2003年の発足から7月1日で20年となるBPO(放送倫理・番組向上機構)。放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会の3委員会が、放送界の自律と放送の質の向上を促している。
「民放online」では、BPOの設立の経緯や果たしてきた役割、その成果などを振り返り、現在の立ち位置と意義を再認識するための連載を企画。多角的な視点でBPOの「現在地」と「これから」をシリーズで考える。
「BPO発足20年 連載企画」記事まとめはこちらから。
BPOが設立されるまでには、「やらせ」問題による放送への信頼低下や放送が青少年に与える影響をめぐる議論、そして行政による規制の動きなどがあった。本シリーズの参考資料として、黎明期からBPO発足までの放送をめぐる出来事やBPOの活動などを年表形式で2回に分けて紹介する。2回目の今回は発足後の各委員会の主な活動をまとめた(省庁名や社名、団体名などは原則として、当時の名称で表記した)。
1回目はこちら。
2.BPO設立後の各委員会の主な活動など
2003年のBPO設立後に、各委員会が「人権侵害があった」「放送倫理違反があった」と判断した事例や、公表した「要望」や「意見」などのうち、主なものを記載した。BPOが公表した全ての事例や判断内容の詳細などは、以下のBPO各委員会のウェブサイトを参照いただきたい。
また、BPOに関する行政の動きや重要な出来事も、一部掲載する。
2004年
3月、青少年委員会は"子どもによい番組"についての多角的な検討を要望する「『子ども向け番組』についての提言」を公表。
6月、放送人権委員会は『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日、03年9月放送)で、自民党の衆議院議員が予算委員会でヤジを飛ばしている映像が使われ、同議員が「全く関係ない映像を切り貼り編集した捏造で、名誉を毀損された」などと訴えた事案について、名誉を侵害する放送であったと判断。
6月、総務省は、藤井孝男衆院議員にかかわる報道でテレビ朝日に、自民党の広報番組で山形テレビに、それぞれ「放送番組の編集上求められる注意義務を怠り、政治的公平に反する」として厳重注意した。テレビ朝日の案件については、放送と人権等権利に関する委員会(BRC)が過失による名誉侵害を認定し、同局に対し適切な措置を講じるよう勧告していたもので、同省は通達の中でBRCの事実認定や判断を引用。
11月、BPOは「総務省はBRCの事実認定や判断を引用して自らの措置を正当化したもので、テレビ朝日は二重の処分(制裁)を受けたことを意味し、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するもの」などとする「テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明」を3委員会の委員長連名で公表。
12月、青少年委員会は血液型によって人間の性格が規定されるという見方を助長しないよう求める「『血液型を扱う番組』に対する要望」を公表。
2005年
12月、青少年委員会は凶器・殺傷方法・遺体の損傷状況等を詳細に報道することは子どもへの好ましくない影響が懸念されることなど、児童殺傷事件等の報道に関して配慮を求める「『児童殺傷事件等の報道』についての要望」を公表。
2006年
10月、青少年委員会は児童を出演させる番組および児童を対象とした情報系番組等の制作に関して配慮を求める「少女を性的対象視する番組に関する要望」を公表。
2007年
1月21日、関西テレビは『発掘!あるある大事典Ⅱ』(1月7日放送)の中で使用したデータに捏造されたものがあったとし、謝罪放送を行った。過去の放送分にも虚偽や捏造があったことから問題化。
2月7日、BPOの放送番組委員会は有識者委員による「声明」を発表し、関西テレビの番組制作システムなどの問題点を指摘するとともに、公権力が放送に介入することへの懸念を表明。
2月15日、民放連は「放送倫理の確立に向けた理事会決議」を行い、再発防止に向けた取り組みを強化させることを発表。
3月7日、民放連はNHKと連携して対応を協議し、虚偽放送が疑われる事案があった場合に、これを調査・検証する委員会をBPOに設置することを発表。
4月6日、総務省はこの問題を受け、提出準備を進めていた放送法改正案に、総務大臣の権限を強化し虚偽放送が行われた場合に再発防止策計画の策定を放送局に求める条項を加え、国会に提出。番組に対して直接的に関与できる権限を与えるもので、放送界に危機感が広がる。
5月12日、BPOは「放送番組委員会」を発展的に解消し、「放送倫理検証委員会」を設置。虚偽の放送があった場合に「再発防止計画」の提出を求めることができるとするなど、国会で審議中の放送法改正案を強く意識した性格の委員会となった。
10月、青少年委員会はテレビのバラエティー番組における罰ゲームなどに関し対応を求める「『出演者の心身に加えられる暴力』に関する見解」を公表。
12月21日、一連の放送界の取り組みを受けて、政府は「BPOによる取り組みが機能していると認められる間は、再発防止計画の提出を求める規定を適用しない」とし、再発防止計画に関する条項を落としたかたちで改正放送法が成立。
2008年
4月、青少年委員会は児童ポルノをめぐる状況を憂慮し、テレビ映像の悪用を予防する観点から「注意喚起 児童の裸、特に男児の性器を写すことについて」を公表。
2009年
7月、放送倫理検証委員会は『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ、08年11月23日放送)が虚偽証言を基に岐阜県庁に裏金があると報道した問題で、放送倫理違反の程度が重いとして、初の「勧告」の判断。
