30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。23回は広島ホームテレビ・岡森吉宏さんです。2024年に公開したドキュメンタリー映画『#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版』では監督を務めました。岡森さんには報道記者として地方政治を取材する中で感じることやテレビへの思いを語ってもらいました。(編集広報部)
子どものころから"大のテレビっ子"だった私は、テレビ局で働く今、思うことがある。「やっぱりテレビは面白い」ということだ。入社して6年、報道記者として働く中で感じるテレビの面白さをつづろうと思う。
地方政治取材にのめり込む
私は、これまでドキュメンタリー番組を6本制作したが、そのすべてが地方政治に関するもの。そして、全国区の知名度となった石丸伸二氏が市長を務めていた広島県安芸高田市を舞台に、地方政治をテーマにしたドキュメンタリー映画『#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版』(外部サイトに遷移します)も制作した。これだけ見ると、根っからの"政治マニア"なのではないかと思われるかもしれないが、全くそんなことはない。むしろ、学生時代は政治に疎く、選挙の際に投票に行っていたのかですら記憶が定かではない......。
そのような私が、なぜ地方政治にのめり込むことになったのか。それは「地方政治」=「テレビだからこそ映し出せる世界」だと感じたからだ。住民自らが選んだ首長・議員により、町づくりなどの政策が決められていく。住民にとって一番身近で生活に直結するはずなのに、なぜかこれまであまり報じられていなかった地方政治。しかし、一歩足を踏み入れてみると、めちゃくちゃ面白い世界が広がっていた。「議会には"オキテ"がある」と発言する議員がいたり、首長と議員同士のそれぞれの正義がぶつかり合ったり、そこはまさに"人間臭さの塊"だ。
マスメディアであるテレビは市民の代表として、地方政治のさまざまな場面で取材を許可される。市長に直撃取材したり、議員が議案の賛否に揺れる様子を取材したりと、地方政治の中心で今まさに起きていること、彼らの言葉・語気・仕草・表情――などをリアルな映像とともに、視聴者へ届けることができる。それがテレビなのだ。正確な情報を視聴者に伝えるという重要な責務の下、人間臭い地方政治のリアルを取材し、その内情を世の中に伝えていくことは、これまでになく刺激的で面白いと感じている。
私たちに求められること
私はこれまで安芸高田市政のほか、衆院選をめぐる大規模買収事件で公職選挙法違反(被買収)となり失職した地方議員に「政治とカネ」を問う番組など地方政治をテーマにした取材を多く行ってきた。
<筆者がディレクターを務めた『政治とカネと契りと議員 ~問い続けた4年間~』(2025年2月放送)>
その中で思うのは、「政治に興味がある人は多い」ということだ。「若者の政治離れ」「低投票率」などが叫ばれがちな現在において、真逆のような感想だが、考えてみてほしい。東京都知事選挙では候補者の動画がYouTubeで1億回以上再生され、兵庫県知事選でもネットを通じ異様な盛り上がりを見せていた。私の制作した地方政治をテーマにした番組もYouTubeで数百万回再生されたこともある。
皆が政治に興味がないわけではないのだ。ではなぜ「政治離れ」と呼ばれるのか。その責任の一端は、私たちメディアにもあると思う。前述のように、私は地方政治を取材することが面白いと感じているが、これまでテレビ報道で地方政治が多く取り扱われていたかと言われれば、必ずしもそうではないと思う。そもそも政治取材に壁は多い。テレビ局は、放送法で政治的に公平であることが求められている。そして議員側には、取材を受けること自体をリスクと捉える人も多く、密着取材ができるほうがまれだという状況もある。
<県内全地方議員に実施したアンケート>
この難しさゆえに、これまで地方政治を取り上げてこなかった現状は否定できず、その結果、視聴者が地方政治に触れる機会が減り、意識せずとも「政治離れ」のような現象に陥る。そのような状況にあったのではないだろうか。だからこそ、その地方政治から目を背けず、愚直に取材をし続け、放送し続けることが、テレビ局にとっても視聴者にとっても重要なのではないかと、今ひしひしと感じている。
テレビの強みとは
SNSやYouTubeなどのネット上には、政治を取り扱ったコンテンツが多数存在し、再生回数が数百万回超のものもざらだ。しかし、テレビ局の強みである「圧倒的な取材量」と「多面的な情報」を生かしたコンテンツは、その質においてネットに勝っていると思う。私もYouTubeなどの政治コンテンツをよく視聴するが、刺激的な瞬間だけを切り取った"切り抜き動画"など再生回数目当ての動画も多い。また、情報の真偽がわからないにもかかわらず事実であるかのように発信・拡散する動画や、断片的な情報だけですぐに物事の賛否を判断しようとするものが多くあると感じる。
しかし、テレビは違う。テレビの強みは、「長期間にわたる継続的な取材」を行うことができること。数カ月、場合によっては数年といった単位で、取材をし続けることで、1つの事象を描く中でも、その経緯や心情の移り変わりなど、複雑に絡まり合う背景を重層的に描くことができる。そして、もう一つ重要なのはテレビの情報は多面的だということ。もちろん公正を掲げ事実を伝える報道・ドキュメンタリーでは、特定の政党や政治家だけでなく、その他の政党や専門家などの第三者的意見、そして情報の裏を取り、多くの要素のもとで番組を構成していく。
そして何より、テレビ番組を制作するときには、記者・カメラマン・デスク・編集者・プロデューサーなど想像以上の多くの人が関わって1本の番組を構成する。さまざまな人の目をとおして番組ができあがるので、1人では抜け落ちていた要素もその過程で補え、必然的により多角的視点を盛り込むことになる。1時間番組の編集であれば1カ月ほどかけ、莫大な撮影素材を整理しながら「あーでもない」「こーでもない」と取り組む。編集が進むにつれて番組に厚みが出てくるのが手に取るようにわかる、その過程が私はとてつもなく楽しい。
<編集作業の様子、奥が筆者>
最後に、「テレビはオワコン、時代はネット」という言葉を耳にする機会も増えてきたが、私はそれでもテレビ局にはネットにはまねができない"面白いもの"ができる土壌があると信じている。これまでつらつらと書き連ねてきたが、ぜひテレビ局の制作するドキュメンタリーを見てほしい。そこには"面白いもの"がたくさん転がっているはずだ。
広島ホームテレビ制作のドキュメンタリーをまとめたYouTube再生リストはこちら(外部サイトに遷移します)。