テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星12社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。
今回は「長寿番組」を特集。地上テレビ127社に行ったアンケートの回答の一部を3回にわたって紹介していきます。本稿は第2回です(第1回はこちらから)。なお、回答のあった番組一覧はこちらからご覧いただけます。
※長寿番組は、2023年中に放送20年以上となる自社制作番組と定義
※レギュラー番組(毎日―月1回)に限定し、長年継続する特番などは除く
※タイトル変更やリニューアルがあっても、制作した社で同一番組と見なすものは含む
※放送時間は、制作した社の現在のもの
くらしをより良く
『キユーピー3分クッキング』は、CBCテレビで1962年12月に、日本テレビで63年1月にスタートした。開始当初はテレビのネットワークが未整備だったことから、全国で同じ番組を放送できず、2局のほか北海道、宮城、福岡で制作されていた。現在ではCBCテレビと日本テレビに集約され、2局がそれぞれ独自の番組を制作。CBCテレビ版は東海や北海道など全13局、日本テレビ版は関東や四国など全18局で放送している。「天気予報のようにヒントを伝え、毎日の献立づくりに役立ちたい」との思いからスタートした同番組。CBCテレビの大谷佐代プロデューサーは「派手な演出はあえてせず、必要な情報を丁寧に表現してきたことが信頼と継続につながっていると思う」とコメントしている。
『CBCキユーピー3分クッキング』(月―金、11・20―11・30/土、11・30―11・40)の献立は放送の約半年前から講師と相談して決め、食材や味付け、調理法などバランスよくラインアップ。食材は、視聴者が手軽に入手できるものを使い、調理工程をシンプルにすることで再現性の高いレシピを提供するよう気をつけている。さらに、「一週間の中でも曜日によって工夫している」と大谷氏。「月曜は手軽に作れるもの、金曜は少し手の込んだ料理、週末や祝日は親子で作れるものなど、視聴者の生活リズムを想像しながら流れを組んでいる」。
時代に合わせた改革もみられる。世帯平均人数の減少やフードロス削減を考慮し、2022年10月から分量を4人前から2人前に変更。SDGsの普及に合わせ、同年12月から毎週水曜を「プラスエコの日」とし、食材を切り捨てる部分が少なく済む調理法など、料理の中に手軽に取り入れてもらえる「エコ」のポイントを伝えている。大谷氏は「講師による旬の食材の解説や料理の基本など、日本の食文化の継承も大切な要素として、発見のある番組にしたい」とし、「作ってみたくなる献立を提案し、やがてそれが家庭の味に定着していく。3分クッキングが『わが家の味』の仲間入りできるよう、信頼できる番組であり続けたい」と意気込む。
<CBCテレビ版で講師を務めているきじまりゅうた氏>
テレビ信州は開局から1年後の1981年10月、健康情報を伝える番組をスタートし、現在は『あなたもホームドクター』(月―金、11・50―11・55)として放送を継続している。自社制作のレギュラー番組を作ろうという機運が高まるなか、地元の医師会の協力のもとで開始に至った。県内の医師が登場し、県民の健康に役立つ情報を届けている。開始当初から変わらず、医師会が出演する医師の調整を行うほか、地元の製薬会社であるキッセイ薬品と寿製薬がスポンサーとして支援している。
また、1人の医師が同じテーマで月曜から金曜まで出演するスタイルも継続しており、担当者は「番組を視聴するチャンスが1週間に5回ある編成のため、視聴者から認知してもらっているのでは」と分析。1回の収録で5回分を収録。出演した医師の中には、曜日ごとにスーツや白衣、メガネの着脱など、衣装を替えてくれた医師もいたという。
医師は街で声をかけられるなど反響があり、視聴者にとっても、身近にいる医師がテレビに出ることでより親しみを感じるようになるとのこと。また、長年番組を続けているので、親子2代で出演している医師もいるという。担当者は「日々放送することで、県民が健康を考えるきっかけとなる番組であり続けたい」と意気込む。
