フランス、民放大手(TF1とM6)の合併ならず

編集広報部

フランス最大手の民放TF1グループと2番手のグループM6は9月16日、年内に国内承認を目指していた合併計画を断念したと発表した。直接の要因は同国の競争委員会(日本でいう公正取引委員会)の強い反対だ。

この合併は、2グループを所有する親会社(ブイグ社とRTLグループ)が、NetflixYouTubeなどの米大手配信プラットフォームに対抗するために「放送事業の統合」を目指したものだった。今春から承認審査が始まり、フランスの放送業界の近代化を目指すマクロン政権においては前文化大臣や現経済大臣が合併を支持する考えを公言した。しかし、競争委は当初から合併に懸念を表しており、2グループによる説得交渉が半年近くも続いたが、最終的に破談となった。

メディア集中規制法に従い、2グループは傘下のチャンネルを一部売却することにしたが、テレビ広告のシェアが市場の7割を占めていたため、競争委に対して、2グループの広告セールス部門の統合を最大3年延期する、出入り業社との配信契約を1年間延長するなどの譲歩案を出していた。競争委の懸念が払拭されないまま9月はじめに開かれた公聴会でも双方のギャップは埋まらず、競争委は、最終提案としてグループのメインチャンネル(TF1またはM6)の売却を「追加措置」として求めた。9月16日、TF1グループは、ブイグ社、RTLグループとグループM6とともに、合併案には「もはや戦略的合理性がない」として、計画の断念を発表した。あわせて、「仏放送業界をとりまく変化の速度とその度合いを当局が考慮しなかったことは遺憾」とコメントしている。

競争委も同日、合併承認申請の取り下げを受けて、審査の停止を発表している。その中で、「テレビは仏国民全体にとって非常に強力なメディア」であり、「広告主のメインターゲットとされる25歳から49歳の人々にとって、依然として強い影響力を持つ」と評価し、「無料放送の地デジチャンネルが複数集まる」新グループの市場パワーが、広告枠の販売価格の上昇やコンテンツ配信料金の上昇のリスクを招く恐れがあるとの意見を出している。また、動画産業が大きな変化に直面しているとの現状認識を示したものの、「オンライン広告は消費者がVODで個別に広告に触れるもの」であり、全ての人に同時に広告を流すテレビ広告とは異なるとの見方を示した。今回は、2グループが訴えるデジタルへの広告費の流出や競争力の低下よりも、広告主など、関連事業者が訴えた合併で生まれるテレビ広告市場の寡占のリスクが重視されたようだ。

RTLグループは収益率の高いM6グループを「売り急ぐ必要はない」としながらも、次の5月に免許更新という「微妙な」時期にある。更新後5年間は売却ができなくなるため、引き続き売却を検討しており、前回の入札で選考漏れした有料放送(カナルプリュス)の親会社ヴィヴェンディやイタリアのMediasetグループ(FKA Mediaset)、グローバル展開をしているフランスのコンテンツ制作グループ(Banijay)らが興味を示していると伝えられている。TF1との合併は流れたが、次の相手次第では、欧州のメディア勢力図が変わるかもしれない。

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