CES2023で考えた~進化する映像の中で放送局は①

長井 展光
CES2023で考えた~進化する映像の中で放送局は①

世界最大のエレクトロニクスショーCESが、1月5日から8日(現地時間)までアメリカ・ラスベガスで開催されました。"コロナ明けスグ"で"おっかなびっくり"開かれた昨年に比べると、はるかに多くの人々がCESに帰ってきました。主催者発表では来場登録者は115,000人超。昨年が45,000人、コロナ前の最盛期は20万人近かったので、"6割がた復活"というところです。「減った部分は中国からの参加者?」とみられる中、「ちゃんとマスクをした」日本人、韓国人のグループが目立っていました。「百聞は一見にしかず」、やはり実物で体験できることの意味は大きいですし、何より再会を喜び合うという空気が会場には溢れ、賑わいました。

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<最終日まで混みあった会場 欧米人はほぼマスクをしていない

私がCESに通い始めた十年ほど前は、花形はテレビで、「テレビ≒放送を映すもの」と言えたかと思いますが、今年目立ったのは「映像」で、これはテレビ以外のさまざまなデバイスに、メタバースなどの進化形も含め......の世界で、それから言えば「放送」の占めるウエイトはかなり小さいと言えます。もちろん、CES自体がその名の源の「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」から大きく脱皮し、クルマや環境さらに食糧増産などに間口が広がっていることも大きな要素です。しかし、一方で「放送局」を単に「電波で放送を流す」だけでなく、「映像・番組作りのプロ集団、確かな情報の発信源」と捉え、放送波に限らずネットでの配信などさまざまな伝送路、映像展開の場に乗り込んでいけば、「映像」の意味合いが大きくなる中で、ビジネス拡大の機会がいっぱいあるのではとも感じました。

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<昨年から使われている新ホール正面

駆け足で見て回ったCESを、"放送局に勤める者の視点"で報告します。

グーグルで"テレビ"を見る

これまでも会場の屋外スペースに独自のパビリオン(建物)を建て、遊園地のアトラクションのような展示で「グーグルの世界」をアピールしてきたグーグル。今年はパビリオン復活です(=冒頭画像)。数ある展示物の中で注目したのは「グーグルTV」。ネット配信の動画が見られる(動画だけを見る?)家庭内のスマートテレビとスマートフォンを連携させ、家で見たコンテンツ(番組)の続きは出先のスマホで、家に帰ればその逆も。スマホがテレビのリモコンのように......。グーグルTV自体は、テレビに突っ込むデバイス「クロームTV」の発売以来、もう10年ほどの歴史がありますが、いまや3,000種を超すアプリが作られ、月間1億5,000万台のアンドロイドTVデバイスが稼働しているとうたっています。説明に立つスタッフに恐る恐る、「これって、映るのは配信だよね? 電波で受ける地上波とかはないよね?」ときくと「そうだよ、コンテンツはネットから来るんだ」と何を今さらという感じのお答え。これをもって「もはやテレビの時代ではない」「テレビは乗り遅れた」と捉えるべきか......。いや、それは違うでしょう。

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<テレビ、スマホを一体で。もちろん、"通信の世界で"

アメリカでは例えば月額7,000円ほどのYouTubeTVのサービスの中には、スポーツや映画などの専門コンテンツと並んでちゃんと4大ネットワークの放送も、そのローカル局の放送も含まれています。要は放送(局)がちゃんとネット・配信の世界に入りこんでいけば、この「グーグル的世界」の中で生きていけるわけです。ちなみにアメリカでは昨年、スマートホーム共通の通信規格「マター」が発表され、グーグルも、アップルも、アマゾンも相互接続の協調路線となりました。家庭内にさまざまなネット接続の機器が増え、スマホ操作やスマートスピーカーに向けて喋ってコントロールすることになり、その中ではますます「地上波局の番組も含めてグーグルTVで見る」ことは進むものと思われます。

次世代地上波放送は

次世代地デジのブース.jpg

<次世代地デジのブース

会場では「4K」と大書されたアメリカ版次世代地上波放送規格「ATSC3.0・ネクストジェネレーションTV」もブースを出展しました。しかし、説明パネル中心であまり目立たない存在でした。アメリカ次世代地上波放送は4Kのほか、高音質、ネット連携や緊急警報放送などが実現でき、すでに50地区で放送が始まっています。今年中には全米の75%の家庭が受信可能エリアに入るということで、ソニー、サムスン、LG、ハイセンスから受信機が発売されています。しかし、アナログから地デジへの転換のような「マスト」ではなく、「やりたい局がやる」ベースです。ケーブルテレビの普及率が高いアメリカではよく「コードカット」という言葉が言われ、これは「ケーブルテレビ解約」という意味ですが、それでアンテナを立てて次世代放送を見る、というわけではなく「配信にシフトしていく」のが実情です。

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<放送エリアは広がってはいるが......

またケーブルテレビもこの次世代放送に関心が高いわけではなさそうです。放送局にしてもケーブルテレビからまとまった「再放送同意料」を得ているので、「ケーブルの加入者が減るのは困る」という思いがあり......と担当者はやや困惑気味に話していました。次世代放送では特定の機器向けに信号を送るという、いわば「帯域貸し」のビジネスも可能で、放送局にとってビジネス拡大につなげることも可能で、担当者は「4月にNABショーに来たら新しいことが話せるよ」と言っていました。

へ続く)

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