みなさま、お元気でしょうか? 前回の連載から1年半たってしまいましたが、この連載、まだ終わっていませんよ!
再開の1回目は、9月1日防災の日にちなんで、"放送って役に立ってるの?"と題し「大災害とメディアの役割」を取り上げます。どこにいても携帯端末で緊急地震速報を受信でき、ネットメディアで災害の情報を集め、ソーシャルメディアで情報を交換できる時代です。それでもテレビやラジオは災害時に役に立っているのでしょうか? 前・後編の2回に分けてお話しします。
被災地限定の調査で検証
民放連研究所では、2011年の東日本大震災以降、16年の熊本地震、18年の北海道胆振東部沖地震、24年の能登半島地震と過去4回、大地震・津波時の避難行動、メディア利用行動、メディアが果たした(あるいは果たせなかった)役割・機能に関する調査を行いました。これからご紹介する調査は、いずれも地震や津波の直接的な被害があった自治体の居住者で、発災時にそこに居た人限定で実施したネットユーザー調査です。そのため、同じ災害とメディアに関する調査でも、首都圏や全国を対象とした調査、あるいは被災した県全域などで実施した調査とは性格が異なることに留意してください。
以下、可能な範囲で複数の調査結果を比較しながら、大規模災害時のメディア利用行動とメディアの役割を中心に見ていきます。
東日本大震災時から緊急地震速報は携帯で
図表1は、本震発生直前に緊急地震速報を聞いた手段を聞いた設問の集計です。2011年の東日本大震災の時から既に、緊急地震速報は8割から9割程度の人が携帯で聞いています。2024年の能登半島地震ではテレビで聞いた人も4割超と多いのは、元日の昼間という特殊な条件によるところが大きいと推測されます。いずれかのメディアで緊急地震速報を聞いた人の割合が、調査のたびに増えているのは防災意識の高まりを反映しているのかもしれません。
<図表1. 緊急地震速報を聞いた手段(複数回答)>
能登半島地震ではあらかじめテレビの津波警報に注目
東日本大震災と能登半島地震では大津波警報が発令されました。図表2は、大津波警報が出た東日本大震災と能登半島地震について、警報を聞いたメディア・情報手段を聞いたものです。どちらの調査でも全ての調査対象者の居住地区に大津波警報が発令されています。東日本大震災では、ラジオとテレビが約4割で最も多く、防災無線の3割弱がこれに続きますが、能登半島地震ではテレビが6割強と圧倒的に多く、防災無線と通話が2割強で続きます。
前に見たように、能登半島地震では発災が元日昼間であったため、多くの人がテレビを見られる場所におり、地震発生後にテレビが伝える情報にあらかじめ注目していた様子が伺われます(実際、調査の自由記入欄にそのような回答が多くありました)。"大きな地震があればまずテレビ"というマインドセットは現在でも失われていないことが伺われます。ただし、これには地震の直後に停電が発生した地区が東日本大震災よりは限定的だったことも関係しているでしょう。東日本大震災と比べたラジオの回答率の低さにはその影響があると考えられます。
また、能登半島地震で防災アプリの回答率が2割を切っていたのは予想外でした。地震により広い範囲で通信網が被害を受けた影響があったのでしょうが、それにしても、防災アプリの主要な役割が災害時の警報伝達手段であることを考えれば、回答率が低すぎる印象は否めません。
なお、能登半島地震で大津波警報を聞いた手段の回答に、年齢による違いはほとんどありませんでした。強いて言えば、ラジオだけは高年齢層ほどやや回答率が高くなる傾向がありましたが。
<図表2. 大津波警報を聞いた手段(複数回答)>
能登では、大津波警報を受けてすぐに避難した人が東日本から倍増
大津波警報を認知した人は、その後どのような行動を取ったのでしょうか。図表3は、大津波警報を認知した後の行動について聞いた設問の結果を、能登半島地震と東日本大震災で比較したものです(ひとつだけ選択)。能登半島地震での津波被害は、(結果として)東日本大震災に比べるとかなり限定的でしたが、東日本大震災では15%程度だった"他のことは何もせずにすぐ避難を開始した"との回答が、能登半島地震では約3割と最も多く、"避難の準備をしつつ、とりあえず様子を見た"が約2割で続きます。東日本大震災で最も多かった"自分は避難の必要はないと思ったが、家族等と連絡を取ろうとした"と答えた人は、元日で家族がそろっている世帯が多かったこともあってか1割以下です。
能登半島地震では、東日本大震災に比べて、大津波警報を受けてすぐに避難を開始した人が明らかに多かったと言えます。2011年の教訓が生きていたことのほかに、テレビで警報を聞いた人が多かった状況で、警報を伝えるアナウンスの口調、表現が命令調の強いもので危機感が伝わりやすかったことが寄与している可能性も考えられるのではないでしょうか。
<図表3. 大津波警報を聞いた後の行動>
避難のきっかけは"伝統的"な情報源
東日本大震災では聞いていなかったのですが、能登半島地震では避難のきっかけとなった情報源について聞いています。発災当日(2024年1月1日)、自宅・職場以外の場所に(一時的でも)避難した人は回答者全体の55.2%でした。避難した人に対して避難のきっかけになった情報源をひとつだけ聞きました(図表4)。テレビが最も多く、これに続く周りの人からの勧め、防災無線の3つが主要な情報源でした。インターネット経由の情報や呼びかけが避難のきっかけになったとの回答者は非常に少なかったのが特徴的です。
従来型の情報源が避難のきっかけになっていることがわかります。これはこうした情報源への信頼性の高さが影響していると考えることができそうです。事実、(後でもご紹介しますが)こうした従来からある"伝統的"な情報源はネットメディアやソーシャルメディアに比べて信頼性が高いことがこの調査でも示されています。
<図表4. 避難のきっかけとなった情報源(避難した人のみ回答、単一回答)>
前編はここまでです。後編では、メディア・情報源別の有用度や信頼度の評価と昨今大きな問題になっている災害時に出回るデマやフェイクニュースとメディア・情報源の関係について見てみることにします。