Spotifyに聞く ポッドキャストの魅力、放送局との関係

仲宇佐 ゆり
Spotifyに聞く ポッドキャストの魅力、放送局との関係

テレビ東京のドラマ「お耳に合いましたら。」(2021年7-9月、木、24・30-25・00)は、ポッドキャスト配信を始めた女性が主人公だった。

このドラマと連動するポッドキャストを配信したのがSpotifyだ。音楽ストリーミングサービスの最大手だが、2019年に「オーディオファースト」という新たな成長戦略を掲げ、音楽だけではなく、ポッドキャストを中心とした音声分野に投資を始めた。「コンテンツの強化」「ユーザー体験の向上」「クリエーターの支援」を3つの軸とし、現在Spotifyで聴取できる番組数は国内外で290万に上る。

今、注目を集めるポッドキャストの魅力はどこにあるのか、放送局との関係をどう考えているのか、スポティファイジャパン音声コンテンツ事業統括の西ちえこさんに話を聞いた。

――日本でも2019年にポッドキャスト事業を始められました。どんな方針で進めているのですか?

一つは、企業やクリエーターと協業してオリジナルコンテンツを展開し、音声コンテンツの新たな可能性を追求することです。テレビ東京との取り組みのほかにも、芸人のロバートさんと組んで音声だけのコント番組「秋山第一ビルヂング」を制作したり、雑誌と音声がコラボした「#聴くマガジン」という企画 を展開したり、アニメの声優によるコンテンツにもチャレンジしています。

もう一つはクリエーターの支援です。2021年6月に発表したプログラム「Sound Up」では、参加メンバーが企画、構成、編集などの音声コンテンツ制作の基本を学び 、ファシリテーターのサポートのもと、最終的には自身の番組のパイロット版を制作します。2021年は事前選考を通過した10人が参加しています。

【サイズ変更済み】ba69c869331a1779791edb7613ef1986.jpg

<テレビ東京「お耳に合いましたら。」と連動したオリジナルコンテンツ
「氷川きよしkiiのおかえりごはん」>

――ポッドキャストにはSpotifyオリジナルのコンテンツと、法人や個人が配信しているものがありますが、個人でポッドキャストを配信する人は増えているのでしょうか?

ポッドキャストの制作、配信ができる Anchor by Spotify というプラットフォームのユーザーは、今かなり増えています。世界的に見ても、日本は多いと思います。使い方は簡単です。アプリをダウンロードして音声を吹き込み、そのあとボタンを数回押せば配信できてしまいます。

今年8月には、このプラットフォームに「Music+Talk」という機能が加わりました。自分のトークの合間に音楽が挿入できる機能で、挿入された音楽が再生されると、そのロイヤリティはきちんと権利者に分配されます。

これも使い方は簡単で、自分が録音したトークと Spotify 上にある音楽を組み合わせて、あたかも自分がラジオDJになったかのようなコンテンツを作ることができます。今まで、音声コンテンツに音楽を使いたいという要望がソーシャル上でも多かったので、それを実現する機会になりました。

――ニッポン放送「オールナイトニッポン」をはじめ、ラジオ番組のアーカイブがポッドキャストで数多く配信されていますが、これはどういう仕組みなのですか?

私たちが採用して配信しているわけではなく、ラジオ局が主体となって配信しています。Spotifyのオリジナル番組の多くは、パートナーさんから頂いた提案を検討し、私たちの狙いやユーザーのニーズに合致するものを選んで企画・制作、配信していますが、ラジオ局などの法人や個人が配信しているコンテンツは、コミュニティガイドラインに反しない限り、一切のフィルタリングはしていません。

Spotifyは今までラジオの聴取者として想定されていなかった方々にも新たな方法でコンテンツを届けられる可能性を持っています。若いユーザーが多いのも特徴です。若い人たちに届けるには、彼らがいるところにコンテンツを置くのが近道です。これまでとは違う層に広がっていく仕掛けが作れるので、プラットフォームとしてうまく活用していただければと思っています。

――今月7日からは「Daily Picks」という、AIを使った新たな機能が加わりました。日頃の聴取傾向をもとに、個人に最適化された音楽とニュースで構成されるプレイリストを毎日キュレーションして届けるもので、先ほどの「Music+Talk」と同様にラジオと重なる部分が増えてきているようです。

