「第16回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」が2月7~11日まで開催された。初日に映画監督の森達也氏のセレクションで、2024年日本民間放送連盟賞(民放連賞)グランプリを獲得した信越放送の『78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~』が上映。その後、同番組のディレクター・湯本和寛氏と森氏のトークイベントが行われた。
トークは、同フェスティバルの実行委員長を務める加瀬澤充氏が司会に加わる形で進行(=冒頭写真、左から森氏、湯本氏、加瀬澤氏)。同番組は太平洋戦争中の1945年に現在のマレーシア・ボルネオ島で起きた日本軍の無謀な移動命令によって起きた"サンダカン死の行進"と呼ばれる悲劇とその関係者遺族の交流を描いたドキュメンタリーで、森氏は「昨年の民放連賞の地区審査で初めて視聴し、強く印象に残った」と話し、「10年以上にわたる複数回の海外取材やディレクター自身が映り、ナレーションの一部を担うなどテレビ的でない部分がある」とコメントした。
湯本氏は大伯父が現地で戦病死しており遺族の一人でもある。大伯父の戦友が残した手記をきっかけに2015年に取材を開始、その中サンダカン死の行進から生還したオーストラリア兵捕虜の息子のディックさんと出会った。彼は翌年、病気のため亡くなり、「ディックさんから和解を頼まれて、その願いを実現させたい思いで撮影した」と湯本氏。そのうえで、「和解の旅には取材者というよりも参加者として行った」として、「カメラを回していれば撮影できた映像もあったが、そこでカメラを回せば一歩引いた存在になってしまうし、参加者との関係が変わってしまうと考えた」と明かした。
森氏が、ディレクターである湯本氏が番組に出演し、一部のナレーションも担当していることに触れると、湯本氏は「遺族の関係者が亡くなっていなければ出演しなかった」と話し、「2023年の『Tokyo Docs』のセッションでベルギーのプロデューサーが話していた『一人称で作った方がよい』というアドバイスを参考にした」と述べた。
また、加瀬澤氏から同番組のタイトルにある「和解」についての考えを問いかけられた湯本氏は「和解はわからない」と、戦争の悲劇という歴史を受け入れることの難しさをにじませながらも「お互いに同じ場所に立ち、それぞれのストーリーを聞いて理解し合うことが重要で、それが和解の一部なのだと思う」と語った。
*
同ドキュメンタリーフェスティバルのコンペティション部門の大賞作品は『よみがえる声』(監督:朴壽南、朴麻衣)が、満足の高かった上映作品として観客の投票により決まる「観客賞」は『かづゑ的』(監督:熊谷博子)がそれぞれ受賞した。
2024年民放連賞テレビグランプリ対談記事(信越放送・湯本和寛さん×審査委員長・夜久敏和さん)はこちら