RKB毎日放送・冨士原圭希さん 「1人8役⁉ 変身‼サラリーマン」<U30~新しい風>⑭

冨士原 圭希
RKB毎日放送・冨士原圭希さん 「1人8役⁉ 変身‼サラリーマン」<U30~新しい風>⑭

30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。14回は、RKB毎日放送(以下、RKB)の冨士原圭希さんです。この夏、各賞を受賞している『空想労働シリーズ サラリーマン』(RKBラジオ)で、企画、脚本、出演......と数えきれない役職を担当されています。そんなスーパーすぎるサラリーマン生活を明かしてもらいました。(編集広報部)


『空想労働シリーズ サラリーマン』

スライド3.JPG

<記念すべき第1話のタイトル>

「至急、変身願います。守るのは地球か、コンプラか──。」

2023年8月〜10月にRKBラジオで放送した『空想労働シリーズ サラリーマン』。その企画書に書き添えたキャッチコピーです。今年に入り、この番組が第61回ギャラクシー賞ラジオ部門優秀賞、第50回放送文化基金賞ラジオ部門優秀賞をダブル受賞し、大変驚き、また光栄に感じています。

本作は昭和特撮ドラマ風の演出で、巨大ヒーローと怪獣の戦いに「会社員の悲哀」「働く喜び」を落とし込んだ音声ドラマです。ストーリーは「昭和98年(≒令和5年)、高度経済成長の末、労働人口が9割を超えた日本。 突如として出現した"会獣"(=会社の獣)の前に蹂躙される労働者たち。立ち向かうRKB(=労働環境防衛保障)だが、絶体絶命のピンチを迎える。その時、人々の前に姿を現した巨人、その名は"サラリーマン"。プロレタリア星からやってきた彼は、残業時間など多くの制約を抱えながら、労働者のため会獣に立ち向かう」というものです。

サラリーマンは身長51m、体重5万1千トン(5月1日のメーデーに由来)で、必殺技は「ストライキ光線」。地球での就業時間はわずか1分で、時間が経つと残業ランプが点滅します。掛け声は「シュッシャ!」「キュウヨ!」「オツカレシタ!」など。 

対する会獣は、尻尾会獣ロングテール(長い物には巻かれろ)、二面会獣オベッカー(本音と建前)、兄弟会獣ダカエン・ヤスエン(円高円安)といった社会人が直面する問題を巨大生物に「擬獣化」したものです。
特撮ドラマの体裁はとりつつ、誰もが共感できるユニークな社会派ドラマを目指しました。

「ラジオドラマを作らないか」

企画がスタートしたのは、2023年の2月。入社3年目の終盤でした。ラジオ局長にあたるオーディオコンテンツセンター長から「ラジオドラマを作らないか」と提案がありました。

私は普段アナウンサーとして、テレビコーナーや、若者向けラジオ『カリメン』、ワンオペ番組『冨士原圭希 日曜のウラ』、野球実況などを担当しています。しかし、本作は企画・脚本・演出・編集・キャスティング・営業、さらには主題歌の歌唱や主役のサラリーマンの声も兼務しました。自社イベント「RKBカラフルフェス」や「博多どんたく」で写真撮影会を催した際には、スーツアクターも務め、もう何が本業だか分かりません。

スライド6.JPG

左からサラリーマンに扮する冨士原アナ、音楽を担当した松隈ケンタさん、ヒロイン隊員役を演じた別府あゆみさん>

そもそも潤沢な予算があるわけではなく、人件費を切り詰めていく過程で雪だるま式に担当範囲が広がったようにも思います。一方で、高い熱量を一点集中し、作品の世界観を固定できた点では効果がありました。

