テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星13社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。
30歳以下の若手テレビ局員に「テレビのこれから」を考えてもらう企画を展開します。第2回に登場するのは、CBCテレビ(ケイマックス出向)の尾関美有さん。プロデューサーを務めたドラマ『スナイパー時村正義の働き方改革』(2020年)で民放連賞最優秀と文化庁芸術祭優秀賞を、『マクラコトバ』(2023年)で民放連賞優秀を受賞しました。尾関さんには、ドラマ制作を通じて感じるテレビ、特にローカルテレビ局の可能性を考えていただきました。
映画やドラマが何よりも好き
CBCテレビには、ドラマ部がありません。レギュラードラマ枠が存在せず、ドラマを生業にはできないからです。私は入社1年目から制作に配属されて以降、情報生ワイド、バラエティ、音楽、ドキュメンタリーなどあらゆるジャンルの番組を担当しながら、年に1、2本のドラマ制作に携わってきました。「映画やドラマが何よりも好き」――理由はただそれだけでした。
初めてドラマに携わったのは2017年放送の『金の殿〜バック・トゥ・ザ・NAGOYA〜』という深夜の連続ドラマです。「キッズ・ウォーシリーズ」などに代表されるCBCテレビの昼ドラ枠が終了してから、1年に1本の全国ネットドラマ以外ではCBCテレビにとって約8年ぶりの連ドラでした。それから毎年、深夜の連続ドラマと、全国ネット単発ドラマのプロデューサーや演出などを担当してきました。
<バラエティ番組制作の現場>
"半端もん"だからできる発想
ここでは、2つのドラマについて紹介します。コロナ禍がピークを迎える直前に撮影した『スナイパー時村正義の働き方改革』(2020年)は、"スナイパー会社"というファンタジックな世界の中に、現実社会で起こっている働き方改革にまつわる苦悩を織り込んだワンシチュエーションの二人芝居で、以前よりご縁のあった脚本家の政池洋佑さんや吉村慶介監督と共に作りました。
政池さんは元々バラエティの放送作家でもあり、吉村監督も普段はバラエティ畑の敏腕ディレクター。私も普段はバラエティなどのプロデューサー・ディレクターをしており、良くも悪くもドラマ一筋でないわれわれならではのアイデアだからこそ磨けた作品だと思っています。
<吉村監督㊧と筆者>
『マクラコトバ』(2023年)も同じく二人芝居のワンシチュエーション会話劇で、ピロートークという共通設定で各話15分×8夜連続という特殊な枠で企画しました。今作では地上波視聴率以上に、まず興味を持ってサムネイルを選択してもらえる題材と尺、何話からでも見始められる物語の構造を意識しています。
結果的に15分というサイズは、大きく緻密な物語を動かすことはできませんが、その規模の中でひとつの"ドラマ"を作ることは十分可能ですし、何より見やすく、新たなコンテンツ制作の可能性を感じるものでした。そして若手の役者やスタッフたちが挑戦できる一つの土壌としてこの作品を作れたことにも手応えを感じました。
<『マクラコトバ』藤井監督、吉村監督、筆者、内畠プロデューサー>
こういった超低予算のワンシチュエーションドラマである『スナイパー時村正義の働き方改革』や『マクラコトバ』が、民放連賞最優秀など数々の賞をいただいたことは、とても励みになりました。というのも、冒頭で触れたとおり、CBCテレビにはドラマ部がありません。だからこそ引け目やコンプレックスはあります。キー局プライム帯のようなドラマは作れません。しかし、二足、三足、四足のわらじの"半端もん"だからできる発想、そして低予算ならではの新しい企画と効率的な撮り方を生み出せることは、ほかにはない強みだと思えるようになったのです。
"普通"の撮り方じゃないかもしれなくても、われわれにとっての正解を探し、それを面白がって全力を尽くしてくれる脚本家や監督、キャストと出会えていることがとても幸せです。またクリエーターに限らず、この時代の先をゆこうと新たなビジネスの可能性を探ってくれるビジネスマンたちと企画を生み出す作業に、ワクワクする毎日です。
コンテンツを作り続けるために
「ビジネス」という言葉は制作者から程遠いような堅い言葉で、確かに私はビジネスマンとは言えません。しかし同様に、ただ面白いものを作ればそれが正義であるという制作者にもなれる気がしない、なりたくないのです。ディレクターとしてカメラを担いで山も登るし、徹夜で編集もします。プロデューサーとして企画書を書いたり営業もするし、お金を生み出すための方法を日々模索しています。仕事も番組ジャンルもさまざますぎて脳みそがこんがらがることも多いですが、その仕事はどれも魅力的で、どれでもできることがローカルテレビマンの特権であり強みだと確信しています。
昨今は、テレビマンですらテレビの前に座ってリアルタイムで連続視聴する習慣はほぼなくなりました。さらにその上で、あらゆるプラットフォームに見たいコンテンツが多数ある世の中になり、長尺の連続ものを集中して見ることに若干の疲れを感じてきているのも事実です。「見たいものが見たい時間に好きな時間だけ見られる」便利さの反動ともいえるかもしれません。
制作者にとって、骨太な良作を作り続けることも、腰を据えて見ることも必要ですが、そういった作品はわれわれローカル局の土俵ではないと感じています。代わりに、数多くあるコンテンツの中で、社会の流れに敏感に応じたり逆らったりしながら、タブーや失敗を恐れず挑戦的な一歩目を踏み出せることがローカル局の伝統的な器です。そしてコンテンツを作り続けるために新しいビジネスモデルの可能性をいち早く察知し、実践していくことが今後ローカル局が生き残るために必要なことだと思っています。
心に刺さるものを
2021年7月より、CBC(中部日本放送)のグループ会社である制作会社のケイマックスに出向し、テレビ業界を客観的に見られるようになったことも前述の考えに影響しています。
ここ数年、配信プラットフォームがコンテンツ強者となったことで、各局がドラマ枠を増やし、放送局はコンテンツホルダーとしての強みを活かそうとしています。そのため、制作会社はとにかく制作物が増える状況です。
さらに視聴率以外の指標が増え、番組ごとにその価値を見いだす必要がある昨今の番組づくりでは、何を目的として、何を数値化し、何をもって「成功」といえるのか? 案外曖昧なことが多く、息苦しくもあります。
しかし地上波にとどまらない今の時代だからこそ、その曖昧さのすべてが可能性だと思っています。つまり、なんでもできる。未来の選択肢が多すぎて作業が追いついていないぐらいに。配信が回ればいいだけじゃない、イベントやるだけじゃない、グッズ作るだけじゃない――国民総クリエーター時代などと言われて久しい今だからこそ、数多くのクリエーターやビジネスマンと手を組みながら、自分もいち制作者としてたった一人だとしてもその人の心に刺さるものを作る。その信念だけを忘れなければ、テレビ局は良いコンテンツが生める力があると、まだ信じています。
ドラマ制作の現場はとても過酷で、時間もお金もかかります。しかし何より、CBCドラマ班が長らくつないできてくれた伝統を絶やさずつないでいく使命を胸に、作り続ける努力をしていきます。
<民放連賞最優秀受賞時>