11月、放送倫理検証委員会はバラエティー番組全般について、視聴者の現実にあわせて「新しいバラエティーを作り上げてほしい」と要望するとともに、放送界全体で議論・検討する場が必要と提言する「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見」を公表。
11月、青少年委員会は薬物犯罪を犯した個人に焦点を当てるだけでなく、その背景や影響を含めて多角的に報道することなどを求めた「青少年への影響を考慮した薬物問題報道についての要望」を公表。
12月、総務省は言論の自由をはじめとする国民の権利保障等の在り方について検討する「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」(砦フォーラム)を設置。第4回会合(2010年3月29日開催)、第8回会合(同8月25日開催)、第10回会合(同11月10日開催)にBPOから飽戸弘理事長ほかが出席し、活動内容などを説明。
2010年
12月、砦フォーラムが報告書をまとめる。この中で、BPOについて設立目的を評価するとともに、「常にその取組みの改善が行われていくことを期待する」と記載。
2011年
7月、放送倫理検証委員会は情報バラエティー番組に関する意見を表明した際、別冊として若手のスタッフ向けに情報や事実の取り扱いの重要性を説いた「若きテレビ制作者への手紙」と題した冊子を作成し、公表。
2012年
3月、青少年委員会は東日本大震災の報道によりPTSD等子どもたちの被害を拡大させないための対応を各放送局に求めた「子どもへの影響を配慮した震災報道についての要望」を公表。
2015年
11月、放送倫理検証委員会は『クローズアップ現代』(NHK総合テレビ、2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(NHK関西ローカル、同年4月25日放送)について、情報提供者に依存した安易な取材などにより、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして「重大な放送倫理違反があった」との意見を公表。併せて、総務省が放送法を根拠に番組内容を理由とした行政指導を行ったことを「極めて遺憾」と表明。
2017年
2月、放送倫理検証委員会は選挙に関して放送が担うべき職責と使命について「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」をまとめ、公表。
12月、放送倫理検証委員会は『ニュース女子』(東京メトロポリタンテレビジョン〔TOKYO MX〕、1月2日放送など)の沖縄基地問題の特集について、「抗議活動を行う側への取材の欠如を問題としなかった」「侮蔑的表現のチェックを怠った」「完パケでの考査を行わなかった」など6つの問題点を挙げ、TOKYO MXの考査が適正に行われたとは言えないと指摘し、重大な放送倫理違反があったと判断。
2018年
3月、放送人権委員会は『ニュース女子』(東京メトロポリタンテレビジョン〔TOKYO MX〕、1月2日放送など)での沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設反対運動の特集は、「反対住民への誹謗中傷」「前提となる事実が虚偽」「人種差別を扇動する」などとして申し立てのあった事案について、人権侵害があったと判断。
2020年
6月、放送倫理検証委員会は『島に"セブン-イレブン"がやって来た~沖縄進出の軌跡と挑戦~』(琉球朝日放送、19年9月21日放送)と『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』(北日本放送、19年10月13日放送)の2つのローカル単発番組について、「視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容になっていたと認められる」として放送倫理違反があったと判断。
10月、放送倫理検証委員会は「番組と広告の境目」をめぐる問題の対応策について、民放連や民放各局の自主的・自律的な精神と姿勢での検討を求める委員長談話「番組内容が広告放送と誤解される問題について」を公表。
2021年
2月、放送倫理検証委員会はフジテレビが2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査のデータの一部に架空入力があり、18のニュース番組で伝えた世論調査結果とそれに関する放送を取り消したことについて、「事実に反する情報を視聴者に伝えた」「世論調査の業務を委託先に任せたままにした」などを指摘し、重大な放送倫理違反があったと判断。
2022年
4月、青少年委員会は他人の心身の痛みを周囲の人が笑う場面がリアリティーショーの体裁として放送されることが、形成途上の人間観・価値観に与える危険性を指摘した「『痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー』に関する見解」を公表。
9月、放送倫理検証委員会はNHKのBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編(2021年12月26日放送)の字幕の一部に不確かな内容があった事案について、放送倫理基本綱領およびNHK放送ガイドラインに反しているとして、重大な放送倫理違反があったと判断。
(2023年3月1日現在)
<参考>
・「民間放送50年史」「民間放送70年史」「機関紙『民間放送』」(いずれも日本民間放送連盟発行)
・「BPO10年のあゆみ」(放送倫理・番組向上機構 編)