TBSテレビのドキュメンタリー映画『戦場記者』 が12月16日(金)、東京の角川シネマ有楽町やヒューマントラストシネマ渋谷などを皮切りに全国で順次公開される。監督は、JNN中東支局長で今年ボーン・上田記念国際記者賞を受賞した須賀川拓氏(=写真㊤)。ロンドンを拠点にパレスチナやイスラエル、アフガニスタン、そしてウクライナと、世界各地で戦場の現実や翻弄される人々の姿を記録し、102分にまとめた。
TBSは2021年、ドキュメンタリー映画のブランド「TBS DOCS」を立ち上げ、ドキュメンタリーだけの映画祭を開催。今年の映画祭では、須賀川監督作品として『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』を公開した。パレスチナとイスラエルの衝突を捉えた同作をベースに、ウクライナやアフガニスタンでの取材の模様や監督自身の「なぜ戦地を取材するのか」といった思いを語るパートなどを盛り込んだのが本作だ。
「戦場で苦しんでいる人が主役であるべき」との考えから、タイトルも含めて記者である自身がフィーチャーされることには当初抵抗があったという。ただ、「報道はもっとオープンであっても良い。戦場や紛争をより詳しく伝えられるなら、こういったスタンスもありかなと思った」。事実を伝えることへのこだわりは、作中の「(紛争は)当事者だけでは解決できない問題だが、考えることをやめたらおしまい」「現地の生の声を記録することが自分の役割だ」といった発言にもにじむ。
<須賀川監督>
「テレビと映画では作り手としての緊張感が違う」と監督。「しっかり広げて気付きを提供する放送に対して、映画はモチベーションを持って見に来てくれる。背景の知識がある人にも刺さってほしい」。取材中でも、映画として成立するとひらめいたら機材や撮影方法を切り替え、余韻や間を活かしたインタビューなど地上波では使いづらい手法も採る。現場での判断のポイントは新規性や独自性だ。中東の出来事はどれも日本にとって新規性が高く、「映画化できるネタをあと3つ抱えている」と明かした。
ボーン・上田賞の受賞理由にもあるタリバン報道官へのインタビューなど、配信も駆使した長尺のリポートは監督の特徴のひとつ。「分からないことは分からないと伝える」「偏らずに見たままをありのままリポートする」姿勢は本作でも貫かれている。そのうえで、「記者は専門家ではないのでにわか勉強にならざるを得ない。だからこそ常に勉強し続ける必要がある」と、ネット時代の報道に一層求められるアップデートの必要性を説く。例えば、爆発がロケットによるのか空爆なのかといった違いが、場合によっては戦争犯罪に該当するかどうかを左右することがあるという。ネット上ではこのような事実関係への"突っ込み"が入りやすくなったものの、専門的な知見も手に入れやすくなり、きちんと報じられる可能性は高まったとみている。「ネットは諸刃の剣。戦場に関する情報は特に偏りがちだが、リテラシーが浸透して偏った意見が淘汰されれば、時間はかかるが良い流れに進むのでは」。
「自身を戦場記者だと思うか」と問うと、「そのカテゴリーに入ると思う」と応じる一方、「作中でも述べているが戦場に行きたい訳ではない。それぞれの正義が衝突し、人間の感情の極限が現れるのが戦場や前線」と、あくまでそこに住む人に光を当てたいとの思いをあらためて訴えた。
12月16、17日には角川シネマ有楽町で、16日にはヒューマントラストシネマ渋谷で監督の舞台あいさつが行われる。なお、TBSドキュメンタリー映画祭は来年も3月から開催する予定だ。