AM、ローカル局ラジオのこれから~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」④

塚田 祐之
AM、ローカル局ラジオのこれから~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」④

前回の連載では、徳島の四国放送ラジオの番組『JRT 日曜懐メロ大全集』で44年活躍している81歳のラジオ・パーソナリティ、梅津龍太郎さんのラジオと地域にかける思いに焦点をあてた。全国の民放AMラジオ局には、それぞれの地域で長年親しまれているパーソナリティが活躍し、局の"顔"ともいえる番組がある。

2011年の東日本大震災では、東北で最大震度7の激しい地震と大津波による未曾有の大災害に見舞われた。多くの人々が避難生活を送り、不安な毎日を余儀なくされた中で、ラジオから流れる、いつも聴き慣れたパーソナリティの呼びかけに安堵した、勇気づけられたという声を東北各地で聞いた。

平時も、災害時も、地域で親しまれている民放AMラジオだが、6年後には大きな転機を迎える。AM放送からFM放送への転換だ。全国の民放AMラジオ47局のうち44局が、2028年までにFMラジオ局への転換をめざすという。総務省は28年の全国的なFM転換の制度整備にむけて作業を進めており、23年秋には「実証実験」を始める。

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<徳島市のシンボル眉山にある四国放送の送信所(テレビ・FM補完)>

コロナ禍の影響もあり、民放ラジオの経営環境がさらに厳しさを増している中で、AMラジオ局は14年以降、AMの番組をFMで同時に放送する「FM補完放送(ワイドFM)」を実施。AMとFMの二重の送信費用や、送信所の更新時に必要な広い敷地の確保などの設備更新費等がAM民放ラジオ局にとって大きな負担となっている。そうした状況においても、災害時はもとより、日々、地域に密着した情報発信や、地域社会、文化の維持発展などに寄与する役割が求められている。そのために、検討が進められてきたFM放送への転換だが課題も多い。

ローカルAMラジオ局のいまと、これからにむけた取り組みを徳島の四国放送ラジオで取材した。

地域とともに70年

JOJR、四国放送のコールサインだ。四国放送は、1952年に中四国で最初の放送局として開局し、今年70周年を迎える。コールサインのJRと徳島のTを組み合わせた、JRTの愛称で親しまれている。

四国の東部に位置する徳島県。2000年には82万人いた県の人口は、現在72万人にまで減少し、高齢化率も全国で5番目に高い。徳島市からはデパートも撤退するなど、厳しい地域経済の状況が続いている。

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<かつてにぎわった中心商店街(東新町)>

こうした状況の中で、四国放送ラジオも1991年には過去最高だった売り上げが、最近では約4割に減少。厳しい経営環境の中で、コストを圧縮しながらも、リスナーに、より親しまれる番組作りをどう進めるか、日々模索が続いている。

何よりも、リスナーに選ばれる番組作りを

前回の連載で紹介した『JRT 日曜懐メロ大全集』、そして『演歌deリクエスト』。四国放送ラジオでは演歌、懐メロの番組が根強い人気を集めている。

徳島の対岸、ラジオ激戦区の関西では演歌や懐メロに特化した番組は、スポンサーがつきにくく、次々と姿を消してきた。そうした中で、四国放送ラジオの演歌、懐メロ番組は、県内はもとより、聴取可能な関西のリスナーも集めてきた。radikoでの利用率も四国放送の中では上位を占め、プレミアム会員のエリアフリーを通じて、全国の演歌、懐メロファンにも支えられているという。演歌、懐メロに特化した番組作りが功を奏したともいえる。

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<四国放送本社が入る「徳島新聞放送会館」>

2028年に予定されているAMラジオのFM転換はローカル局にどんな影響を及ぼすのか。四国放送の常務取締役、湯浅雅人さんに聞いた。すでに番組作りに変化が出ているという。AMラジオ局の中には、FM転換にむけて、番組編成を若者むけに特化しようとシフトをはじめた局があると聞く。制作手法も1人のパーソナリティが音楽をかけながら進める番組が多い"FM型"に変え、コストを抑制し、省力化を進めている。

しかし、四国放送ラジオは「FM転換しても、リスナーからの電話や手紙、FAX、メールを紹介しながら、複数のパーソナリティがかけ合いで伝える"AM型"の番組手法を続けていけないかと考えている」と話す。リスナーが長年慣れ親しんできたAMラジオの特長を大事にしていきたいという思いだ。だが、リスナーのリクエストに的確にこたえていくためには人手が必要だ。ラジオの経営環境が厳しくなる中で、コストをどう抑え、どう期待にこたえていけるのか、これからの6年模索していくという。

