私が東京支社に初めて勤務したのは、約2年半前。新たな事業にトライしたいとの思いで、TBSテレビの協力も得て総務省の放送コンテンツ海外展開強化事業に取り組んだ。まず、愛媛と関係深い海外の中で頭に浮かんだのがハワイだった。2001年、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が、ハワイのオアフ島沖で米軍の原子力潜水艦に衝突され沈没し、高校生を含む9人が犠牲になった。事故の後、特派員としてハワイに飛び、現地の痛ましい状況を日本に伝え続けた経験は今も脳裏から離れない。
しかし、この痛ましい事故を契機に、地元の宇和島市とハワイ・ホノルル市は国際姉妹都市となった。そして、少年野球やフラダンスなどをとおして、官民を挙げての交流が始まり、活動は今も脈々と続いている。そこに、私たちも地元メディアとして交流を後押しする番組を模索したかった。
放送日は、事故からちょうど20年の節目となる昨年の2月。現地で9割の世帯をカバーするケーブルテレビ局の協力で、1時間の枠をいただいた。決して風化させてはならない痛ましい事故を振り返りつつも、未来志向の番組に仕上げたい。そこで、舞台を四国が世界に誇る文化遺産、四国霊場八十八ヶ所に設定。海外での人気も高まっているこの道を出演者が回りながら、四国の風景や文化、食を伝えた。もちろん、事故の後も続いている交流の様子や、歴史的なつながりも紹介。かつてハワイのカラカウア国王が来日した際、手厚くもてなした宇和島伊達藩に贈られた宝物を取り上げた。こうした番組を日米の双方で放送したことで、相互理解が深まったと確信している。
一方、番組以外では、事故を受け現地の大手スーパーで始まった愛媛の産品を展示販売するイベントを後押しする意味で、販売されている愛媛産品を県内で取材・編集し、PR動画を制作。会場で商品紹介として流し、知名度アップに一役買った。
こうした海外展開事業をとおして、普段「県域免許」の枠内にとどまっていた視野が一気に広がったのは確かだ。そして、ローカル局が地域の経済や文化交流のために何ができるのかを考える契機にもなっている。この事業の後、ハワイで得た知見をもとに第2弾として、マレーシアで愛媛の高級柑橘や観光地をPRする事業にも取り組み、愛媛柑橘の輸出増という実績も残せている。
「愛媛を海外へ!」地域とともに、そのウイングをさらに広げてゆきたい。