ローカル局から見る「TBS NEWS DIG Powered by JNN」 報道現場や放送に与えた影響

編集広報部
ローカル局から見る「TBS NEWS DIG Powered by JNN」 報道現場や放送に与えた影響

ニュースサイト「TBS NEWS DIG Powered by JNN」は、JNNが強みとしてきた調査報道などを中心に、系列28局が一丸となり、より深く・より分かりやすくニュース・情報を掘り下げ、ユーザーに届けていくことをコンセプトに、今年4月18日からスタートした。8月には月間1.3億PVを超えるアクセスを記録するなど成果を上げている。民放onlineでは、TBS NEWS DIGの担当者と、静岡放送、山陰放送、中国放送の3局を取材した。

TBSテレビ
「デジタルファースト目指す」

これまでJNN28局は地上波放送で全国にニュースを発信する一方、インターネットでは各局が個別に発信していたため、JNNのニュースが数多あるネット上の情報の中に埋もれてしまうのではという危機感から、系列局一丸となったデジタルでの取り組みを行うことになった。

JNNがNEWS DIGを始めるにあたって、これまでネットでの配信は放送を補完するものと考えていたが、"デジタルファースト"と意識を切り替えたという。ユーザーが最も利用しやすい形で情報を発信するために、放送の動画をただ配信するという形式ではなく、テキスト原稿を配信用に再編集し、動画だけでなく、そこから切り出した画像を挿入するなど、ネットへの最適化に取り組んでいる。

基本的に配信するニュースは各局の判断で、ページの編成をTBS NEWS DIG編集部が担当している。サイトのスタート前後には、各局の担当者による研修会を開催し、ネットでの発信における知見と意識を共有したほか、開始後にも定期的に情報交換を続けている。

開発担当セクションで統括リーダーを務める伊東康氏は「各局がどんなニュース・情報を発信しているかが、よくわかるようになった」とこれまでを振り返る。また、「系列局が一体となったニュース配信で、より多くのユーザーに各局のコンテンツを届けられるようになり、ニュースでのマネタイズもNEWS DIGを機に本格的に取り組み、知見を日々身につけている」とコメント。一方で、業務負荷の増大や人手不足、人材の育成などの新たな課題も生じているという。

NEWS DIGのコンテンツを放送に活用する流れも出てきている。他局のニュースを認知することが容易となり、報道・情報番組の"ネタ探し"や最新情報の確認に活用しやすくなったという。また、各地の記事を紹介するコーナーを番組内で行うケースがTBSテレビをはじめローカル局でもみられるようになった。

伊東氏は「今後もユーザーが求めているものを日々研究し、次の打ち手を考えていきたい。まずは秋以降、アプリの機能強化に取り組みたい」とし、「より多くの人に『まずはNEWS DIGを見る』と思ってもらえるよう、成長を続けたい」と考える。

静岡放送
「放送できなかった取材をネットで発信」

静岡放送はNEWS DIG開始後、ユーザーが欲しい情報が程よく届く状態を作ることを意識し、動画に頼ることなく、テキスト記事を多用するなど模索している。県内だけでなく、県外・国外のユーザーに対しても発信しているという意識が生まれたことが大きなメリットだという。

NEWS DIGでの発信をスタートしてからの最大の変化として、これまで「映像がないから」「テレビでは表現しづらいから」といった理由で発信できなかったニュースを、ウェブであれば記事にできることだとしている。例えば、8月9日に投稿された『「シンプルにおいしかった」子どももびっくり 食糧難時代の"救世主"⁉セミを食べてみた』は、地上波ではオンエアを見送った取材を記事化したもの。「生きたセミを油で揚げて食べる」というインパクトの強い内容を、SDGsの視点を持った原稿に仕立て、動画ではなく写真で表現した。

また、『「一生恨んでいる」"ジャンポケ"斉藤慎二さんの過酷ないじめ体験...「耐えること隠しちゃいけない」』には、多くの反応があったという。これは県内で行われた講演会を取材したもので、まずストレートニュースで放送し、その後にYouTubeに再編集版を投稿したところ、5日間で400万回再生された。これを読み物にすることでさらに多くのユーザーに届くのではと考え、放送から1週間後、NEWS DIGで発信した。デジタルであれば、取材者の思いを込められるとし、原稿を書いた20代の記者は現場で感じたことを素直に表現したそうだ。

報道制作局報道部の金國賢一氏は「これまでの取材活動は、オンエアに間に合わせるスケジュールで続けてきた。これがNEWS DIGによって"いつでも""どこでも"情報を発信できるようになった。記者からは、『ウェブ用に出します』という取材の売り込みも出てきている」と変化が生まれているとコメントした。

山陰放送
「BtoBの効果が絶大」

NEWS DIGによって現場の意識やモチベーションに大きな変化があったというのは山陰放送。エリア外への発信にあわせ、放送エリアだけで伝わるような言い回しではなく、ユニバーサルな表現にしている。なお、記事をより多くの人に届けられることで、モチベーションのアップにつながっているという。

また、系列の他局がどのようなニュースを報じているかをこれまでよりも圧倒的に早く・多く知ることができるようになったため、ヨコのつながりを強烈に意識するように。報道局報道部兼デジタル報道部の山本收氏は「もともと中四国エリアの局の間では定期的に放送素材のやり取りを行っていたが、それ以外とは頻繁に行っていなかった。NEWS DIGがスタートし、さまざまな局と放送素材を交換するケースが増えた。想定していなかったBtoBの効果が実は絶大ではないか」と手応えを語った。

『運転しながら「おにぎり」食べるのは交通違反?警察に確認すると...』の記事では、山陰内外からも多くの反響もあり、取材先の県警にも多くの問い合わせがあったようだ。車での行楽が多くなるゴールデンウィークにあわせ、地上波でオンエアし、それをNEWS DIGでも発信したところ、放送から少し時差があるネットでの"バズり"があった。なお、各局から放送素材の提供依頼があり、他の地域の視聴者からの反応も届き、地上波での広がりも実感しているという。

<『まさか!運転中に「おにぎり」食べるのは...交通違反になる可能性がある』

中国放送
「先人たちの財産を提供していく」

「私たちが知っている広島の魅力を、広島だけでなく、日本各地や世界に届けよう」との思いで取り組んでいる中国放送。NEWS DIGというプラットフォームの中に記事が並べられることで、ユーザーに品定めしてもらう機会が増えたと感じているそうだ。従来の地上波でのニュース番組が「一丁目一番地」というのは全く変わらないとしつつも、ウェブでは地上波の時間を待たずにニュースを出すべきタイミングで速やかに出すという姿勢で、放送とウェブの両立に取り組んでいる。

大きな反響があった記事として、広島に原爆が投下された直後の廃墟の広島で撮影された写真に写っていた少年を特集した『あれは77年前のわたし』が挙げられた。20年前にテレビの特番で呼びかけた際は反応がなかったが、今年その番組を再放送したところ、本人が名乗り出た。当人が今回初めて戦後を証言することに決めたのには理由があり、それを地上波に先がけてウェブで記事化したという。報道制作センターの増田み生久氏は「この記事に限らず『戦争』『被爆』といった過去の映像や体験談などへのユーザーの関心の高さに驚いた。先輩たちが残してくれた財産を地上波だけでなく、NEWS DIGでも提供していきたい」と語る。

<『あれは77年前のわたし』をYouTubeでも配信

なお、中国放送では、夕方のローカルワイド『イマナマ!』のニュース枠内にコーナー「深掘りNEWS DIG」を設け、自社の特集に加え、系列局の多種多様な特集記事などを放送している。

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