第57回火曜会ラジオ研修会 『脳盗』制作者や『伊集院光 深夜の馬鹿力』構成作家らが講演 ローカル局のマネタイズ成功事例も紹介

編集広報部
第57回火曜会ラジオ研修会 『脳盗』制作者や『伊集院光 深夜の馬鹿力』構成作家らが講演 ローカル局のマネタイズ成功事例も紹介

東京・大阪以外の全国37社の民放AMラジオのローカル局が加盟し、共同で番組制作に取り組んでいる「地方民間放送共同制作協議会・火曜会」が10月16―17日、東京・銀座ブロッサムで第57回研修会を開催した。今回は20社23人が参加。「ラジオ界隈 最前線 ~発想のヒントを学ぶ2Days」をテーマに、5つの講演・ワークショップを展開し、コンテンツ創出のアイデアや成功事例などを紹介した。

参加したラジオ局の若手~中堅社員で交流

1日目は、コラムニストのやきそばかおる氏による参加者交流タイムからスタート。参加者から悩みを募り、多く挙げられた"上司とのコミュニケーション"の悩みに対して、「わからないことは躊躇せずバンバンきいて。自分の得意な分野はどんどん意見を出して」とアドバイスした(=冒頭画像㊧)。

次に、構成作家の大矢一登氏がワークショップを開催(=冒頭写真㊥)。毎週5,000件のメールがリスナーから届く『伊集院光 深夜の馬鹿力』を担当する大矢氏は、メールを存分に生かすための"コーナー"の重要性を説明。「出演者のうまみを引き出せるコーナーや、番組のプロジェクトとなる物語性を持ったコーナーができると強い」と大矢氏。参加者はグルーブごとに実際のラジオ番組のコーナー企画を考え発表、大矢氏によるフィードバックで締めくくった。

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<参加者がコーナー企画を考える大矢一登氏のワークショップ>

ローカル局のマネタイズ成功事例を紹介

続いて「ローカル局の成功事例~ローカル局でもできる!強いコンテンツ作り」では、京都放送(KBSラジオ)・東京支社長の伊藤健氏と、静岡放送(SBSラジオ)・ラジオ局オーディオコンテンツセンターの寺田亮介氏が登壇。ファシリテーターはやきそばかおる氏が務めた。

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<京都放送の伊藤健氏㊧と静岡放送の寺田亮介氏㊨>

伊藤氏は、声優の福山潤さんを起用したKBSラジオの深夜番組『福山潤 キョウトニイケズ』について講演。20~40代の女性をメインターゲットに、グッズ・対面イベントなどを展開。番組内では福山さんの写真集制作にあたってクラウドファンディングを実施し、支援金は想定をはるかに超える1,000万円を突破した。この話題性がスポンサーセールスにつながるなど、ファンコミュニティを起点とした事業の盛り上げ方を紹介した。伊藤氏は「インターネットではいろいろな稼ぎ方の可能性がある。自分の"やりたい"から始めてみるのもどうか」と語った。

寺田氏は、自分たちで制作費を稼ぐ自給自足番組と銘打つ、芸人のサスペンダーズによるSBSラジオの『サスペンダーズのモープッシュ‼』を紹介。制作費ゼロからスタートした同番組だが、今では年2回のイベントを開き、月額制のコミュニティプラットフォームによる会費で収益化に成功。主なリスナー層の10~30代の男性に向け、"悪ノリ"で企画したグッズ制作や"罰ゲーム"としてのイベントなど、一風変わったテイストがコアなファンを惹きつけている。寺田氏は、自給自足番組はコンテンツ開発のハードルが低いことも魅力だとして、「ネット上にあるたくさんのプラットフォームを活用し、新しいことに挑戦してほしい」と呼びかけた。

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<『録音風物誌』コンクールの審査員を務める石井彰氏>

1日目の最後は、放送作家の石井彰氏が「録音風物誌のイロハ」を講演。先日最優秀賞が決まった(既報)『録音風物誌』コンクールの優秀作品を紹介し、音の楽しさ、ラジオ番組の面白さを伝えた。「世の中には"しゃべり"で稼いでいる職業はたくさんある」と話しつつ、「東京や大阪から有名人を呼ぶだけではなく、地元の面白い人を探してみて」とエールを送った。

対面イベントやデジタルの可能性

2日目は「脳盗から盗む発想のヒント」と題し、『脳盗』プロデューサー/TBSラジオ・コンテンツ制作局制作部の松重暢洋氏と、MCを務める「Dos Monos」ラッパー/クリエイティブディレクターのTaiTan氏が講演。同番組による「音を立てなければ商品を盗むことができる」体験型イベントの「盗-TOH-」は、SNSで大きく拡散され4時間待ちの人気を博した。

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<TBSラジオの松重暢洋氏㊧とTaiTan氏㊨>

松重氏は「新規顧客獲得として定番の"番組内プレゼント"という受動的体験から、"プレゼントを盗みに行く"という能動的体験へと転換した」と話し、このほかリスナーにMCの私物を売り、その資金で広告を掲載、という「脳盗市場」などのフォーマットを紹介した。TaiTan氏は「『オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム』を目指すのではなく、ラジオを聴かない・TBSラジオを知らない人でも参加できるイベントを目指した」とし、「新規顧客がラジオ聴取に至らなくても、イベントなどの別の形で、数字や賞を獲得できれば話題性が担保される」との考えを示した。

最後はtonari代表取締役社長でビジネス動画メディア「ReHacQ」プロデューサーの高橋弘樹氏が「地方発 デジタルコンテンツの可能性」と題しレクチャーした(=冒頭写真㊨)。現在を"在地方の才能を真剣に作る時代"と話す高橋氏は、「地方ラジオ局こそ本気で才能を発掘し、育ててIP化してほしい」とコンテンツ開発の重要さを説いた。

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<参加者と議論し講義を進める高橋弘樹氏>

また、メディアが衰退する3要件として「活字・非デジタル・高齢者依存」を挙げ、早急にデジタル開発に乗りだす必要性を訴えた。人員不足の中で誰がどうコンテンツをつくるのか、という議論では「例えば社と交渉し、成果主義の徹底でモチベーションを上げる」などの打開策を提案した。高橋氏は「地上波の信用力と技術力は武器になる」とし、「①デジタルを活用しながらローカルの枠を超えていく、②高齢者に依存せずに成立する。地域の規模を再設定、③ローカルから世界へ」という地方ラジオ局の指針を述べた。

2日間をとおした参加者の声

本研修会に参加したLuckyFM・編成事業部アナウンス室アソシエイトアナウンサーの向麗衣さんと、福井放送・報道制作局アナウンサーの坂本優太さんに2日間の感想を聞いた。2025年4月に新卒でLuckyFMに入社した向さんは、「全国のラジオ局やさまざまな立場の方とお話ができ、自局の強みもあたらめて認識できた」と話し、「他局の良い部分は早速持ち帰って取り入れていきたい。新人だからと言い訳せずに、アイデアを発信していきたい」と意気込む。

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<LuckyFMの向麗衣さん㊧と福井放送の坂本優太さん㊨>

坂本さんは、「全国に発信できるコンテンツ作りに時間や人を割けたら」とし、「リスナーの心や新しい顧客を、もっと引き寄せられるような付加価値を放送に与えていきたい」と前向きに語った。

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