Z世代はテレビよりYouTube!なのか?「データが語る放送のはなし」㉘

木村 幹夫
Z世代はテレビよりYouTube!なのか?「データが語る放送のはなし」㉘

前回に続いて、2023年3月に民放連研究所が実施した、放送のネット配信へのニーズに関する調査の結果をご紹介します。今回は、テレビと動画配信、YouTube の利用率、視聴時間に関する部分の調査結果です。

テレビの利用率は87%、動画は82%、YouTube 74%

まず、テレビとネット動画の利用状況を確認しておきましょう。図表1は、平日の平均的なテレビ(テレビ受像機の他、チューナー付きPC、ワンセグ、車載テレビ、屋外・外出先でのテレビ視聴を含む。テレビでの録画再生視聴も含むが、テレビ番組・放送のネット受信での視聴は除外)の利用率とネット動画(YouTube、各種VOD、ネットテレビ、SNS、TikTokなど)利用率、YouTube(デバイスを問わない)のみの利用率を、全体と性年齢別に示したものです。全て"平日1日あたりの平均的な"利用率とお考えください。なお、以下のデータも同様ですが、これらはログ解析や日記式調査に基づくものではなく、選択式の設問の回答ですので、実測値ではなく、意識レベルでの回答です

図表1.jpg

      *各性年齢層別の回答者総数に対する利用者の構成比。

<図表1.  性年齢別のテレビ、ネット動画、YouTube利用率(平日1日あたり)>

全体のテレビの利用率は87%程度です。ネット動画は82%ですからテレビの方がやや高い程度ですね。YouTubeの利用率は74%程度と4人中3人は利用しているとの結果です。

ビデオリサーチのデータでは、テレビとYouTubeを含む動画サービス全体の利用率(直近1カ月間)はほぼ同程度で、テレビ87%、動画サービス85%です(東京50km圏、12-69歳、2022年5月時点:ビデオリサーチACR/exより)。ここでご紹介している調査の実施時期はビデオリサーチのデータの約10カ月後で、対象地区がACRの東京圏に対して全国という違いもありますが、テレビについてはACRデータと同じ水準ですね。ネット動画についても、これもほぼ同じ水準と言えるでしょう。ビデオリサーチのACR/exとこの調査では、調査法だけでなく聞き方がかなり異なるので、この調査結果は、(自分で作成し、実施しておいて何ですが......)ACR/exよりも精度が低いと考えざるを得ないのですが、ほぼ同様の結果になりました(たまたまですかね~)。

男女とも10代・20代ではYouTubeの利用率がテレビを上回る

この手の設問でいつも注目される若年層で見るとどうでしょうか? 20代では、テレビの利用率は女性では82%ありますが、男性では70%しかありません。女性のテレビの利用率は30代・40代が90%弱、50代・60代では90%を超えていますが、男性のテレビ利用率は50代で90%弱、90%を超えるのは60代だけです。男女ともに、10代を除いて年齢層が下がるとテレビ利用率が低くなる傾向ですが、女性の場合は下がり方が男性よりも緩やかです。

ネット動画利用率については、テレビとは逆に年齢層が下がると概ね利用率が高くなりますが、女性の方が、よりきれいにその傾向を確認できます。YouTubeについては、男女ともに年齢層が下がると、ほぼきれいに利用率が高くなります。

男女とも、10代・20代ではYouTubeの利用率がテレビを上回っています。特に男性では大きく上回っていると言っていいでしょう。これは予想されたことではありますがあらためてデータで確認できました。M1はテレビ視聴率が最も低い層で、さらに20代男性一人暮らしは、テレビの所有率自体が最も低い層ですので意外感はないのですが、男性20代のテレビ利用率の低さは突出していますね。この辺はもっと詳しい調査やインタビュー調査などで深掘りする必要がありそうです。

全体の視聴時間ではテレビの方が長い

図表2は同じ設問の結果から、回答者の平日1日あたりの平均的なテレビ放送視聴時間とYouTubeの視聴時間を対比させて示したものです。なお、このデータはテレビについては全員回答(6,188人)ですが、YouTubeについては、ネット動画の視聴者だけ(5,054人)が回答したことに注意してください。つまり、テレビの母数は全回答者ですが、YouTubeの母数はネット動画の視聴者(全回答者の約82%)です。

図表2.jpg<図表2.テレビとYouTubeの視聴時間(平日1日あたり)[全体]>

YouTubeの最頻値は「1日あたり30分未満」、テレビの最頻値は「30分以上2時間未満」です。YouTubeは「30分以上2時間未満」も34.2%とかなり多くなっています。しかし、全体としてはテレビの視聴時間の方が長いことが推定され、テレビ視聴時間では2番目に多い「2時間以上5時間未満」はテレビ27.5%に対し、YouTubeは12.1%と半分以下しかありません。

ただし......これも性年齢別で大きな違いがあります。図表3は、20代男女の回答だけをグラフ化したものです。全体とはかなり異なることが一目瞭然です。

図表3-1.jpg図表3-2.jpg<図表3.  20代男女のテレビとYouTubeの視聴時間(平日1日あたり)>

20代男性では視聴時間でもYouTube

20代男性では、YouTubeの最頻値は「30分以上2時間未満」で40%を超えています。続いて「2時間以上5時間未満」と「30分以上2時間未満」が同程度です。テレビについても最頻値である「30分以上2時間未満」を挟んで同様の傾向ですが、その水準はそれぞれYouTubeより10%程度低くなっていることがわかります。一方、女性では、利用率はYouTubeの方が高いのですが、視聴時間ではテレビとYouTubeの間にそれほど大きな違いはないと言えそうです。もっとも、この設問の聞き方では、正確な視聴時間はわからないのですが、少なくとも、ネット動画を視聴している20代男性に限定すれば、YouTubeの視聴時間はテレビよりも長いことは間違いなさそうです。

以上見てきたように、若年層に限定すれば、ネット動画、分けてもYouTubeはテレビを上回る利用率、視聴時間になっていることが推定されます。これが前回ご紹介したように、若年層を中心に、"YouTubeがあれば、テレビはいらない"と考える人が一定程度存在する背景のひとつなのでしょう。

またまた余談で恐縮ですが、筆者は2006年、当時"Google Video"と呼ばれていたGoogleが運営する動画共有サービスの事業部門を、カリフォルニア・マウンテンビューの本社に訪ねたことがあります。その直後にGoogleが別会社だったYouTubeを買収して、しばらくしてGoogle Videoの方がYouTubeに吸収されますが、当時のGoogle Videoはなぜかインド系の人が家族・友人・仲間を撮影した短編動画が多く、理由を聞いたところ、「社員にインド系の人が多いから」と言われたのをよく覚えています。当時は、社員が自ら撮影した動画で埋めなければならないほど、コンテンツに困っていたらしいのですが、現状を見ると、まさにビッグバンの前後ほどの変化です(ビッグバンの前には時間も何もなかったので正確な表現ではありませんが...)。YouTubeは短期間で、極めて多様性に富んだ映像コンテンツの宇宙を創成した感があります。その時私がお会いした方は、みなさんもうGoogleにはいらっしゃいませんが、世の中に存在しない全く新しいメディアを作り出そうとしているエネルギーをひしひしと感じたことは忘れられません。こうしたエネルギーは、現在の放送が失いかけているものかもしれませんね......。

次回からは、放送事業者によるネット動画配信の利用状況やニーズに関する設問の結果を見ていきますが、まずは民放のネット配信からご紹介します。

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