米脚本家組合(WGA)のストライキが9月26日正午(米西部時間)に終結した。WGAの会員1万1,500人はすでに職場に復帰し、10月1日から深夜のトークショーや生放送のモーニングショーなどの制作・放送が再開されている。5月2日に始まり 、148日にわたって続いたこのストライキ。WGA史上2番目の長さとなった。ちなみに、最長記録は1988年の153日だ。
WGAが映画・テレビ製作者協会(AMPTP)との暫定合意に至ったのが9月24日。翌25日にはWGAの東部支部で、26日には同西部支部でそれぞれ内部投票が行われ、いずれも満場一致でストライキ終了を正式に決めた。10月2―9日にWGA内部で契約内容への合意投票が行われ、最終的に契約が成立した。契約期限は今後3年間となる。
今回のストライキでWGAは報酬・再配信分追加料金の値上げ、AI使用ルールなどほぼ全てにわたってAMPTPの合意を取り付けた。WGAの発表によると 、今後3年間の契約概要は次のとおり。
▶︎最低賃金の値上げ=今回の契約成立時に従来の額の5%を増額し、24年5月さらに4%増額、25年5月さらに3.5%の増額。
▶︎再配信分に対する追加料の値上げ=これまでは何度配信し視聴されても一律料金制だったが、24年1月1日以降リリースのコンテンツから、コンテンツごとにその視聴回数に応じた追加料が支払われることになった。グローバル展開の配信サービスでは、海外契約者による視聴分に対しても追加料が値上げされる。
▶︎データの公開=配信サービス各社は、コンテンツ視聴データをWGAに公開する義務を持つ。
▶︎プロジェクトごとの雇用条件の改善=23年12月1日以降、制作スタジオはコンテンツの規模に応じて、十分な数のライターを雇い、その制作開始から終了まで雇用を全うする義務がある。
▶︎福利厚生の改善・充実:医療福祉制度をさらに充実させ、個人年金制度での投資プランの利率を引き上げる。
このうち「データの公開」では、Netflixなどがストリーミングされた合計時間数を一定の秘密保持契約を条件に組合に提供することが合意されている。これまで情報開示していなかったNetflixで初めてとあって注目を集めている。さらに、今回のストライキの大きな論点となったAIの使用ルールについては――
▶︎ライターを必要とするプロジェクトでのAI使用には制限を設ける。契約文書の表記によると、「文学的作品をAIが執筆またはリライトすることはできない」「AIで生成された作品が、ライターの著作権とその他の付属権利(Separated Rights) を侵害してはならない」(編集部訳)となっている。「Separated Rights」はWGAが個人のライターに保証する、著作権由来の各種権利群のこと。
▶︎制作スタジオの合意の下、ライターは執筆過程でAIを使用するという選択肢を持つが、雇用主がそれを強要してはならない。
▶︎制作スタジオはライターに提供する資料や材料がAI生成である場合、それをライターに公示しなければならない。
――となった。このAI使用ルールは、これまでの労使間交渉にはなかった内容なため、注目度も高く、業界での今後の交渉における基準になるとして重要視されている。
7月14日から続いている全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキ も10月6日 から交渉が再開されたが、10日の段階ではまだ継続中とのこと。ここでもAIの使用が一つの論点となっている。