Amazon Prime Videoは今年1月、広告入りプラン(AVOD)を導入した。加入者は自動的に広告付きプランに設定されるが、月額2.99㌦の追加料金で広告なしのストリーミングに切り替えられる(既報)。それから半年、その影響が他のAVODの広告枠セールスに現れ始めたとウォールストリート・ジャーナル(WSJ)など米メディアが伝えている。
Amazonの武器はなんといってもオンラインショッピング(Eコマース)の会員数。正式な数字は未公表だが、広告入りのAmazon Prime Videoの視聴者数は全米だけで月平均1億1,500万人を超えるという。しかも、ほとんどは追加料金なしの広告入りプランを受け入れている。この規模でAmazonがAVOD市場に参入した結果、広告の大幅な価格割れが起きているというのだ。Amazonのもうひとつの財産はその顧客データ。Amazon Primeでターゲット広告を展開した商品が、Eコマースのプラットフォームで購入されているかどうかまでを広告主は確認できる。
NetflixやYouTube、テレビネットワーク各社が今年5月のアップフロント(来シーズンの広告枠販売・購入に向けた一括交渉)で早くもAmazon Prime対策を講じていたとWSJは伝えている。例えば、Netflixは 視聴者1,000人へのリーチに要する広告費(CPM)を29〜35㌦に引き下げざるを得なかったという。昨年の39〜45㌦から大幅に値下げしての交渉となった。Amazon PrimeがCPMをこの価格帯に設定しているためだ。
Netflixが今年のアップフロントで発表した広告入りプランのグローバルユーザー数は毎月平均4,000万人。1 月の2,300万人から急成長を遂げているとはいえ、Amazon PrimeにAVODで対抗するには厳しい。それでも、Netflixの強みはそのコンテンツが持つ人気とインパクト、市場での話題の高さ。そこはAmazon Primeがまだ及ばない領域ともWSJは指摘している。
ディズニーのグローバル広告部門の責任者リタ・フェロ氏も「Amazon Primeの参入でAVOD市場が供給過剰になり、広告主の選択肢も一気に増えた」とデジタルニュースサイト「yahoo! finance」の取材に答えている。Netflixやディズニーの最大手でさえ、これまで以上に工夫しなければ、今後AVOD市場での広告セールスが難しくなると同サイトは指摘している。
さらに、Amazonはそれ自体が世界有数の広告主でもある。それだけに、広告会社はいずれもAmazonの潤沢な広告予算の獲得に必死だという。「わが社と契約すれば、Amazon Primeの広告枠を優先的に販売する」といった交換条件を提示しての営業活動も行われているという。一方で、この動きは短期的なものとみるアナリストもある。プラットフォーム・媒体とスポンサーを兼ねる巨大企業Amazonの動向を業界は注視している。