同時配信の利用形態~もっぱら自宅で利用、テレビ受像機視聴も多い?~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果③

木村 幹夫
同時配信の利用形態~もっぱら自宅で利用、テレビ受像機視聴も多い?~同時/見逃し視聴サービスの利用意向に関する調査結果③

今回は、同時配信がどのような状況でどんなデバイスを使って見られるのかについての調査結果を紹介する。テレビをスマホで視聴可能な同時配信は、もっぱら外出先などで利用されるのだろうか?

テレビのない部屋ではスマホ、
リビングではテレビで

図表8に"地上波民放テレビの同時配信/見逃し視聴サービスをどのように利用してみたいと思いますか"との設問の集計結果を示した。前回紹介した民放テレビの同時配信利用意向に関する設問で、‟利用してみたい"と回答した人だけを対象に聞いている。‟そう思う"と‟ややそう思う"の合計が最も多かったのは、"自宅のテレビがない場所でスマホなどで利用したい"の68.3%、続いてほとんど差がなく‟自宅のメインのテレビで利用したい"の65.2%。一般的に同時配信の利用イメージとして挙げられることが多い‟外出先や移動中にスマホなどで利用したい"は55.7%であった。利用の場所ではないが、‟同時配信と見逃し視聴を組み合わせて利用したい"も68.5%と多い。前回述べたように、見逃し配信とのセットで利用したいとの回答が多いことがわかる。

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<図表8. 同時配信の利用の仕方に関するニーズ>

同時配信は見逃し視聴との組み合わせが前提とはいえ、テレビ放送と同一の内容である。それをわざわざリビングの大画面テレビで見たいとの意向がかなり多い。この結果は、どう解釈すれば良いのだろう?

実は、これは日本に固有のニーズではない。図表910は、2017年4月に実施した米国、英国、ドイツ(それぞれ本土の全域が対象)での同時配信の利用実態(意識ベース)に関するインターネット調査の結果である(回答数:3カ国計6,196、米2,065、英2,065、独2,066)。これら3カ国では、調査時点で既に数年以上前から、地上波テレビの常時同時配信が何らかの形で行われていた。どちらの図表も同時配信(設問では‟インターネットでのテレビ放送のリアルタイム視聴")の行為者だけに聞いた設問の集計結果だが、行為者率は3カ国合計で約60%にも達している。ただし、60%という水準はさすがに高すぎると考えられるため、実際にはテレビ放送だけでなくネットテレビ、あるいはオンデマンドの視聴も一部含まれている可能性がある。その点は注意が必要である。

この調査では同時配信を利用する場所とデバイスを分けて聞いている。場所については図表9にあるように、平日の利用場所でも自宅が3カ国全体で80%と断トツに多い。国による差異はあまり大きくない。自宅以外の場所は総じて10~15%に過ぎない。図表10は視聴に使用するデバイスについて聞いたものだが、3カ国全体でもっとも多いのはネットに接続されたテレビの56.4%、続いてPC43.5%、スマホ40.2%。こちらは国による差異が多少見られ、米国は他の2国よりすべてのデバイスの利用率が高い。

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<図表9. [2017海外調査]インターネットでの
リアルタイム放送視聴を行う場所(行為者)>

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<図表10.[2017海外調査]インターネットでの
リアルタイム放送視聴に使用するデバイス(行為者)>

自宅内で好みの形態で
海外では自宅内視聴の傾向が強い

図表11は米英独の同じ調査で同時配信を視聴する理由について聞いたもの。「自宅で好みの形態で視聴したいから」が40%以上で、3カ国とももっとも多い。「スマートテレビで利用可能なサービスを利用したいから」が30%程度で、これも3カ国とも2番目に多い。どちらも自宅内での視聴であり、後者はテレビ受像機での視聴のみが前提である。「外出先や移動中に利用したいから」は米国では26%あるが、英国は16%、ドイツは10%と少数である。

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<図表11.2017海外調査:インターネットで
リアルタイムの放送視聴をする理由(行為者)

実際にテレビ放送の常時同時配信が行われているこれらの国では、「自宅内での視聴が大部分。よく使われるデバイスはテレビが最も多く、スマホとPCがそれに続く」という傾向が共通して見られる。これらの国、特に米、英ではネットに結線されたスマートテレビの普及率が高いため、テレビでの視聴が多くなっていると考えられる。ちなみにこの調査では、調査時点でテレビを1台でもネットに接続している回答者の世帯は、全体で約60%であった(米65%、英62%、独51%)。

ネット配信への視聴流出の可能性は?

