【コロナ禍を振り返る④】フジテレビ 放送技術の現場から 番組に一体感と温かみを

真崎 晋哉
【コロナ禍を振り返る④】フジテレビ 放送技術の現場から 番組に一体感と温かみを

2019年12月初旬、中国・武漢市で新型コロナウイルスの感染者が報告され、翌年3月にWHOがパンデミックを宣言するに至った。感染症対策として「マスク」「リモート」「アクリル板」などが日常的なものとなり、放送の現場でも対応を余儀なくされた。そして、2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症は感染症法上の「5類」に移行された。

民放onlineでは、コロナ禍の放送を連続企画で振り返る。今回はフジテレビの真崎晋哉氏に「放送技術の現場」から当時の苦労や工夫を執筆いただいた。

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どうしてよいか分からなかった

2020年3月の東京マラソンが「新型コロナウィルス感染症」の対策を取りながら番組制作を行った初めての大型番組だったと記憶している。日々の新型コロナ感染症拡大の報道から、果たしてイベントは開催されるのか? われわれは何に気をつけて中継を行えばよいのか? コロナという病気への知識もない状態だった。

マスクの着用や体温計測の習慣もなく、スタジオサブの入口にマスクと体温計を準備し各自確認を求めたが、まずスタッフの理解を得ることが何より大変だったことを思い出す。そもそも、マスクや体温計、除菌グッズの手配にも苦労し、社内での指針も模索している状況下、本当に「どうしてよいか分からなかった」という印象が強く残っている。

その後、スポーツや音楽イベントの中止に伴い番組の中止や縮小が相次ぎ、「テレワーク」という新しい業務形態が発生した。制作技術のスタッフがテレワークで何をすべきか、現場に出ず自宅でできる制作技術の仕事とは何かを自問自答する日々が続いた。映像システムなどを取り扱うVEセクションは番組資料作成などで比較的スムーズにテレワークを進めることができていたが、カメラマンはどうすべきか悩みも多かった。

そのような中で、TeamsやZoomなど新たなITツールを利用する機会が増えていくことになるが、技術系社員がツールを使いこなしリモートで打ち合わせなどの作業を始めるのにはそれほど時間を要しなかった。

同時に、スタジオの生放送や収録番組ではフロアやサブへのアクリル板の設置や、リモート出演というコロナ禍ならではの新しい作業や技術が始まった。

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<サブ打ち合わせ卓の送風機とアクリル板㊧、フロアのMC卓のアクリル板>

違和感ないリモート出演を実現

演者間の距離を確保しアクリル板で仕切るという単純な作業ではあるが、カメラをとおして見るとアクリル板を置く位置によっては反射や見切れが生じるため、位置合わせはカメラマンの大きな課題となった。また、演者の人数が増えると、演者間の距離を確保するため、広いフロアや大きなセットが必要になった。それによりグループショットの成立が難しくなるため、生放送では分割画面でグループショットを作成した。演者が離れているためワイプやSQ(画面の端に小窓を作り演者さんのタイトショット等を縮小して合成する映像技術)サイズのカメラワークでは演者を次々に撮ることが難しくなり、カメラ台数を増やさざるを得ない場合もあった。

スタジオでの密集を避けるため、フロアでのゲスト出演人数の制限を行う必要もあった。リアルでの出演ではなく、スタジオフロアに設置したマルチモニターに映した演者をスタジオカメラで再撮するという演出も多用された。当初は違和感があったが、スムーズな掛け合いができれば、再撮カメラでのワークも相まって、ワイプやSQよりもスタジオでの一体感が得られていた。

朝の情報番組『とくダネ!』(2021年3月終了)ではメインキャスターの自宅書斎からリモート出演を行ったが、スタジオ背景をリモート先の書斎の背景と一致させ、マルチモニターに映った時にそこにいるかのような雰囲気を作り出した。VEはマルチモニターの再撮をスタジオカメラと同じトーンに調整を行うことで違和感をなくした。

さらに、自宅からフジテレビ本社まではFPU(映像・音声伝送無線装置)と低遅延CODEC(データを符号化・復号化する規格)を使用して回線を構築し、非常にスムーズな掛け合い中継を実施したこともあり、メインキャスターがスタジオにいるかのように番組を進行することができた。コロナ禍におけるリモート出演として話題になった。

