10代の気持ちに返って~学生向けラジオ番組パーソナリティ座談会 ラジオをみんなの居場所に③

編集部
10代の気持ちに返って~学生向けラジオ番組パーソナリティ座談会 ラジオをみんなの居場所に③

座談会当日の模様
(左上:三浦ちあきさん、右上:やきそばかおるさん、左下:大窪シゲキさん、右下:辻満里奈さん)


大窪シゲキさん(広島エフエム「大窪シゲキの9ジラジ」メインパーソナリティ)

三浦ちあきさん(和歌山放送「WA!ERA」元メインパーソナリティ)

辻満里奈さん(RKB毎日放送アナウンサー、「カリメン」パーソナリティ)

司会:やきそばかおるさん(ラジオコラムニスト・ライター)


前編中編、後編の3回に分けて掲載します。今回は後編です。

出身地と現在地

やきそば 皆さん、出身地以外の地域で放送されています。大窪さんは大阪から広島に移りましたが、違う土地で話すことに戸惑いはありましたか。

大窪 「ラジオDJができたらどこでもいい」という覚悟があったので、場所はあまり関係なかったです。でも住めば住むほど良いところが見えるから、年数を重ねるごとに広島でずっと続けたいと思うようになりました。

三浦 私は富山から和歌山に来たとき、食べ物や観光名所はもちろん、雪が降らなくて冬でも外に洗濯物が干せる、なんて良いところなんだろうと思いました。でも関西では少し目立たない県で、大阪や京都、神戸にはかなわないと思っている人が多い。なので私は、wbsで魅力を発信しようと思いました。外から来たことに負い目を感じることは全くなく、むしろ和歌山の良さをたくさんの人に知ってほしいという気持ちで喋っています。

やきそば 辻さんは埼玉から福岡に移りましたよね。

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<辻満里奈さん>

 私は就職で初めて福岡に来たので、最初は不安でした。でも、「福岡が好き!」という気持ちでいれば熱く関わってくれる人が多く、むしろ出身地じゃなくて得したなと思うことが多いです。福岡のことをリスナーが教えてくれたり、方言のクイズを送ってくれたりして番組が盛り上がります。

大窪 10代の番組を続けることは、大人になったときにいつでも帰ってこられる懐かしい場所を守り続けること。広島は戦争で大きな被害を受けましたから、平和や原爆・核兵器のことを10代と一緒に考えられます。その町にしかできないことを発信する地方都市のラジオが、ゆくゆくは全国で流れるのも良いと思います。

やきそば 大窪さんは、17年に「9ジラジnight」を開催し、広島にゆかりのあるPerfumeと9nineを迎えて学生向けイベントを行いました。

大窪 これも郷土愛ですね。ラジオを広めるためには新聞やテレビ、アーティストの力が必要だと思い、実施しました。今後は10代のリスナーを応援する番組が全国でつながっているところを見せたい。アーティストも絡めたりすると、ラジオがもっと認知されていくと思います。

三浦 番組を続けるには、スポンサーの力も大切だと思うんです。

大窪 「9ジラジ」にはもみじまんじゅうの会社が、社長の「みんな仲良く甘いものを食べたら笑顔になれる」という考えで協力してくれています。ほかにも、一緒に10代を応援したい、若い子を育てたいという企業がついてくれています。

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<大窪シゲキさん>

三浦 「WA!ERA」は地元の自動車学校や、車の販売会社が協力してくれています。高校生が免許を取るとき、その流れで車を購入する機会があるからです。あとは、和歌山から通いやすい関西の大学ですね。

 塾など学生向けのスポンサーについてもらえる番組になりたいです。波及力が足りないので、学生にも訴えられるところを、番組を長く続けていくためにも強化したいと思っています。

大窪 「9ジラジ」は何度か存続の危機がありました。どの番組も改編期にはあることだと思います。

僕は、ラジオの究極は続けることだと思っています。その環境を作るために聴取率を上げたりスポンサーを増やしたりすることは大切で、綺麗事だけではできない。大変ですが、「未来に花咲くことが多いので乗り越えて」と、全国の同志に伝えたいです。

向き合うべきこと

大窪 学生に関わるニュースが起こると、番組での触れ方や、リスナーからメッセージが来たときの伝え方をすごく考えます。もしリスナーが加害者や被害者だったらと思うと、考えておかないといけないなと思うんです。

