CES2023で考えた~進化する映像の中で放送局は②

長井 展光
CES2023で考えた~進化する映像の中で放送局は②

(①はこちら

"従来型展示"の韓国LG・中国勢
転換したパナソニック・韓国サムスン

毎回、会場の一番目立つところに陣取り巨大画面に曲面映像を映し出してきた韓国LG。昨年はその広いスペースを「公開空地」状態にしてイスと二次元コードのパネルを置いて、「製品情報はスマホで見て!」に方針転換し、ある意味、意表を突いてきましたが、今年は従来型展示(=画像㊤)に戻りました。LG一番の売り物はワイヤレスの4Kテレビです。これは映像信号をチューナー部から飛ばすというもので、電源までワイヤレスというわけではありません。「世界初」を称していましたが、すでにワイヤレスの製品はパナソニックも出していて、「どの部分で世界初?」の議論はあることでしょう。

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<韓国LGがメインに据えた"世界初"ワイヤレス有機ELテレビ

同じようにテレビを中心に据えたのは中国系メーカーでハイセンスやTCLが大きなブースを構え、8Kテレビなどを展示しましたが、人垣はできていません。4Kはその映像が放送波から来るのかネットから来るのかはともかくとして、定着してきた感がありますが、欧州市場で消費電力が大きい8Kテレビは、EUが規制をかけ「ご法度」になる動きがあり、家庭用としては先行きが不透明な面があります。なお、東芝から中国ハイセンスに売却された「レグザ」は「TOSHIBA」名でハイセンスブースの一部で展示されていて、日本人としては複雑な心境ですが、その高い技術力は依然、評価されています。

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<中国ハイセンスブースの裏手にTOSHIBAレグザ

ところで同じように大きなブースを構えるパナソニックと韓国サムスンは、その展示の中心はすっかり「サステナブル」に移りました。パナソニックは「グリーンインパクトシティ」を掲げ、太陽光利用や人、社会、地球に対してウエルビーイング(良好な状態)をもたらす暮らしの家屋を打ち出していました。

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<パナソニックはサステナブルやエコを訴求

「クルマだけではない」ソニー

ソニーについて「クルマだけではない」と書くのも???なのですが、コロナ前、昨年とソニーの一番の注目点はクルマでした。売るかどうかは......だが開発を進めるところから始まり、昨年は「商品化するために作っています」と旗幟を鮮明にしてきました。今年はホンダと組み設立したソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」が2025年に市場参入すると打ち出し、大注目を浴びました。ソニーが得意とするセンサー技術を活用。自動運転で「運転しなくて良い」乗客に、車内でこれまたソニーの得意技のオーディオ・ビジュアルエンタテインメントを提供するというのが揺るがぬ方針です。

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<ソニーのクルマの周りは常に人だかり

それだけではありません。このプロジェクトにはアメリカの移動体通信技術・半導体大手のクアルコムが入っています。車体に載せられた45個のセンサーは単に自動運転のためのものではなく、そこから得られる画像、情報を活用してビッグデータを収集してビジネスに活用することができると言います。

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<ソニーのモ―ションキャプチャー
手前台上にあるセンサーをつけるだけで簡単に

さて、映像の部分でソニーは、VR(バーチャルリアリティ)向けの3D(立体映像)コンテンツ制作などを簡単にする技術を展示しました。「mocopi」という小型軽量のセンサー6個を手、足や頭につけてスマートフォンで撮影するだけで、簡単にモ―ションキャプチャー(人や物の動きをデータ化)できる機器です。初期のモ―ションキャプチャーがスタジオに専用の区画を設け、多くのセンサーをつけた衣装をまとい......だったのに比べると、実に手軽にVR映像の中に入っていけそうです。値段も5万円ほどで、VTuber層への広がりを狙っていますが、プロからも注目されていました。

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<ソニーのボリュメトリック 360度どこからでも写した映像に

また、実際のカメラでは撮影できないようなアングルの、360度の自由視点の映像を撮る「ボリュメトリック」という技術では、持ち運びできる7個のセンサーで囲むだけであたかも合成された空間の中にいるかのような映像が、15秒ほどの短い処理時間で生成されます。映像処理はクラウド上で行われるサービスなので、高価な機器を買うというような設備投資もいりません。そのほか、特殊なメガネなどをかけなくても立体映像が見られるディスプレーや、ゲーム機プレイステーションのVRヘッドセットなど、やはり「映像の」ソニーらしい展開でした。ちなみにソニーブースには「テレビ」は1台も展示されていませんでした(でも市場ではちゃんと売られています)。

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<『文化放送 大竹まことゴールデンラジオ!』登場

CES会場に文化放送!!

クルマに関する展示は年々増え、昨年オープンした新しい展示場部分の全館を占めるまでになっています。無人運転のバスやIT技術満載の農業機器が並ぶ中、突然現れた文化放送『大竹まことゴールデンラジオ!』の画像が描かれた壁。これはアメリカのデジタルラジオ「HDラジオ」のブース。HDラジオはデジタルの特性を活かして曲情報を表示したり、そこからダウンロードにつなげる仕組みなどを開発・実現していて、アメリカでは2,500以上のラジオ局が導入し、9,500万台の自動車に受信機が搭載されているということです。日本などアメリカ以外の国のラジオ局からも番組データの提供を受けていて、そのひとつが日本仕様の画面であったわけです。「放送」そのものの展示が少ない中で、車社会のアメリカではラジオの存在は大きいと改めて感じました。

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<HDラジオ(dts)は各国ラジオから番組データを受けている

メタバースも花盛りで、ゴーグルのように大きかったヘッドセットもどんどん軽量なものが出てきて使いやすくなっていく。中国勢は減ったものの、たくさんのスタートアップ企業がユニークな技術・製品を展示した「ユーレカ・パーク」。その一角にはウクライナ企業の姿も。そのウクライナのことは、基調講演のプレゼン映像で解決しなければならない課題のひとつとして、「政治不安」として間接的に表現されただけだった......などなど、まだまだ話題満載だったCES。おそらく来年はさらにウィズコロナ状態が進み、映像系も進化することでしょうが、情報産業・技術分野で中国企業がどれくらいアメリカで活動することが許されるのか、そんな中で"放送由来"のものがどういう地位を占めるのか、引き続き注目していきたいものです。

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<メタバースでショッピング体験も

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