ラジオと映像 YouTubeとの連携トライアル

ラジオの次の時代にむけて、新たなトライアルも始まっている。四国放送ラジオ局長の池田篤史さんとラジオ編成制作部長の大和あゆみさんに取材した。

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<左から大和あゆみさん湯浅雅人さん、池田篤史さん

21年9月、『マジすか?蜂須賀!2時間スペシャル』を、ラジオの生放送と同時にYouTubeの自社の公式チャンネルで同時配信した。誰でもがスマートフォンで動画が作れ、発信できる時代になっている。特に若い世代にとっては、これまでの放送と違い、"音の世界と動画の世界の境界"がなくなっているのではないかとの発想からの挑戦だったという。

テーマは、最後の徳島藩主、蜂須賀茂韶(もちあき)。明治時代に実業家に転身し、渋沢栄一と共同で鉄道や電力、損害保険会社などを設立した人物だ。聞けば思わず「マジすか!」と叫びたくなるような功績により、近年再評価する動きが高まっているという。歴史好きのリスナーなどにむけた番組だが、写真や字幕があった方がわかりやすいことから同時配信に選ばれた。

YouTube 『JRT四国放送公式チャンネル』から ②.png

<YouTube連携トライアル番組>

※YouTube四国放送公式チャンネルから

トライアルを実施してみてわかったことは、YouTubeを見た人からは「わかりやすかった」という評価があった一方で、ラジオだけを聴いていた人からは「言葉足らずでかえってわかりにくかった」という声もあり、「まるでテレビ」「もっと手軽にやった方が、ラジオの特徴や差別化ができるのではないか」など、さまざまな意見があったという。

ラジオは音声メディアとしての価値をどう発揮していくべきか、あらためて考える機会になったように思う。これからも他局の先行例も参考にしながら、ラジオと動画との効果的な連携を考えていきたいと話している。

radiko エリアフリーへの挑戦

AMとFMの電波特性の違いから、FM転換すると聴取可能エリアが狭くなる。テレビのように中継局を増設すれば少しずつは広がるが、経営環境の厳しい民放ラジオはその投資も難しい。四国放送ラジオでも、山間部の一部や、県外の関西などでの聴取が難しくなる。そこで、課題解決への一つのカギと期待されるのが、インターネットを使ったradikoの活用だ。

2010年に始まったradikoの利用者の現状はどうなっているのか、(株)radiko業務推進室長の坂谷温さんに聞いた。現在、radikoの月間ユーザーは約850万人。新型コロナの影響で在宅勤務が増えるとともに利用者が急増し、ユーザー調査からも生活時間のうち「ラジオやradikoを聴く時間が増えた」と答えた人が約5割を占めているという。

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<坂谷温さん>

ユーザーのうち、放送エリア外の全国のラジオ局を聴くことができる「エリアフリー」が使える有料のプレミアム会員は約90万人。全体の1割強ではあるが、中にはradikoで全国の名物パーソナリティの番組を追いかける熱心なファンもいるという。

四国放送ラジオでは、radikoの「エリアフリー」を積極的に活用した新番組を開発しようと議論が始まっている。ラジオ局長の池田さんは、「県の人口は10万人減ったが、この10万人を『徳島を離れた、徳島にゆかりのある人』ととらえ、こうした全国の人たちに今の徳島を知ってもらい、役に立つ耳寄りな情報を届ける番組をめざしている」と話す。放送後1週間以内の番組を後から聴ける「タイムフリー」も使ってもらい、接触の機会を増やしたいという。ネタの切り口やスポンサーセールスも、これまでのラジオと違い、課題も結構多いというが、番組開発をめざして活発な議論が続いている。

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<毎月最終日曜日に開かれる「とくしまマルシェ」>

徳島県では21年4月からの上半期に、これまでで最も多い1,041人の移住があったという。そのうち、30代以下が全体の6割を占めている。新型コロナでリモートワークが普及し、都市部から地方への人口回帰の動きが始まっている。まだまだ点の動きだが、radikoで四国放送ラジオを聴いて徳島に興味を持ち、首都圏から徳島に移住してきた人もいるという話を聞いた。

地域の人々に親しまれ、地域とともに歩んできた民放ローカル局AMラジオ。6年後のFM転換を機に、どんな新時代のラジオの姿をみせてくれるのだろうか。

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