仏大手民放、公共放送の財源モデルめぐりEUに提訴

編集広報部

フランス最大手の民放TF1が同国の公共放送の財源確保の手段が違法状態にあるとEU委員会に訴えていたことが、1月22日までに明らかになった。第一報したフィガロ紙によると、TF1は2023年11月、公共放送のフランス・テレビジョン(FTV)とその株主であるフランス政府をEU委員会に提訴。同委員会は1月中旬に仏政府に情報を照会したとのことだ。フランス側は4週間以内に回答する必要があり、それをもとにEU委員会は正式な調査をするかどうか判断するという。

仏公共放送の負担金(いわゆる受信料)徴収制度は22年に廃止されたが、それに代わる財源モデルがまだ見つかっていない。暫定措置として仏政府は、公共放送の事業運営に必要とみなされる資金を付加価値税(VAT)収入の一部から拠出している。財源が国民からの徴収ではなく国庫からとなったため、これがEU条約にある「国家補助規制」*¹ に抵触する可能性が出た。TF1の訴えは「立法府が決定した資金調達手段の変更は、新たな国家補助に該当する。実施前に欧州委員会に申告する必要があり、そうでなければ違法だ」というものだ。

EUの「国家補助規制」は、特定の企業や商品に対する競争を妨げるような補助の禁止が目的だが、公共放送は重要な報道・文化機関と位置づけられており、その存続を維持するための資金援助が未申告であっても「違法」と認定される可能性は低い。だが、TF1は単なる申告漏れだけでなく、内包される2つの問題を指摘している。

  1. 新制度はFTVに対して新たに給与税の支払いを義務づけたが、TF1は「増えた負担分がVATからの補助金で補填されている」と指摘。加えて、FTVは1969年以来、VAT課税率で通常の20%ではなく2.1%と大きく優遇されており、この差額で十分に給与税の支払いを賄えるはずなのに、国に補填させているのは「二重の負担逃れだ」と訴えている。
  2. FTVの放送責務について、TF1は「明確な義務が規定されておらず、仏政府は公共放送サービスについて十分な管理を行っていない」と指摘し、補助そのものの妥当性を疑問視。この点は他の民放も同調するところで、23年5月に民放テレビ協会(ACP)*² はボヌル首相に書簡を送り、FTVには「公共放送の使命にふさわしい作品や番組の露出が少ない」と批判。FTVのメインチャンネルでは民放を圧迫するような番組を放送しており、公共放送の責務の明確化を求めていた 。民放の陳情に対して政府が回答しなかったのでTF1は提訴に踏み切ったとフィガロ紙は報じた。

こうした動きの背景には民放の経営状況の悪化がある。昨年の第1四半期のテレビの広告売上は前年比で7%減と落ち込んだのに対し、FTVの24年度事業予算はインフレ調整もあり前年比6%アップとなっている。フィガロ紙によると、公共放送への公的補助の金額は無料放送をしている全民放の制作費総額よりも多く、義務の取り決めは民放より少ない*³ とのことだ。同紙は「提訴したTF1の狙いは公共サービスの弱体化ではなく、民放と公共放送のバランスの不均衡が産業のエコシステムを弱体化させる危険性があるからだ」と民放を擁護している。

EU委員会は2月中に提出される仏政府の回答をもとにTF1の訴えを精査するが、「国家補助」として調査が開始された場合、EU法では委員会の承認が出るまでは補助金の給付は認められないことになる。公共放送については例外とするのか、委員会の判断が注目される。

いずれにせよ、現行の公共放送の資金調達方法は22年の法改正当時に同国の憲法評議会が問題を提起しており、24年度の予算審議でも「付加価値税収入は公共放送の使命と特に関連性がないため、現行の公共放送の財源調達方法は25年の財政法から違法となる」との報告が出されている。仏政府はFTVの責務(義務)や財源モデルの改革を盛り込んだ新たな5年契約*⁴ を昨年末までにまとめ、議会の承認を得る必要があったが、作業は大幅に遅れ、草案がまとまるのは本来の新契約期間の開始後(春ごろ)とされている。TF1の提訴はEU委員会からの照会という「外圧」を仏政府に与えることになり、これまで滞っていた公共放送の財源問題の早期解決を促すことにもなりそうだ。


*¹ 欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of European Union)第107条で特定の企業・商品に対する競争歪曲的補助の禁止(いわゆる国家補助規制)をしている。
*² Association des Chaines Privées(ACP)。2008年に大手民放TF1、M6と有料放送のCanal+(カナルプリュス)によって設立され、23年からAltice Mediaが参加している。地上波で全国放送を行っている民放の利益を代表し、国内外のプレーヤーや規制の不公平性を是正するために活動している。現在の会長はTF1のベルメール会長(兼CEO)が務める 。
*³ 複数チャンネルを抱える大手民放はチャンネルごとに細かく免許要件が規制されるが、公共放送はそれがないため。フィガロ紙は、20年から22年までの公共放送と国との契約書は19ページだが、TF1グループと国との免許契約書は180ページに及ぶと報じている。
*⁴ 実のところ政府と公共放送との取り決め(COM、目的手段契約)は22年に期限が切れることになっていたが、政府は、受信料徴収に代わる財源モデルの確立に時間が必要として、COMの契約期限を23年まで1年延長した。

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