長年親しまれてきた海外旅行用のガイドブック『地球の歩き方』が今年、札幌テレビ(STV)とタッグを組んで「北海道版」を制作した(7月20日既報)。『地球の歩き方』は2020年9月に「東京版」を発行したのを皮切りに国内版を展開している。今回、編集長の宮田崇さんと北海道版のプロデューサーを務めた今井歩さんに、コラボの経緯や制作の流れ、その中で感じた放送局の特徴や強みなどをうかがった。
きっかけは地元への熱い思い
――『地球の歩き方』はどういった書籍ですか。
宮田さん:『地球の歩き方』はガイドブックでありながら"学べる1冊"です。その国や地域を知るための情報が詰まっています。歴史や文化、その国で起きた出来事を前提に、こういうふうに歩いてほしい、真剣に向き合ってほしい、という思いが一冊の中に込められています。
――STV『どさんこワイド179』とのコラボのきっかけや経緯は。
今井さん:去年4月、STVのディレクターの北川智之さんから「北海道版を作るならお手伝いできないか」と問い合わせがありました。北川さんは熱い想いのある方で、「北海道がコロナで疲弊しているので元気にしたい」という信念をお持ちでした。その時、国内版のタイトル候補として北海道は挙がっていましたが、なにせ広大なエリアの取材は大変なので、発行はもう少し先と考えていました。ですが北川さんの熱い思いを受け、前倒しで制作することに決め、そこから発行までおよそ1年と2カ月かかりました。
<『地球の歩き方』編集部の宮田さん㊧、今井さん>
――制作の流れは。
今井さん:まずお互いに企画を提案するところから始まりました。そこから実作業に入る際に、私は『どさんこワイド』の過去の放送内容を拝見させてもらいました。すると、地元の人向けの情報番組ですがガイドブックに使えるネタがたくさんあることに気づき、そのネタがどのように本に組み込めるかを考えていきました。
STVさんからはコラボ放送などのご提案もいただき、合同取材を実施しました。富良野や小樽、札幌では、アナウンサーと一緒に考えたモデルプランを巡り、取材した内容はテレビとガイドブックそれぞれで活かしました。去年は緊急事態宣言や「まん延防止」の期間が長かったので、STVさん単独で取材してもらったこともありました。
もちろん、過去の放送内容の活用だけでなく、オリジナルの企画もガイドブックに盛り込みました。例えば「現場メシ」という巻頭特集は、スイーツに詳しいSTVのカメラマンとの立ち話で聞いた地元グルメの話が面白かったことから、取材で各地を飛び回るスタッフたちはおいしいお店を知っているはずだと思い、アンケートを取ってまとめました。「現場メシ」企画は『どさんこワイド』でも放送しました。
<『どさんこワイド』内で「現場メシ」特集>
全国区じゃないからこその強み
――北海道版の売上や購買層は。
今井さん:初版部数は5万部で発売後にすぐ重版がかかり、北海道の大型書店から「驚異的な数字」と言われました。購買層はSTVの視聴者が多く、アンケートでは「番組を見て買った」とか「STVのアナウンサーの写真が載っているページ目当てで買った」といった、放送がきっかけだという声がありました。また、『地球の歩き方』の長年の読者も買ってくれて、それぞれのファンに購入してもらった印象です。
地元密着型の番組とのコラボなので、全国の中でもやはり北海道でよく売れていて、地元の方にこれまで以上に買ってもらっています。以前制作した北海道のムックは、首都圏を中心に人口の多いエリアで売れる傾向があったので、今回もメインの購買層は首都圏在住者だと予想しましたが、実際は売り上げの7~8割を北海道の書店が占めています。
<『地球の歩き方 J05 北海道』表紙>
――実際にコラボして感じた放送局の強みは。
今井さん:過去の情報の蓄積がものすごいです。現地のテレビ局ならではの、なかなか入手できない素材をたくさんお持ちでした。例えば空撮映像はわれわれはなかなか撮ることができないので、上空からの写真も綺麗なものをガイドブックに載せることができました。
それと、情報に深みがあると思います。例えば五稜郭という有名な観光地がありますが、実は三・四・七稜郭も存在することを教えられ、コラムとして掲載しました。そういった深掘りした情報はコラボで得られたものだと思います。
宮田さん:ローカル局とのコラボは相乗効果が高く、全国区ではないからこその強みがあると思います。地元に根付いた番組が持つ蓄積と『地球の歩き方』が届けたいものは、実は似ています。『地球の歩き方』としては、そのエリアの歴史や文化、お店であれば老舗店、有名店をしっかり紹介します。それを「北海道版」でも行う上で、地元のことをよく知っている『どさんこワイド』は組む相手としてベストでした。
何よりも地元の人が一番関心を持ってくれるので地域の活性化に直結します。「北海道版」は地元の人たちが地域の良さを理解するガイドブックでもあります。発行前は想定外でしたが、"地元の魅力再発見"というコンセプトが明確になりました。
また、最初の撮影でファーム富田(富良野のラベンダー畑)を案内してもらいましたが、「コロナの影響で1年ほど来場者が大きく減った」という現地の声を聞けたのは、地元で長年放送してきた番組とコラボしたからこそです。その時にわれわれも北海道の力になりたいと思い、心がまえが変わりました。
今井さん:コロナ禍の北海道の現状を目の当たりにできてよかったです。普段は人が殺到するファーム富田に、人があまりいなくて「何かできることはないか」と心に火がつきました。
また、STVの村雨美紀アナウンサーと一緒に撮影した時、周りに人だかりができました。撮影前は番組がどれだけ地元で愛されているかを知らなかったのですが、生の村雨アナを見て泣いている人もいました。放送局と地元の人との距離感を最初の撮影で目の当たりにできたのはよかったです。
――今後、他の放送局とのコラボは考えていますか。
今井さん:お話があったらぜひ進めたいです。各地の放送局はわれわれ出版社が持っていない情報をたくさんお持ちなので、他のエリアでも活かせると思います。
宮田さん:全国の放送局の皆さんお待ちしています、どこでも作りますよとお伝えいただければ(笑)。
(2022年10月27日、『地球の歩き方』社内にて
/取材・構成=「民放online」編集担当・片野利彦、梅本樹)