前回に続き、昨年出版された放送・メディア関係の書籍を紹介する。今回は、テレビに関する書籍5冊と雑誌の論考をまとめた。
「webちくま」での連載をまとめた松本創『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)は、民放ローカルテレビ3局と地方紙3紙を舞台に、近年話題となっている地方発の報道・番組の背景を深掘りした。民放では、斉加尚代(毎日放送)、山下洋平(瀬戸内海放送)、阿武野勝彦(東海テレビ)の各氏が手掛けた番組を振り返りながら、その取材や制作にかけた思いや問題意識を聞き出す。ドキュメンタリー枠の維持、調査報道の追求、番組の映画化など、それぞれの発信手法と、それを具体的に支えてきた組織の自由さにも言及する。また、地域に立脚する報道機関としての責務を自覚する上で鍵となった上司や元同僚、取材対象者らにも話を聞き、地方メディアの葛藤と希望を多面的に描写している。
独自路線のテレビ局
今年4月に開局50周年を迎える関東の独立局・テレビ神奈川(tvk)。兼田達矢『横浜の"ロック"ステーション TVKの挑戦 ライブキッズはなぜ、そのローカルテレビ局を愛したのか?』(DU BOOKS)は、キー局の番組がすべて視聴できる神奈川でtvkの存在価値を高めるため、キー局にはなかった音楽番組に活路を見いだしていった姿を描く。元「FMステーション」編集部の著者が、tvkで「ヤング・インパルス」「ファイティング80's」「ファンキー・トマト」などの伝説的な音楽番組を担当してきた住友利行(2011年退社)やスタッフら関係者の証言を交えてまとめた。これらの番組に出演した宇崎竜童、佐野元春、大友康平らミュージシャンも、当時の思い出やtvkへの期待の声などを寄せている。キー局へのカウンターとして自分たちにしかできない番組を作っていこうとする住友らの姿勢は、今後ローカル局が進むべき道への参考になろう。
『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)では、01年以降のテレビ東京の番組の秘密に迫る。社会学者の太田省一が同社の強みを「アニメ」「深夜」「旅と食」など独自に9つに分類し、100の番組を選び紹介・解説している。巻末付録には20年分の大晦日と元日の番組表を収めており、ここでも同社の大胆な編成が見て取れる。また、同じく太田の『水谷豊論 テレビドラマ史の相棒』(青土社)は、俳優の水谷豊の半生と出演作を取り上げた。タイトルにも使用されている水谷の代表作「相棒」はもちろん、子役としてデビュー以降、新たな潮流を生み出す日本のテレビドラマに出演し続けてきた水谷とドラマの関係性がうかがえる。
『テレビドラマの間取り』(立東舎)は、空間美術デザイナーの荒川淳彦が監修。「ロングバケーション」「HERO」「ビーチボーイズ」「過保護のカホコ」をはじめ、同氏が担当した18のドラマで使用されたセットを、「HOUSE」「RESTAURANT」などの4ジャンルに分けて紹介する。間取りだけでなく家具や部屋の照明などの細部にまでこだわった美術セットについて、制作のプロセスや作品に与える効果を解説。登場人物や組織の特徴をどのように表現しているかなど、セットに仕掛けられたテクニックを知ることができる。間取りの図版や写真も豊富に掲載されており、過去のドラマを違った視点で楽しめる。今後のドラマの見方も豊かになる一冊だ。
番組編集準則で論考も
『法律時報』21年9月号(日本評論社)に掲載された曽我部真裕「刑事裁判と報道――報道のあり方の変化と国民の理解」は、裁判員制度の施行から10年で公判報道の重要性が大きくなっていると指摘。一方で、報道機関を通じて裁判員制度への国民の理解を深めることには限界があるとの見方も示す。
同号の西土彰一郎「国民の知る権利と番組編集準則をめぐる憲法訴訟」は、NHKが放送法4条を遵守してニュースを放送する義務があることの確認を求めた訴訟の判決を基に、同条は国民の知る権利を充足・確認する法規範だと主張。番組編集準則に違反する番組を繰り返し放送した事業者に再免許が与えられた場合、裁判所で国民が争えるのは当然とも指摘する。
『ジュリスト』21年12月号(有斐閣)の特集は昨年の著作権法改正。放送番組のインターネット同時配信等に関する規定などを解説する。
(敬称略)