U30~新しい風⑦ テレビ東京・町田拓哉さん「勢いのない今だからこそ」【テレビ70年企画】

町田 拓哉
U30~新しい風⑦ テレビ東京・町田拓哉さん「勢いのない今だからこそ」【テレビ70年企画】

テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星13社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。

30歳以下の若手テレビ局員に「テレビのこれから」を考えてもらう企画を展開します。第7回に登場するのは、テレビ東京制作局クリエイティブ制作チームの町田拓哉さん。演出を務めたバラエティ番組『盛ラジオ』で第60回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞を受賞しました。町田さんには、バラエティ番組制作の側面からテレビの将来を考えていただきました。


結論から言うと、「テレビのこれから」というテーマについて現状僕は明確な答えを持っていない。

この原稿の依頼をいただいたのは1カ月前。パソコンを開いては「今日じゃないな」と書くのをやめ、原稿の締め切りを過ぎた今も何を書けばいいのか正直迷っている。

近年、動画配信サービスの登場やエンタメの多様化により消費者の可処分時間の奪い合いが激化し、その中でテレビは変革を迫られている。しかし、テレビ業界人の多くがいまだに「なんだかんだ言って潰れることはないのでは」という、なんとなくの共通認識のもと、ふたをして答えを先送りし続けている。実際「これからテレビはどうしていくべきか」という問いに納得のいく答えを持つテレビマンにほぼ会ったことがない。

しかし、そんな中で新しい道を模索し、あらがい続けている人たちもいる。僕はそんな制作者たちと仕事をするたびに、テレビの可能性を感じてしまう。

ここからは、僕がそんな人たちと仕事をしてきた中で感じたことについて書いてみたいと思う。

僕がテレビ東京に入社してからの数年で、テレビ業界は大きく変わってきた。テレビ離れが加速し、全体的な視聴率が下がり番組予算も削減。視聴率の指標は「世帯視聴率」のほかに「個人視聴率」というものが登場し、動画配信の再生数などの別の評価軸も現れた。さらには放送外でのマネタイズなど新たな課題も増え、現場は軽い混乱に陥っていたように思う。

また、そういった変化に伴い配信も回りやすくマネタイズもしやすいドラマの制作が増え、新規のバラエティ制作は減りつつある。そんな状況下で、今バラエティにできることは何だろうか?

いかにテレビじゃなくなるか

若者にテレビについて聞くと「同じことばっかりやっている」という声が多い。実際そのとおりで、もちろん作り手側として変化はつけるものの、同じようなニュースや情報を取り扱うことも多い。

番組作りにおいても同様だ。過去の番組をまねたナレーション、はやっているカラフルなテロップ、なんとなく右上にワイプを入れる。元々は理由があってそうしていたはずなのに、テレビマンたちの多くがテンプレ化したフレームの中、思考停止状態で番組を作っているのだ。

それが「同じことばっかりやっている」、つまり既視感の正体であり、新しいエンタメを求める若者から敬遠される要因の一つなのではないだろうか。

ただし、この既視感というのは逆手に取ることもできる。定着したイメージがあるからこそ、そこから外れたものは目立つし、新たなコンテンツとなり得る。つまり「同じことばっかりやっている」は壮大な"フリ"にもなる。近年厳しくなっていると言われるコンプライアンスも同じ。厳しいルールは、その穴をついて新しいものが生まれる前のフリなのだ。

「テレビがいかにテレビじゃなくなるか」――それが今問われていることの一つのように感じる。

過去に僕が演出を担当した『盛ラジオ』という番組は、芸人がラジオ(音声コンテンツ)で話したエピソードがどのように盛られているのか? を、実際の映像と比較する検証バラエティだ。ラジオのためにロケを行い、その内容をラジオで話してもらう。テレビでのオンエア1週間前にラジオをSpotifyで配信。視聴者に事前にトークを聴いてもらい、ロケの内容を想像してもらった状態でテレビで実際のロケ映像を流し、答え合わせをするという仕組みになっている。

テレビだけでも内容が理解できるよう、テレビでもラジオの音声を流すのだが、そこでは一切映像を使用せず、芸人のコメントを書き起こしたテロップだけが映し出される。テレビといえばきれいな映像、おいしそうな映像などを流し、視覚で視聴者に訴えるのが基本だが、一切映像を使わずに情景を想像してもらうことで「テレビを耳で楽しんでもらう」という狙いだった。テレビとしての一番の強みをあえて放棄する。そのおかげで多くの人に注目してもらうことができた。

テレビをフリに新しいコンテンツを作ること、そしてテレビという枠の中だけに収まらず、ほかのメディアと掛け合わせることで新しい可能性が広がることをあらためて確信できた体験だった。

盛ラジオの実際の画面.jpg

<『盛ラジオ』の実際の画面>

ながら見させないコンテンツを

テレビは"ながら見するもの"というイメージを持つ人は少なくないのではないだろうか。自分自身もよく料理中の母がながら見していた記憶がある。このながら見文化も、テレビが苦戦している理由の一つだと思う。

YouTubeなど、より手軽にながら見できるサービスや、Netflixなどテレビと比較にならないくらい高額な予算をかけ、視聴者をとりこにする映像がいつでも見られるサービスが現れた。そんな中、今後重要になっていくと思うのが「視聴熱をどれだけ高められるか」だ。

最近でいうと、TBSテレビ『水曜日のダウンタウン』の「名探偵津田」第2弾はSNSを中心に大いに盛り上がった。没入して視聴できる物語性と、ふんだんに散りばめられた考察要素、さらには本編内で犯人逮捕のかぎとなった動画が何カ月も前からYouTubeにアップされているなど、細かい仕掛けで放送の枠を超えた部分で視聴者を楽しませていた。あの視聴熱を高める仕掛けの数々があったからこそ、注目した人も多かったのではないだろうか。

ほかにもテレビ東京『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』、Netflix『トークサバイバー』、DMM TV『大脱出』、ニッポン放送『あの夜を覚えてる』など多くのヒットコンテンツは、視聴熱が広がってヒットしたように感じる。いずれも気づいたら待ちに待ったドラマの最終回を見る感覚で視聴していた。

もはや放送物を"完パケ"するだけが番組制作ではない。放送に向けてどうしたら一人でも多くの人に興味を持ってもらえるか、放送後にどう次回を期待してもらえるか、「作品性を高めて」"視聴熱"を作るアイデアが必須になってくる。

ながら見できない視聴熱のあるコンテンツが無料で垂れ流されている状況になれば、テレビもまだまだ頑張っているなと思ってもらえると思う。

「ダメなテレビ」をフリに

テレビは「オワコン」と言われているが、僕はテレビにまだまだ可能性を感じている。20代のテレビマンはすでにテレビ離れが始まってから入ってきた世代で、テレビを舞台に新しいことをやってやろうという人であふれている。勢いのない今だからこそ生まれているチャンスもある。

「ダメなテレビ」をフリにして、新しいテレビを作っていきたい。

制作裏側風景①.jpg

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