『週刊TVガイド』創刊60年 これからのよりよいテレビ情報流通のために

奥山 卓
『週刊TVガイド』創刊60年 これからのよりよいテレビ情報流通のために

『週刊TVガイド』が創刊して60年という月日が経ちました。プロダクトライフサイクルが30年と言われ、移り変わりの早い昨今のビジネス環境の中でここまで続けて来られたのは、ひとえに読者の皆さまと出版界ならびに放送局や芸能事務所の方々の助力のおかげだと感謝しております。

1962年の創刊時は、日本でテレビ放送が始まってから約10年が経過した頃。当社は『週刊TVガイド』を発行するまで、出版事業を全くやってきませんでした。テレビ放送の将来性を疑わなかった先代社長も当時の社員たちも、ゼロからのスタートで本当に苦労したと聞いています。まだまだテレビの家庭への普及率も低く、新聞のラテ欄だけで十分だと思われていた時代でしたので、「こんな雑誌は成り立たない」と言われていました。そんな中、先代社長との友情で何度も表紙に登場してくれた石原裕次郎さんをはじめ、多くの関係者に支えていただきました。

創刊時、放送局には新聞向けの翌日分の番組情報(ラテ欄として活用できるレベルの情報)しかありませんでした。そこで当社は、テレビ局に番組情報の取材を行うわけですが、編成部門にも確定情報がないため、ディレクターや脚本家に取材して枠を埋めていました。1964年の東京オリンピックの際は各局の放送スケジュールをまとめ、読者の評価を得て部数を伸ばし、収益化にこぎつけました。創刊から約10年後の1973年には「新聞のラテ欄も作ってくれないか?」との依頼があり、新聞社にラテ欄の配信業務を開始しました。これまた大変な作業で、最初の10年は大赤字だったと聞いています。

その後、テレビ誌の方は順調に部数を伸ばし、「一家に一冊」と言われるような段階に進んでいきます。この時には、前述の新聞ラテ欄配信事業も含め、競合社が現れてきました。特に大変だったのは当社からの社員の引き抜きで、社内は大いに混乱しました。しかし、競合が現れるということは、そこには当然大きな需要があるという意味であり、より良いものを産み出そうとする競争が生まれます。おかげさまで、当社の事業はその後ますます進化していきました。90年代のテレビドラマ全盛時代には、「人物関係図」や「最終回はどうなる?」などの企画がヒットし、「一家に一冊」に向かって道筋が見えてきました。さらに競争に勝つために、「一家に一冊」から「一部屋に一冊」を目標にブランド展開を進め、隔週誌『TV Bros.』、月刊誌『TV Taro』『B.L.T.』など、趣味嗜好に合わせた媒体を立ち上げていきました。

一方、創刊から40年が経つと、テレビ番組情報誌としての存在意義が問われるようになりました。2003年に始まったデジタル放送で電子番組表が画面上に表示されるのはもちろん、アメリカでは1986年にジェムスター社が電子番組表を開発し、モニターを席巻していきました。当社はジェムスター社と連携し、Gコードの普及やIPG社の設立に協力して参りましたが、紙媒体である『週刊TVガイド』の情報誌としての役割が90年代に比べて小さくなってきていることは明白でした。その中で当社が発行するテレビ情報誌は、番組情報のみならずエンターテインメント分野にもより力を入れていくことになります。さらには、定期発行媒体としての雑誌だけではなく写真集や書籍などにも事業を広げ、20年前には年間3冊ほどであったムックの出版を、年間200冊超まで拡大していきました。これらスピンオフ事業も合わせて、現在では年間300冊以上のアイテムを発行するまでに成長しています。

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<放送ライブラリーの企画展示「テレビとCMで見る平成・令和ヒストリー展2022」から

当社の今後の方針は、大きく言えば2点あります。1点目は、映像コンテンツ情報の総合商社に向かっていくというものです。テレビ番組情報の見られ方が変わったとはいえ、必要性がなくなったわけではありません。現在、コンテンツ市場はOTTなどの配信メディアも含めれば、とてつもなく広く深くなりました。そんな中、現在でも日本中の放送局の番組情報を24時間365日の対応でまとめ、多種多様な取引先に配信できる会社はわが社をおいて他にありません。業界の方のためにも、視聴者や読者の皆さまのためにも、混沌とした状況を整理しガイドすることが使命だと思っています。2点目は、エンターテインメント情報を核とした総合出版社としての側面です。歴史ある週刊テレビ誌をこれからも発行し続け、その他定期誌とムック、書籍も出版する会社として、Web3を取り込んだ事業を展開していきます。

当社が取り扱う情報ソースとしての映像コンテンツは、地上波からBSCS放送、専門チャンネルに広がり、海外のコンテンツが手軽に視聴できる環境が整い、OTTYouTubeなど、多様な配信プラットフォームが生まれました。視聴環境も、リビングに家族全員が集まり見る形から、各部屋に一台のテレビに。そして移動中でもどこでも、スマートフォンから自由に視聴できるようになりました。

このように多くの環境因子が変わってきましたが、「優良な映像コンテンツ」は変わらずに視聴されるはずです。私個人としては、素敵な番組を家族や仲間で集まりワイワイと楽しみながら見られれば最高だと思っています。最近は個で見る映像コンテンツが増えてきました。いえ、言い直します、増え過ぎています。昔は、家族だんらんの中心にはテレビがありました。「昔は―」という表現自体が若い世代に受け入れられない世の中ですが、人が集うことに普遍的な良さがあるのは明白です。もう一度そんなリビングの様子が家の中に作られるような映像コンテンツを、放送局の皆さまには作っていただきたいと切に思います。その「優良な映像コンテンツ」が多様なプラットフォームで発信される際、誰かが「ガイド」役になる必要があります。多種多様な放送形態と視聴嗜好。これらをつなぐ役割を担うのは、当社の責務です。

情報ソースである放送映像制作関連の皆さまには、良いコンテンツ制作を。

芸能事務所の皆さまには、素晴らしいタレントさんの輩出を。

出版取次・書店の皆さまには、より良い販売環境を。

それらをお願いし、当社はビジネスパートナーである皆さまと読者・視聴者をつなぐ良質な媒体として、日本で最初に発行されたテレビ誌であり、これからは唯一の週刊テレビ誌となる『TVガイド』を発行する会社として、引き続き精進して参ります。

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