ラジオの最大の魅力はライブ配信ではないかと思います。24時間、起きたことがすぐにコンテンツに反映されますし、ソーシャルメディアなどと連携して、臨場感のある双方向のコミュニケーションが可能という強みがあります。

それに対して、私たちはオンデマンドのサービスというスタンスです。海外では、SpotifyはGreenroomというライブトークプラットフォームも持っていて、Clubhouseの対抗馬と言われたりしていますが、現在は英語だけで展開しています。日本のローカルコンテンツをGreenroom上で積極的に展開するまでにはまだ至っていません。 

――現在のテレビ、ラジオをどうご覧になっていますか?

テレビやラジオの大きな利点は、上質なコンテンツを、無料で気軽にリアルタイムで楽しめることだと思います。ただ、ライフスタイルが多様化するなかで、リスナーはいつも同じ時間に同じ番組を聴くことは難しいかもしれません。マスではなく、細分化されていく個人のニーズにどう寄り添っていくのかは難しいところだと思います。自分の好きな時間に楽しめるradikoのようなサービスが支持を集めているのも、ニーズに合致しているからでしょう。

――radikoは放送後1週間までのラジオ番組が聴けますが、Spotifyはより長期間にわたって過去の放送を聴くことができます。競合する面があるかと思いますが、どう捉えていますか?

radikoはポッドキャストとも相性のいいプラットフォームだと思いますので、競合ではなく、win-win の関係になれると考えています。ラジオには魅力的な番組が多いので、放送後1週間だけではもったいない。ポッドキャストであれば、長期にわたって過去の放送コンテンツを楽しめるし、ユーザーの好みや聴取行動に合せて番組をおすすめして、新たに出会う機会を提供することもできます。これまでリーチできなかったリスナーを開拓する、使い勝手のいいツールとしてSpotifyを利用していただければと思います。

――テレビ局、ラジオ局とは、今後どのような連携を考えているのでしょうか?

パートナーとしてコンテンツ開発を継続していきたいと思っています。今、放送局やメディアからのお声がけがとても増えています。ラジオ局を持っていないテレビのローカル局から、ポッドキャストの活用について相談されることも多いですね。音声にチャレンジしたいけど何をしたらいいか、地元のスポーツチームを盛り上げるにはどうすればいいかなど、内容はさまざまです。

Spotifyは首都圏をはじめ特に都市部でよく聴かれていますが、個人のポッドキャスターには地方在住の方も多いんです。ポッドキャストや音声であれば、地方を基盤に全国に活躍の場を広げることもできるので、こうしたクリエイターの皆さんももっとサポートしていきたいと思います。

【サイズ変更済み】Spotify_蛻ゥ逕ィ繧、繝。繝シ繧ク_2.jpg

――最後に、音声コンテンツの魅力についてお聞かせください。
 
音声コンテンツは「ながら聞き」ができ、手軽に楽しめる一方で、リスナーとの距離感が近く、より濃密なコミュニケーションツールだと思います。顔の表情、仕草のような視覚的な情報がない代わりに、声の表情から感情や微妙なニュアンスが伝わります。コロナ禍で人との関係が希薄になるなかで、寂しさ、人恋しさに寄り添ってくれる絶妙な距離感があります。とくに今は個人の嗜好に寄り添ってくれるもの、自己肯定感を高めてくれるコンテンツが選ばれているので、時代のニーズに合っていると思います。

さらに、音声コンテンツは比較的安価に制作、配信できるのも強みです。ポッドキャストには、こうしないといけないというフォーマットの縛りも少ないので、日本のクリエーターの創意工夫で、従来の手法では思いつかないようなコンテンツがたくさん生まれてくることを期待しています。

誰でも気軽に配信できる仕組みを整え、ポッドキャスターを育成、支援するSpotify。YouTubeがそうだったように、発信者が増えることで音声コンテンツの用途、表現の幅は広がっていくだろう。オンデマンドのポッドキャストに対して、ラジオでは生放送のライブ感をどう生かすかが、今後ますます重要になっていく。

最新記事