放送文化基金主催の「全国制作者フォーラム2025」が2月15日に東京都内で開かれた。2024年9月から12月まで全国5地区(北日本、北陸・甲信越、愛知・岐阜・三重、中四国、九州・沖縄 /一部のリンクは外部サイトに遷移します)で行われた本年度の各フォーラムを締めくくるもの。若手制作者ら約90人が参加。各地区で優秀作に選ばれたミニ番組の上映やトークセッションを通じて、番組制作の実情を共有するとともに、テレビの未来を話し合った。
まずは各地区3作品ずつ、合計15の受賞作品を上映。主に夕方ニュースで放送された5~15分程度の特集やリポートだ。街の面白ネタに材をとった軽妙なリポートから市井の人々を見つめる企画、障害のある人たちに向き合うもの、能登半島地震の被害や東京電力福島第一原子力発電所の事故で帰還困難区域とされたことで失われていく集落の記憶を継承しようとする硬派の調査報道など多彩な番組が並んだ。ゲストは野木亜紀子(脚本家)、前川瞳美(日本テレビ放送網・コンテンツ制作局ディレクター)、村瀬史憲(名古屋テレビ放送・報道情報局報道センタースペシャリスト)の3氏が制作者との質疑も交えて各番組を講評した(写真㊦)。コーディネーターは丹羽美之・東京大大学院教授が務めた。
各地区で勝ち抜いた番組だけに、ゲストからはローカル局らしいユニークな着想や面白さが称えられた。一方、「テーマを盛り込み過ぎて、何を訴えたいのかわかりにくい」といった辛口の意見も。短尺の企画で陥りがちな紋切型の手法などに対し、BGMの選曲方法からナレーション原稿の書き方、常時表示される肩タイトルの文言の選び方などを具体的にアドバイス。制作者側からは尺の関係や取材不足で十分に盛り込めなかった視点があったことを認めたうえで、再取材や再編集などで企画をふくらませたいとの意欲が示された。
上映した番組のなかから各ゲストがお気に入りの1本を選定。次の4作品を表彰した(冒頭画像はゲストと受賞者/上段左から野木さん、山形さん、前川さん、木田さん、下段は村瀬さん、奥田さん、丹羽さん、須藤さん)。
▶野木賞:北日本放送・山形直輝さん=いっちゃん☆KNB「アイスの名店 75年の歴史に幕」
▶前川賞:テレビユー福島・木田修作さん=ステップ『「百年後の子孫(こども)たちへ」帰還困難区域の記録誌 住民たちの13年』
▶村瀬賞:NHK徳島放送局・奥田真由さん=とく6徳島「空飛ぶクルマにかける」
▶丹羽賞:北海道テレビ放送・須藤真之介さん=イチオシ‼「自衛隊車両海外流出問題 独自の追跡取材で防衛省が動く」
続くトークイベントは「届けたい声がある~テレビ制作者たちの挑戦」がテーマ。ドラマ、バラエティ、報道の第一線で活躍するクリエイターのゲスト3人が最近の仕事を振り返りながら、ものづくりへの向き合い方を話した。
<左から丹羽さん、野木さん、前川さん、村瀬さん>
沖縄を舞台に日米地位協定という難しいテーマに迫ったドラマ『フェンス』(WOWOW)を手がけた野木さんは「地上波ではなく、WOWOWだからこそできた」と担当プロデューサーの熱意を称賛。「複雑なテーマを5話で語りきるために取材は必須。そこから得られた(答えの出ない)複雑さを、複雑なままどう提示するか――。沖縄のことを知らない人たちに届けたかったので、どれだけエンタメの皮をかぶせて見てもらうようにするかがカギ」と語った。その一方、「最近の視聴者はちょっとでも説教臭があると抵抗感を示します。いかにそう感じさせないかとの闘い。『MIU404』(TBSテレビ)でもそこに苦労した」という。
『上田と女がDEEPに吠える夜』(日本テレビ放送網)の企画・演出を手がける前川さんは、番組で生理や性教育、身体的なコンプレックスなどのテーマに果敢に挑戦。「女性の生きづらさに寄り添いたいと思って始めた。バラエティ番組は女性が活躍していると言われるけど、実態はまだ男性優位社会」と、同番組は9割以上を女性スタッフで固めているという。「ルッキズム、エイジズム、ジェンダーバランス......どれも現在のメディアが助長させてきたもの。それを認めたうえで贖罪のような気持ちで取り組んでいる」と打ち明けた。ただし、生理を取り上げるには視聴者にもいまだにアレルギーがあり、フェミニズムは女性からも反発も強く、「やり過ぎないようなバランスも大切」とも。
ドキュメンタリー『掌で空は隠せない』(名古屋テレビ放送)で「地方の時代」映像祭グランプリを受賞した村瀬さんは「エンタメの皮をかぶせられない理不尽な物事に、報道という立場で向き合っています」と口火を切った。「制作会社に在籍していた時代には企画書を書いては各局に売り込んでいくのが仕事だった」と振り返る村瀬さん。当時は企画を考えるのに四苦八苦したが、やがて現場にある企画で取材に行くと、「芋づる式にいくつものテーマがつながっていることがわかるようになった」。現在も頭のなかにネタはいくつもあるという。「現場から持ち帰ったみやげ話から思わぬ企画が生まれることもある」と、若い作り手にはともかく現場に赴いて取材を重ねてほしいと望んだ。
最後にコーディネーターの丹羽さんが「作品性を評価する大きなコンクールで受賞するような大作ではなく、今日上映された普段着の番組こそテレビコンテンツの豊かさを支えている」と激励。「分断・差別・不寛容が進みやすくなっているなか、テレビの力が弱まったと言われないよう、社会の実相を丁寧に伝えていってほしい」と若手制作者たちに奮起を促した。