この連載の第1回でも見たように、日本でも米英などには遅れたが、テレビのネット結線率がここ数年急速に増加しつつある。テレビ受像機でネット配信を見る環境が整ってきたといえる。日本ではこれらの国とは異なり、PCでの利用は多くないと考えられるが、実際に本格的な常時同時配信が日本で始まった場合、これらの国同様、同時配信の行為者については、自宅のテレビや自宅内のテレビがない場所ではスマホで視聴することが多くなると予想される。スマホでの視聴は、その全てではないが、かなりの部分がテレビ視聴の純増になる可能性がある。一方、ほぼ全時間帯での放送の常時同時配信がほとんどの局で開始された場合、同時配信の行為者は、全体では(ネットユーザー限定のこの調査結果が示す以上に)少数派であり、加えてもっぱらテレビ受像機で利用する人はさらに限定されるとはいえ、テレビ放送の視聴からネット配信の視聴へと、いくばくかの視聴時間流出が起こる可能性は否定しきれない。図表8で見た日本の同時配信の利用意向を性年齢別に見ると、外出先や移動中のスマホなどでの視聴意向、自宅内のテレビがない場所でのスマホなどでの視聴意向は、男女とも30代以下に多く50代以上で少ない傾向があるが、自宅のメインのテレビでの視聴意向は、性年齢による違いがほとんどなく、どの層でも視聴意向が比較的高い。リビングのテレビでの同時配信視聴の行為者については、家族と一緒に複数で視聴し、見逃し配信やオンデマンドも含めて利用するテレビ放送視聴と同様の状況が想像される。

同時配信のビジネスモデル確立を

現在、テレビ広告取引で通貨として使用されているテレビ視聴率調査データには、ネット配信での視聴は含まれない。現在の推計範囲を前提とするなら、同時配信のCMはオンエアのCMとは差し替えて別途マネタイズしない限り、同時配信のコスト回収はおろか、テレビ受像機での配信視聴によって生じるかもしれない僅かな目減り分の補填もできないことになる。CM差し替えによるマネタイズが実現すれば、若年層を中心としたスマホでの視聴による増加分もある程度は期待できるので、テレビでの視聴による目減りが補填されるだけでなく、コスト回収へとつながっていく可能性はある。

同時配信のビジネスモデルについては、世界中でさまざまな試みが実施されている。既に10年近く前から、デジタルでの視聴をデバイス、プラットフォームを問わず測定してテレビ受像機での視聴に加算し、それを新たな通貨にしようとの試みはいくつもの国の視聴率調査機関で行われてきた。しかし、技術的な困難性に加えて、測定法や加算の方法などについてのコンセンサス形成の問題もあり、いまだ世界のどの国でも実現していない。そのような状況下、同時配信を見逃し、オンデマンドとセットにしてSVOD化している事業者も海外にはある。もちろん、見逃し・オンデマンド同様、同時配信でもCMを差し替えて収入を得ようと試みている事業者もある。確立されたビジネスモデルは存在せず、世界中でさまざまな試行錯誤が行われている段階である。日本でも試行錯誤から始まることになるのだろう。

ここまで3回にわたって同時配信の利用意向に関する調査結果を報告してきた。ところで、日本における地上波テレビ同時配信では、ほぼプライムタイム限定とはいえ、在京キー局の同時配信が全国を対象として行われる予定である。その場合、ローカル局の放送への影響はどうなるのだろうか? この調査では、2020年、2021年ともに、在京キー局に加えてローカル局も同時配信を開始したと仮定した場合、どちらがどのくらい見られる可能性があるのか? についても聞いている。調査結果は、同じくまだ紹介していないNHKプラスの利用意向に関する設問の調査結果とともに、近日中に改めて報告したい。

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