2022年の夏、とあるショップの店内で彼らのインストア・ライブを見て一気に惹き込まれました。演奏していたのは今回番組で取材した「海洋ゴミ楽器集団 ゴミンゾク」です。彼らの存在を教えてくれたのは今回番組MCを務めた空木マイカさん。ゴミから民族楽器を作って演奏しているからゴミンゾク? と興味本位くらいの気持ちで見に行ったというのが正直なところでしたが、そこで奏でていたのは正真正銘の楽器でした。
メンバーそれぞれが見たことのないそれを操り、世界の伝統音楽を奏でていました。ペットボトルを並べたものや流木に釣り糸を結びつけたギターらしきもの。どれも初めて見るもので、初めて聴く美しい音色。会場にいた観客全員が惹き込まれていくのを感じながら私も最後まで聴き入りました。
演奏の合間にはリーダーの大表史明さんをMCに、これらの楽器が何でできているか? 質問形式で進行。全て海洋ゴミから手作りでできていて、良い音が出るペットボトルの種類が限定されていること、一口にプラスチックといっても数種類に及ぶこと、アルミ缶の特性など専門的な知識とともに海洋ゴミ問題の現状など実体験をとおして伝えていました。その中で一番印象的だったのが、「ゴミとは何か? それは個人の価値観で決まってくる」という大表さんの言葉。彼らの活動そのものでした。
海岸に流れ着いたものを拾って、そこに音楽という新しい命を吹き込むサイクルが、ゴミを拾っているのではなく、音を拾っているのだなと感じ、番組のタイトルにしました。番組では大表さんが独学で完成させた楽器が、どうやってできたのか? どんな音色なのか? 詳しく知りたくて、数回にわたりいろんな楽器をスタジオに持ちこんでいただきました。一番苦労したのがボトルウィング。ペットボトルの空気圧を調整する自転車のバルブを指先でチョンチョンとたたいて空気を少しずつ抜いてチューニングするので、かなり繊細。30分ほど何度も空気を入れたり抜いたりの繰り返し。音程がそろった時の感動、美しさは格別でした。
それと、チャリンバ。自転車のスポークを使ったアフリカの親指ピアノのような楽器ですが、箱状のボディのサウンドホールに共鳴して、音が断続的に聞こえるトレモロ効果も出せることに驚きました。元々の楽器の構造や音の出る原理を理解し、日々探究したという大表さん。楽器を押さえるその指は、ゴツゴツとした職人のようでした。「ゴミだから、音も良くない」そう受け止められないようにとこだわった結果です。
さらに取材を重ね、海洋ゴミを回収している協力者がいることを聞きました。全国各地の海岸に足を運ぶ中、遠州灘の海岸で知り合った佐々木善之さん。静岡県浜松市の中田島砂丘にゴミ箱を設置するなど、ビーチクリーン活動にも力を注いでいます。インタビューで訪れた場所は、同県の湖西市にある空き家になった古い金物店を居抜きで利用した休憩所のような空間。海岸で拾ってきた流木や貝殻を利用した手作りの装飾など、とてもオーガニックな雰囲気に包まれていました。
そこでいただいたコーヒーがとても美味しかった! 佐々木さんが目の前で、手挽きで淹れてくれたコーヒー。聞くとビーチクリーンが終わった後、みんなで海を見ながらまったりと、このコーヒーを飲むのが恒例なんだとか。インタビュー後、「海を楽しみましょうよ」 さりげなくおっしゃっていた言葉から佐々木さんの活動の根幹にあるものを感じました。環境問題を押しつけない、そんなスタンスでこの番組も聴いてもらえたらなと思います。