三浦 同じ県内で起こったら、番組として何か伝えるべきことがあるんじゃないかと悩みますよね。

大窪 「9ジラジ」は、いじめに向き合いだした頃から、いろいろな人に聴いてもらえるようになりました。リスナーから「いじめられてもう死にたいです」ってメッセージが来たとき、僕たちは目を背けることも、「がんばっていこうな」と励ますこともできた。だけどきっとがんばった結果なので「どうしようもなかったらみんなどう思う?」とラジオで問い掛けました。ディレクターも僕も怖かったですが、もし悩んでいる学生が聴いていたら笑って次に進めたんじゃないかと。それがラジオにできることだと考えて向き合うことにしました。でも、やり過ぎると重たい番組になってしまいます。

 「カリメン」はあまり暗い話題を扱いません。しんどいときや学校で嫌なことがあった日、明るくなれる場所にしたいという意図で、あえて避けている面もあります。でも、今の大窪さんの話を聞いて、そうした機会も大事だと思いました。

三浦 なんて言ってあげたらいいか悩むとき、よく聴いていたのがTOKYO FMの「SCHOOL OF LOCK!」です。とーやま元校長の、どんな質問にもきちんと向き合う姿勢が印象的でした。

やきそば 番組で真面目な話をすると、真面目過ぎるという意見も届くと聞きます。どこかでは扱ったり、一方では明るい番組があったり、いろいろな番組があることによってリスナーも選べるといいですね。

ラジオのこれから

やきそば 私が調べたところ、学生向けラジオ番組は全国に約46本ありますが、なかなか知られていません。ラジオが今後、変わるべきところ、変わらない方が良いところはどこだと思いますか。

三浦 「WA!ERA」が始まった時、wbsには若い声の番組が全くありませんでした。ベテランの皆さんを尊重しつつ、若い世代の挑戦を広げたいです。ラジオからいろいろな声が聞こえてくるほうがリスナーも面白く、興味を持つと思います。もっと学生が積極的に参加できる番組が全国各地に増えたら、ラジオ界が盛り上がると思います。

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<三浦ちあきさん>

 学生や10代が参加しやすい体制を整えることが必要だと思います。配信だとチャット欄でコメントが流れるように、ラジオでもメールと並行してSNSを活用したり、自分の意見がぱっと言えて反応がもらえると参加しやすい気がします。

一方で、ラジオでは一度スタッフの目を通してから質の良いものを紹介する良さもあります。選ばれて読まれた喜びも感じられるので、ラジオの良さを残しつつ、配信のような手軽さもあると参加しやすいと思います。

やきそば 今の10代はメールを使わないことが多く、ラジオにメッセージを送るハードルが高かったんです。ここ数年でツイッターのDMを開放したのは新しいと思いました。

大窪 「9ジラジ」はLINEを導入していますが、簡単に送れて簡単に読まれる分レア感は少なくなるので、そのあんばいが難しいです。辻さんが言ったように、スタッフというフィルターがかかることでちゃんとしたものが届けられるのは、ラジオの強みだと思いますね。

あとは、全国のDJには学校に直接行って伝えてほしい。僕はコロナ禍には企画書を書いて学校に送り、放送室からZoomで各教室に飛ばすなど工夫して、講演会をたくさん行いました。全校生徒に向けて話すと、リスナーが一気に増えます。講演会だと密にもならないので、ラジオが学校に入り込めるチャンスです。

やきそば AIR―G'で放送している学生向け番組「IMAREAL」の森本優さんが、学生にスマホでラジオが聴けることを教えるとリスナーになってくれることが多いと話していました。実際に足を運ぶことは大事ですね。

 ラジオに興味がないわけではなく、知らないだけの学生が多いと思うので、コロナが落ち着いたら私も学校に行って魅力を発信したいです。

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<やきそばかおるさん>

やきそば コロナ禍でのラジオのあり方についてはいかがですか。

大窪 一周回って普通でいいと思うんです。リスナーから「ラジオが普段どおりだと、嫌なことを忘れられる」と聞きました。西日本豪雨のときも「暗くならないで」と言われ、避難所で聴いている人のことも考えつつ、アホみたいな話をしました。

「PERSONALITY」という曲を書いたアーティストの高橋優くんは、ライブで「ラジオは唯一、コロナ禍や災害時にも音楽を止めませんでした」と言っていました。僕たちはずっと普段どおりのことをやっていたけど、音楽を鳴りやませない仕事と聞いて、改めてラジオは必要だと感じました。

三浦 ラジオは日常生活に入り込んでいますよね。朝、ラジオをつけて、そのまま夕方まで作業をしながら聴く人も多いと思うので、いつもと違っていたらリスナーはどこか違和感を覚えるかもしれません。

 RKBはラ・テ兼営局ですが、テレビで毎日暗いニュースが多かった中、「ラジオは心が休まる場所だから、あまりコロナの話を聞きたくない」というメッセージをもらいました。報道もテレビの大事な仕事ではありますが、ラジオはあえて特化せず楽しい話をして、コロナ疲れした皆さんの居場所になれたらいいですね。

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