を出し合い、「モ=too」という意味を込めた。今後は、コンプライアンス推進室やサステナビリティ推進事務局と共に、日テレのSDGsや多様性に関するメッセージ発信を進めていくことを目指している。

局の垣根を越えた活動

10月11日の「国際ガールズデー」には、昨年秋から活動しているNHKの「#BeyondGender」プロジェクトのメンバーと局の垣根を越えて座談会を開催。「これからの、テレビとジェンダー」と題して、ゲストにタレントのりゅうちぇる(ryuchell)さんを迎え、両局のテレビ制作者たちが番組内でのジェンダー表現や、取材を通じて見えてきた課題などについて語り合った模様を配信した。
 
そして、発足から半年あまりのこのタイミングで、ジェンダーチームのスローガンとして「Talk Gender~もっと話そう、ジェンダーのこと」を掲げた。テレビというメディアを通して発信する私たちから、「ジェンダーをもっと身近なものとして、まずは【話す】ことから始めよう」という思いを込めている。

今回のNHKとの試みは、社内外、特に同業者から多くの好意的な意見をいただいた。テレビ局同士、確かにライバルではあるが、ジェンダー問題は人権に関わる問題であり、多くの人に届けたい大切な課題の一つだ。一つの局だけよりも複数のメディアで呼び掛ければ、それだけ多くの人に届けることが可能になる。

「よくわからないけどモヤモヤする」。そんな私のような想いを抱えている人はたくさんいると思う。もしくは、自身は抱えていなくても、近くにいる家族や同僚は悩んでいるかもしれない。何が問題なのかを知ることによって少しでもその「モヤモヤ」を軽くできたら......そんな願いを込めて、これからも情報を発信し、皆さんがジェンダーについて気軽に話題にできる、そんなメディアを目指していきたい。

また、日テレはこの秋発表したサステナビリティポリシーで、2030年度までの女性管理職比率25%達成や、同性パートナー制度のグループ全体の導入を掲げた。情報発信だけでなく、私たち自身の多様性や、職場の環境などを見直すよいきっかけとし、「日テレは誰の視点も取り残していない」と言ってもらえるコンテンツを作れるよう尽力していきたい。

最新記事