米国のマス・メディア信頼度、過去最悪  最低記録32%に並ぶ ギャラップの世論調査 「まったく信頼しない」の39%は過去最高

水野 剛也
米国のマス・メディア信頼度、過去最悪  最低記録32%に並ぶ ギャラップの世論調査  「まったく信頼しない」の39%は過去最高

長く懸命に働いてきたが、客から信用してもらえなくなった職人(医者、弁護士、教師などでも同じ)がいたとして、どう評価すべきだろう?

腕が確かなら評判も良いままのはずだから、単に能力が低下した?
仕事は悪くないが、人々の価値基準が変わってしまった?
どちらにせよ、信頼どころか一部からは強く疑われ、嫌悪すらされているのに、今後も「プロ」としてやっていけるのか?

やや誇張してたとえれば、米国のマス・メディアは、まるでこのような状況にある。

マス・メディアへの信頼度が過去最低に

以下で紹介するのは、米国の世論調査大手、ギャラップによる調査である。2023年9月1日-23日、全米50州とワシントンDCから無作為に選んだ1,016人に電話(固定・携帯)で尋ねた。
質問は、「ニュースを十分に、正確に、公正に伝えるという面で、新聞・テレビ・ラジオなどのマス・メディアを、一般的に、どれほど信用・信頼していますか」というものだ。

その結果、メディアを「信用・信頼する」が、最低記録である2016年の32%に並んだ。内訳は、「大体(fair amount)」が25%、「とても(great deal)」が7%である。

他方、「信用・信頼しない」の68%も、2016年と同じく過去最高となった。「不信」が「信頼」を大きく上回っている。内訳は、「あまり(not very much)」が29%、「まったく(none at all)」が39%である。選択肢のなかで最多の「まったく」は、2016年より12ポイントも増えている。 

1990年代以降、ほぼ一貫して低下

これまでの経緯を概説すると、ギャラップは同一の質問による調査を1972年に開始し、1997年からは毎年実施している。
信頼度が最も高かったのは1976年で、72%あった。当時は、「ペンタゴン・ペーパーズ」の暴露をはじめとするベトナム戦争、ニクソン大統領の辞任につながったウォーターゲート事件などで、社会を劇的に変革させる調査報道が隆盛し、米国内はもちろん、世界的にも高く評価されていた。

ところがそれ以降、特に1990年代後半から、緩やかにではあるが、信頼度は低下し続けた。それでも2000年代前半までは、ほぼ過半数を維持していたものの、47%となった2007年以降は、一貫して50%を下回るようになった。

そして、2016年、ついに32%という最低値(前年の40%から急落)を記録した。 

2016年の最低値 主因はトランプが勝利した大統領選

ギャラップの当時の見解では、2016年に最低値に沈んだ主因は、ドナルド・トランプが勝利した大統領選だという。共和党の指導者などが主張するように、メディアが民主党のヒラリー・クリントンを過度に好意的に扱う一方、トランプを極端に否定的に伝えたために、報道姿勢が偏向していると受け取られた、というわけだ。

実際、特に共和党支持者のメディア信頼度は、2015年の32%から2016年には14%まで急激に落ち込んでいる。それ以前の1997年から共和党支持者の数値は民主党に比べて常に低かったが、2015年から2016年の下落は顕著だった。

なお、民主党支持者の信頼度は2015年が55%、2016年は51%だった。 

不信がさらに深まった2023年

そして、2023年、過去最低の2016年に並び、信頼度は再び32%(「大体」=25%、「とても」=7%)まで落ちた。
ただし、詳しく見ると状況はより悪化している。

まず、2016年とは異なり、2023年は前年から急落したわけではない。大統領選があった2016年では、前年の40%から8ポイントも下がっていた。対して2023年は、2021年の36%、2022年の34%と、そもそも低い位置からさらに落ち込んでいる。

はるかに深刻な問題として、不信感は2016年よりも深まっている。2016年は、「あまり信頼しない」が41%、「まったく信頼しない」が27%だった。否定的ではあっても、4割強は中間的な態度にとどまっていた。

ところが、2023年は、「あまり」が29%なのに対して、「まったく」が39%となり、約4割が明確に「信じない」という立場を取っている。「まったく」の39%は前年の38%を上回り過去最高であり、信頼する32%を単独で超えている。 

不信が信頼を大きく上回る

あらためて強調すると、放送をはじめとするメディアを信用しない人の方が、いまや多数派なのである。
「まったく」に「あまり」を足せば68%、実に3人に2人強は報道機関を疑っており、信じる人の倍以上にのぼる。

念のため、この調査自体に問題があるわけではない。以前に紹介した、米の大手通信社APとシカゴ大学の全国世論研究センター(NORC=National Opinion Research Center)による世論調査(2023年3月30日-4月3日)の結果と矛盾しない。

 民主党支持者のメディア離れ

この背景として見過ごせないのが、それまで比較的に高い信頼を維持していた民主党支持者の変化である。2023年の58%は一見、高いように見えるが、前年の70%から12ポイントも減っている。

もちろん、共和党支持者の数値は無残というほかなく、2023年の信頼度はわずか11%、圧倒的多数はマス・メディアを見離してしまっている。この現象は2016年以来、ほぼ変わっていない。

なお、以上の結果の要因までは、ギャラップの調査は明らかにしていない。

 「もしトラ」で2024年の信頼度は?

「もしトラ」という言葉が流行しているという。「もし、トランプがまた大統領になったら」の略で、さまざまな混乱を想定する、そのための対策を練る、などの文脈で使われる。

すでに底を打ったかのように見える米国メディアの信頼度が、2024年になおいっそう低減するのかも、「もしトラ」の一つだろう。2016年を念頭に置けば、仮にトランプが落選しても、メディアの信頼度が劇的に改善する望みはきわめて薄い。当選すれば、なおさら悲観的にならざるをえない。

冒頭の比喩に戻ると、米国のマス・メディアは全体として、しばらくは「信用されないプロ」という矛盾に満ちた状態であり続けると考えられる。

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