【2021年度(第76回)文化庁芸術祭賞受賞のことば ラジオ部門大賞】RSK山陽放送『塀の中のラジオ~贖罪と更生 岡山刑務所から』 隔絶された世界を伝える

米澤 秀敏
【2021年度(第76回)文化庁芸術祭賞受賞のことば ラジオ部門大賞】RSK山陽放送『塀の中のラジオ~贖罪と更生 岡山刑務所から』 隔絶された世界を伝える

土曜日の夜9時、岡山刑務所だけで放送されている「受刑者のためのリクエスト番組」が始まる。DJを担当するのも受刑者だ。彼らが聴きたい曲を、添えられたメッセージとともに紹介する30分間は、まさにラジオ番組。消灯後、眠りに就くまでのささやかな癒やしは、1980年から40年以上続く独自の取り組みだ。

主に初犯で懲役10年以上の男性を収容する岡山刑務所。服役する約440人の半数以上が無期刑という特殊な環境で流れるリクエスト番組は、彼らの心にどんな影響を与えているのだろうか。その社会的意義を探り、ラジオならではの「対話」と「音楽」の力を再認識しようと、ドキュメンタリーを制作した。犯した罪の重さと向き合う受刑者へのインタビューを軸に、リクエストカードの文面とリクエスト曲の歌詞でストーリーを紡いだ。さらに、事実上の終身刑と指摘される無期刑の現状や、高齢受刑者同士の老老介護、社会復帰後の彼らの居場所など、日本の刑務所をめぐるさまざまな課題も織り込んだ。

私が「塀の中のラジオ」の存在を知り取材を始めたのは、2020年夏。当時の岡山刑務所長(現在は退職)の望月英也さんと縁あって知り合ったことがきっかけだ。こうした刑事施設は情報公開に後ろ向きな組織の最たるものであり、取材には粘り強い交渉が欠かせない。ところが望月所長は、地域への情報発信にとても理解があった。もちろん、信頼関係を築けてこそのことであり、半年以上をかけて何度も施設に足を運び、取材できる範囲を許される限り広げ、受刑者や関係者の声を丹念に拾い上げた。

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<「塀の中のラジオ」DJの原稿>

当時の私はRSKラジオのパーソナリティ兼ディレクターとして、リスナーから届く一通一通のメールやリクエストに込められている思いを日々痛いほど感じていた。それは受刑者のリクエストカードも同じだった。実際に彼らの文面に目を通しDJが書いた原稿を読むと、驚くほど洗練された短いフレーズに、人生が、また罪を犯したことへの後悔や反省の思いがにじんでいる。字がきれいな受刑者も目立った。これだけでも、私が持っていた「塀の中」のイメージを覆すには十分だった。

編集過程の迷いそのまま放送


そして、マイク1本というラジオならではの取材が、警戒心を解いたのだろう。贖罪と更生の間で葛藤する無期懲役囚の声は、「本当に彼が人の命を奪ったのか?」と私を何度も戸惑わせた。「彼らと私は何が違ったのだろう? 私だって塀の中にいたかもしれない」とさえ思う。すべてのインタビューを文字に起こし構成を考えて編集する過程においても複雑な思いが込み上げ、放送していいのだろうかと悩んだ。完成した番組は私の迷いをそのままパッケージしたと言ってもいい。聴き終えてもやもやする答えのない番組。放送後、「知ろうとしてこなかった想像を絶する状況を知ることができた」「無期懲役囚の声に、映像の何倍も想像をかき立てられた」「彼らの後悔の念は私たちへの戒めに思えた」「私が被害者の家族だったら、この番組を最後まで聴けるだろうか」「受刑者たちの人生をやり直したい気持ちを奮い立たせるラジオは、私たちが日ごろ聴いているラジオに通じると感じた」など多くの賛否両論の声が寄せられた。もちろん、犯罪を肯定し受刑者を擁護するつもりはない。被害者の立場にたてば「彼らに癒やしなど必要ない」との声も聞こえてきて当然だ。ただ、間違いなく「塀の中のラジオ」は彼らが自己承認を得られる貴重な機会であり、先の見えない日々を生きる希望でもあるのだ。そして彼らはいつか、私たちの「隣人」となる。

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<岡山刑務所外観>

隔絶された世界を知ることを許された者として、伝えることが私たちの使命だ。一人でも多くの方に番組を聴いてもらい、考え、議論してもらえると、制作者としてこれほどうれしいことはない。そして今、私はラジオからテレビへと異動し、日々のニュース報道とドキュメンタリー制作に当たっている。地方局を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだが、RSKの伝統である「地域に寄り添い、声なき声に耳を傾ける」姿勢を貫いていきたい。

最後に、このたびは文化庁芸術祭大賞というこれ以上ない評価をいただきましたこと、身に余る光栄です。番組制作に関わってくださったすべての皆さんに、感謝申しあげます。

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<大賞に輝いた番組のスタッフたち>


2021年度(第76回)文化庁芸術祭 テレビ・ドキュメンタリー部門大賞はこちらから。

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