信越放送が制作・放送したドキュメンタリーを手掛かりに、戦没画学生の作品を集めた美術館「無言館」共同館主の内田也哉子さんが旅に出る――。ドキュメンタリー作品で描かれた場所や人物を訪ねるとともに、ミュージシャンやジャーナリストらのゲストと作品とそこで描かれたテーマについて対話を交わす。全6作のシリーズで取り上げる作品はいずれも日本民間放送連盟賞を受賞するなど評価の高いものばかり。1作品ごとに内田さんとゲストが繰り広げる対話を通じて戦後から現在までの社会のありようを考える趣向だ。本シリーズの企画・プロデュースは東海テレビ放送在籍時に「東海テレビドキュメンタリー劇場」を推進し、多くの名ドキュメンタリーを送り出した阿武野勝彦さん。8月30日の東京・ポレポレ東中野を皮切りに、全国で順次公開される。
上映ラインアップは次のとおり。
#1『無言館・レクイエムから明日へ』森山直太朗(フォークシンガー)
#2『少年たちは戦場へ送られた』YOU(タレント)
#3『再会~平壌への遠い道~』青木理(ジャーナリスト)
#4『遼太郎のひまわり』坂本美雨(ミュージシャン)
#5『78年目の和解』岸本聡子(杉並区長)
#6『いのちと向き合う』佐喜眞道夫(佐喜眞美術館・館長)
なお、全6作は、信越放送が7月2日から8月31日の間に放送したほか、日本映画専門チャンネルでも8月11日から9月10日の間に放送する(放送予定はこちらから。外部サイトに遷移します)。
本シリーズ企画で取り上げたドキュメンタリー6作は、古いものは1986年に制作されたものから、新しいものは2024年に制作されたものまでが並ぶ。全作とも戦争が関係するなかに沖縄を取り上げたことについて信越放送プロデューサー・手塚孝典さんは、「長野県から多くの人が入植した満蒙開拓団の人々は国から捨てられたような扱いを受けた。本土防衛の捨て石のように扱われ戦場となった沖縄とつながる部分がある。沖縄戦を沖縄の局だけに背負わせている現状への疑問もあったので県外の局が沖縄戦を扱うことがあっていいと考えた」と明かす。
企画のきっかけは、阿武野さんが無言館の共同館主に就任した内田さんから、戦争関係のことは心許ない部分があると言われ、無言館のことなら信越放送のドキュメンタリーがあると思い当たり、手塚さんにこの企画を持ちかけたという。手塚さんは「アーカイブに眠っている作品に光を当てることができることに加え、戦後80年のいま、過去を振り返りつつ、現在の世界情勢を踏まえて考えるシリーズにできた」と手応えを語る。「アーカイブに眠らせたままでは宝の持ちぐされになるが、今回の企画のように元のドキュメンタリーとは別のパートを加えることで、作品に新たな命を吹き込むことができる」と阿武野さん。東海テレビ放送在籍時の2015年に戦後70年企画として、本企画と同様に過去に放送したドキュメンタリーにゆかりの地を樹木希林さんが訪ね、ゲストとともに語り合う番組を放送している。過去の作品を活かす手法としても注目の企画と言えそうだ。
<#4で内田也哉子さん㊧と対談する坂本美雨さん㊨>
編集広報部は9月2日にポレポレ東中野での特別上映「#4『遼太郎のひまわり』坂本美雨」を取材した。上映後のスペシャルトークに時事芸人のプチ鹿島さんが登壇し、阿武野さんと手塚さんの3人で本シリーズ企画について語り合った。
シリーズ企画のタイトルを「戦争と対話」としたことについて、「いまの世の中には対話が欠けているのではないか」と阿武野さん。プチ鹿島さんは「新聞各紙の伝え方の違いを知ることは、よだれが出るほどの大好物」と、対話を通じて自分と違う考えに出合う面白さを説いた。さらに、「近ごろは戦後80年企画の映画を観た、などと人に話すと"思想が強い"と言われるが、思想がないことが良いのだとしたら大問題」と述べるとともに、ひとつ意見が違うだけで全人格を否定するような物言いをする人がいるなど、対話ができない場面が増えている現状に危機感を示した。
「#4」には『遼太郎のひまわり』(2012年制作)に小学生時代に出演した遼太郎さんの現在が映し出される。現在の遼太郎さんも話題に。阿武野さんは、本シリーズ企画でドキュメンタリーに登場した人物に会う旅ができたことを振り返り「彼の姿に希望が見えた」と感想を述べた。最後に、客席に向かって「あと5本あるのでご覧いただき"思想を強く"してください」と呼びかけた。
<2025年9月2日 東京・ポレポレ東中野にて。左から阿武野さん、プチ鹿島さん、手塚さん>
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