予算が限られたローカル局の、それもラジオの現場では、選択と集中が必要です。私の担当範囲を広げた分、本作には、「スーパー戦隊」や「仮面ライダー」シリーズ出身である俳優の皆さまに多数ご出演いただきました。また、レギュラーに『ドラえもん』スネ夫役で知られる声優の関智一さん、音楽制作(主題歌・BGMなど)はBiSHや新しい学校のリーダーズなど数多のアーティストの楽曲を手掛ける松隈ケンタさんに依頼し、ご提供いただいた効果音・BGMは60曲あまりにのぼりました。

キャストやスタッフに伝えたのは、「ローカル局・音声ドラマの可能性を広げる」ことです。ローカル局制作だからといって、最初から幅を狭めるのではなく、日本全国を意識したコンテンツを創り出すこと。『空想労働シリーズ サラリーマン』ではあえて福岡らしいモチーフは入れていません。radikoやポッドキャストなどテレビに先んじて配信の手段が生まれた音声メディアだからこそ、エリアを越えた自由な制作ができると考えています。

空想を具現化する「特撮」×想像を刺激する「ラジオ」

本作の最大のポイントは「音で感じる特撮ドラマ」であることです。巨大特撮は通常ならば何千万円という制作費がかかりますが、音のみでそれを表現しています。空想のものを形にする「特撮」と、想像を刺激する「ラジオ」の親和性に期待し「空想×想像」もテーマに据えました。そのために、 音響効果にこだわり、かつて昭和特撮でどのように効果音を作ったのか調べ、多くをオリジナルで制作しました。ドライヤーの音=光線音、ペットボトルを潰す音=爆発音、ストローを吸う音=会獣の声、などなど。

RKB.jpg

<細部までこだわりがつまった番組ポスターイメージ>

もっとも、音だけで情景がどこまで伝わるのかは非常に不安でもありました。描写を足すべきか、説明を足すべきか何度も逡巡しましたが、今となればそれは杞憂でした。放送が始まって以降、サラリーマンの闘うさま、会獣が街で暴れるさまを豊かにイメージできたと反響が寄せられたからです。

それは、これまで日本で多くのヒーロードラマが作られ、視聴者にイメージのレールが敷かれていたのはもちろんのこと、音声メディアが刺激する「想像力」がいかに効果を発揮したかを物語っています。CG・デジタル全盛で、全てが「見られる」世の中だからこそ、音だけでイメージするコンテンツは、より価値を高めていくのではないでしょうか。その点で、特撮とラジオの親和性は非常に高いと言えます。

「変身」のその向こう

RKB5.jpg

<JR九州・博多駅とのコラボポスター>

放送終了後も配信は継続し、グッズ販売会、JR九州・博多駅とのコラボレーションなど広がりを見せました。特に博多駅で、「通勤!サラリーマン」と題したポスター掲示や構内アナウンスを展開し、通勤マナー啓発の一助となることを目指しました。企画を知った博多駅長との直接の打ち合わせで、スムーズに実現に至ったことからも、コンテンツを生み出し世に放つことの大切さを実感できました。

今後は、第2期『帰りたいサラリーマン』の今夏の放送が決定し、さらに「ラジオドラマ原作の実写作品」を目指して取り組んでいきます。

2020年に入社し、放送局の今後に不安を感じなかったかというと、うそになります。テレビ・ラジオ・ローカル局を取り巻く環境は目まぐるしく変わっていきます。いち放送局員として、アナウンサーとして、この先を見据えできることは何か。自ら企画し、出演者として伝え、より広げていくという、自家発電的な働き方も可能性の一つかもしれません。ただ漠然と仕事をこなすのではなく、全てに意味を持たせ、「変身」し続けていくことが、放送の未来に繋がると信じて邁進していきます。


【編集広報部注】『空想労働シリーズ サラリーマン』の第2期の放送予定は以下のとおりです。
『帰りたいサラリーマン』(土、7:00~)
2024年8月24日スタート(RKBラジオで放送、YouTube・ポッドキャストなどで配信予定)
詳しくはサラリーマン公式X(@salaryman_rkb)から

IMG_2239.jpeg

最新記事