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<『とくダネ!』リアルな雰囲気をつくりだしたリモート出演(2020年4月7日~)>

他にもSkypeを利用したインターネット中継や、本社内にリモート出演の専用部屋(タレントクロークの一室を利用)を仮設し、カメラや音声、照明を設置して連日の情報番組で活用した。こちらの「リモート部屋」は先日2023年5月12日に完全撤収した。実に3年にわたる運用となった。

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<リモート出演部屋の様子㊧、常設機材>

スポーツ中継の現場では

スポーツ中継では、選手に対する感染や、出張先におけるスタッフ内での感染拡大の防止の観点から厳しい対策を取らざるを得なかった。イベントによっては事前PCR検査や、2週間前からの健康観察などが義務づけられた。当社スポーツ局では現場でのマスク二重化や食事の個食・黙食の徹底を行った。最も感染が拡大した時期は、中継の出張先でもスタッフには夕飯弁当の配布と外出自粛のお願いをすることとなった。

スタッフにはフェースガードの着用もお願いしたが、モニターが見えづらいことから、ストレスも多く作業効率も悪かった。そのため、狭い中継車内ではあったが、アクリル板やビニールシートを設置して対策を行うとともに、送風機なども導入し車内の換気を行った。長時間におよぶ中継作業においては、作業環境の向上は非常に大切であった。

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<中継車の換気の様子㊧、送風機で強制換気>

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<中継車内SW卓アクリル板の設置㊧、中継車内制作卓アクリル板>

制作技術現場でスタッフの感染があった場合には、感染拡大を防ぐため一緒に作業していたスタッフは濃厚接触者として健康観察を行う必要があった。状況によっては濃厚接触者となったスタッフは出社制限とせざるを得ないため、現場のスタッフ繰りは非常に困難を極めた。また、日常的に行っていたコミュニケーションが取れなくなり、必然的に現場の雰囲気は暗くなりがちではあった。

制作者の思いに応える

そのような中、番組として演出的にもコロナを逆手にとった新しいアイデアを実現させた例もある。『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は平時であればスタジオに100人以上を集めて行うクイズ番組である。三密を回避すべきコロナ禍ではもっとも難しい条件の番組ではあるが、インターネット経由で99人に早押しクイズをさせるという常識を覆す技術で見事に番組を成立させた。制作者の「コロナ禍でも番組を継続したい」という強い思いに、技術が応えたものであり、既存のテレビ会議などの技術を利用しながら独自技術を開発し番組に応用した。

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<『99人の壁』リモート演出スタジオの様子(2020年6月6日)>

また、2022年2月に開催された「北京冬季オリンピック」では、コロナ禍での開催ということで非常に厳しい対策が実施された。一般客だけでなく関係者の入国もままならない状況下での番組制作となったが、東京本社スタジオにいるゲスト出演者を、北京のスタジオにバーチャル出演させ、まさに北京にテレポートしたかのような演出「東京テレポート」を実現した。バーチャルカメラを現地に持ち込み、カメラの制御データを映像と組み合わせて北京から本社へ伝送することで、北京のカメラワークやスイッチングに連動したバーチャルCG描画を行った。

制作陣からの「コロナ禍だが、暖かみのあるリモート演出はできないか?」というリクエストに技術が応えたものであったが、マルチモニターやワイプでのリモート出演ではなく、一工夫加えることでスタジオに一体感と温かみを与える演出となった。

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<「東京テレポート」のテストの様子>

どちらの例もコロナ禍で下を向きがちな番組制作現場を明るくした、コロナ禍ならではの制作技術と考えている。

確実に進歩

2023年の5月以降、当社内では、マスク着用は個人の判断となった。番組ごとに感染対策の基準はあるものの、スタジオフロアのアクリル板も撤去され、演者同士の距離も縮まり、スタッフの一体感が戻ってきている。一方で、換気や除菌など機材を清潔に保つことや、時間的効率を意識したTeams打ち合わせなどの良い習慣は残せるように環境は整えている。中継番組では出張先でのスタッフ同士のコミュニケーションが戻り、番組制作現場に活気が戻ってきた。

コロナ禍の3年間で我慢したこと、難しかったこと、つらかったことは確かに多かった。しかし技術を駆使し前向きに挑戦したことや学んだことも多かった。番組制作現場は確実に進歩したと考えている。

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