放送のインターネット同時配信利用のニーズを探る~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果①

木村 幹夫
放送のインターネット同時配信利用のニーズを探る~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果①

2020年3月、NHKは地上波テレビ放送の常時ネット同時配信サービスと見逃し視聴(キャッチ・アップ)サービスを組み合わせた"NHKプラス"を開始した。それまで日本では、一部の衛星放送の有料チャンネル以外では、インターネット上での放送の常時同時配信は行われていなかった。NHKプラスは日本における初めての地上波テレビ常時同時配信となった。民放については、一部の局によるトライアルを経て、2022年春には、在京社によるプライムタイムのネット同時配信が出そろう予定とされている。

一方、海外の多くの国では地上波、衛星を問わず、テレビ放送のネット常時同時配信はかなり以前から実施されている。2007年に開始したBBC iPlayerを皮切りに、現在では放送のリアルタイム視聴のリーチを補完する手段のひとつとして、英国だけでなく、多くの国で定着した感がある。

テレビ番組のVODや同時配信サービスは、視聴者にどのように利用されている、あるいはされるのだろうか。また、それにどのようなニーズがどの程度あるのだろうか。本稿では、3回に分けて、民放連研究所による受け手への調査結果などをもとに、日本における放送のネット配信に対するニーズと利用行動に関する考察を試み、放送のネット配信の在り方を考える際の参考としたい。また、この分野で先行する海外の状況を知るため2017年に米国、英国、ドイツで実施した放送のネット配信の利用実態に関する調査の結果も必要に応じて参照する。

  調査の概要

 ・調査対象地域
   日本全国(47都道府県)
 ・抽出方法
   調査会社の登録パネルから日本全体の性年齢構成に近づけるよう割当て(抽出条件なし)
 ・回答者
   15歳から69歳までの男女。20年調査、21年調査とも6,188人(有効回答数)
 ・調査方法
   インターネット調査
 ・調査時期
   20年調査:2020年3月27日(金)~29日(日)
   21年調査:2021年4月16日(金)~19日(月)

民放連研究所では、2020年3月下旬と2021年4月中旬の2回にわたり、日本全国を対象として、同一の調査手法、抽出・割付法、規模で放送の同時配信の利用意向や放送事業者によるVODサービス、SVODの利用実態などに関するインターネット調査を実施した。2回の調査の設問は全く同一ではないため、全ての設問で両者の比較を行うことはできないが、比較可能な設問についてのみ2回の調査結果を紹介し、そうでないものについては2021年調査の結果を紹介する。

なお、2回の調査とも、①調査対象者は回答精度の問題から69歳までに限定される、②インターネット調査はスマホで回答するため、回答者に占めるネットのヘビーユーザーの比率が大きくなる、などの特性があるため、日本全体の平均的な意識、メディア利用行動とは乖離がある可能性があることに注意されたい。

テレビ視聴の環境~SVODが大幅増~

まず、調査で聞いた基本的なテレビ視聴環境を図表1に示す。テレビ受像機の所有率(世帯)は2021年調査では、20年調査よりも若干低く、88.3%と9割を割り込んでいる 。一方、テレビのネット接続率(世帯で1台でも接続有、利用の有無は問わない)とSVOD契約率(世帯でひとつでも契約)はこの1年間でかなり伸びたことが伺われる。特にSVOD契約は1年間で13%程度増加している。Amazon Prime Video(20年23.5%→21年32.7%)、Netflix(20年6.9%→21年12.0%)のトップ2の増加率が特に大きく、それ以外のSVODは、20年0.8%から21年2.7%に伸びたDisneyプラス(20年時点ではDisney DELUXE)を除いて、全て1%未満の増加であり、増加したと判断することはできない。長らく欧米などに比べてかなり低かった日本のSVOD契約率は、コロナ禍が始まった前後から大きな増加に転じ、急速にキャッチアップしていることが推測される。

図表1.jpg

<図表1.回答者の基本的なテレビ視聴環境>

見逃し配信サービスの利用状況
~1人当たり視聴時間が増加

同時配信の前に、以前から行われていた放送事業者による見逃し配信サービスの利用についてみておこう。図表2は、地上波民放テレビに限定した見逃し配信サービスの利用経験の有無である。利用経験があるとの回答は2020年調査39.1%、2021年調査38.2%と統計的にはほぼ同じ水準である。図表3は、見逃し配信の利用経験者に視聴時間量を7つのカテゴリーで聞いたものだが、「週当たり1~3時間未満」が21年調査で明らかに増えており、「週当たり3~6時間未満」も2021年調査でやや増えていると考えられる。それ以外のカテゴリーに変化は見られないが、「ほとんど利用していない」は明らかに減っている。2020年春から2021年春までの1年間で、地上波民放の見逃し配信サービス利用者の数はあまり変化していないが、1人当たりの視聴時間は増えていることがうかがわれる。

図表2.jpg

<図表2.地上波民放テレビの見逃し配信利用経験>

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<図表3.地上波民放テレビ見逃し配信の視聴時間量>

SVODの利用状況
~契約者大幅増でも1人当たり視聴時間不変か

図表4は、同様にSVODの視聴時間量を示したものである。SVODについては2020年調査結果と2021年調査結果の間にほとんど違いが見られない。図表1で示したように、この間にSVODの契約率はかなり伸びている。視聴時間が多いヘビーユーザーが多いと考えられる初期採用者(契約者)に、それよりは視聴時間が少ないと考えられる多数派層が加われば1人当たりの視聴時間が減少するはずだが、ほとんど変化がみられない。初期採用者に続く層でも同程度の視聴時間になっているのか、コロナ禍で全体の視聴時間が増加して、それに続く視聴時間が少ない層の流入分を打ち消してしまったのかは、判然としない。ただ、今後、コロナ禍が終息するとともに、より視聴時間が少ないフォロワー層の契約が進むと仮定すれば、SVODの1人当たり平均視聴時間は、この先減少していく可能性が高い。

図表4.jpg

<図表4.SVODの視聴時間量>

地上民放の見逃し配信サービスの1人当たり視聴時間が増えているのは、コロナ禍による高い在宅率も影響しているだろうが、TVerなどのコンテンツ充実が影響していることも考えられる。一方で、見逃し配信の利用者数が変化していないのは、SVOD契約者数の大幅伸長が影響している可能性がある。全くビジネスモデルが異なる両者だが、可処分時間の奪い合いをする関係であることは言うまでもない。両者の競合関係が今後どう進展するのかは、現時点では見通しにくい。
  
次回は、本題であるネット同時配信の利用意向について詳しくみていくことにする。

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