<『あなたもホームドクター』を担当している小椿希美アナウンサー>
ワイドニュース番組
帯のニュース・情報番組では多くの長寿番組が存在する。このうち、青森放送は1970年4月に日本初のローカルワイドニュース番組として『RABニュースレーダー』(月―金、18・15―19・00)をスタートした。開始当初は朝の放送だったが、1977年から夕方に移動し、2011年に現在の時間帯となった。朝はNHKの視聴率が全国的に高かった当時、自社制作の報道番組の制作に挑戦。東京を中心に青森県外の地区を取材する「県外ニュース」が注目され、70年10月の視聴率調査でNHKを抜いたという。東京支社発のニュースは今も継続しており、首都圏で活躍する青森出身の人たちのニュースを伝えている。
同社は「県民とともに 県民のために」を社是として、地域に根差したニュース取材を続けてきた。リンゴ被害が大きく「りんご台風」とも呼ばれた1991年の台風19号や、コメの作況指数が同県で「28」となった1993年の大凶作など、県民生活に大きな影響を与えるニュースを連日伝え続けた。小山田文泰報道局長は「こうしたニュースづくりの姿勢が信頼・支持につながっている。大きな事件や事故、災害などの際、平時よりも視聴率が高くなることが県民から信頼されている証だと考えている」とコメントする。
昨年12月から同社アプリで同時配信をスタート。定時ニュース以外にも、選挙の開票速報特番や公開討論会、知事会見などのライブ配信にも活用している。また、災害で地上波テレビが視聴できない場合、緊急情報を伝える際に力を発揮する。小山田氏は「ローカル局の報道も多角的に発信していく必要があり、時代に合ったニュースのつくり方を日々研究している。『県民がいま知りたいことにこたえる』ニュースを届けていく」としている。
<『RABニュースレーダー』を担当する橋本莉奈アナ、菅原厚アナ、小田安珠アナ>
九州朝日放送は、地元のあらゆる情報がわかるポータルサイトのような番組を目指し、2001年から『アサデス。KBC』(月―金、6・00―8・00)をスタート。報道やスポーツなど、全社的に携わる制作体制を構築し、ローカルニュースやスポーツ情報を強化した。キー局発の番組との差別化を図り、地元目線のコメントや、県民の関心に応えるタイムリーな企画と取材を大切にしている。編成担当者は「台風や大雨などの災害時は、番組のほとんど全編で取り上げていることなどから、信頼を得ている」と手応えを語る。また、独自の取材で社会問題やニュースを掘り下げる力が付いたという。
長年変わらないのは、福岡ソフトバンクホークスを応援するコーナー「スポーツキラリ」と、気象予報士の佐藤栄作さんが担当するお天気コーナー。地元の情報、天気、ホークスは大切な要素だという。また、2019年4月から「アサデス。アプリ」をスタートし、2023年6月時点でダウンロード数は30万超。ニュースや気象情報を発信し、2022年4月からは番組のリアルタイム配信を行っている。編成担当者は今後について「日々、視聴者のニーズをくみ取り、これからも地元の視聴者の役に立つ番組を目指す」とコメントした。
なお、2001年から同社を含めた九州・山口7局の共同制作番組もスタートし、現在は『アサデス。7』(月―木、9・55―10・25)として放送している。こちらは災害時の迅速な連携につながっているほか、平時でも各局が順に企画中継を担当するので、全体の制作力の底上げになっているとのこと。
<『アサデス。KBC』スタジオ写真>
語りからヒント得る
京都放送は、テレビを開局した1969年4月から『比叡の光』(日、8・45―9・00)を放送している。天台宗の開祖である伝教大師・最澄の教えを底流に、各界の多彩な有識者が語る「生きる」ことの指針を伝えている。テレビ開局にあたり比叡山に送信所を設置できるよう、土地所有者であった比叡山延暦寺に打診したことが番組開始のきっかけ。当初はスタジオでの生放送だったが、現在はゲストにゆかりのある場所や、延暦寺とつながりのある寺でインタビューを収録している。
延暦寺が灯し続ける"不滅の法灯"で始まるオープニングや、番組テーマ、構成は変えていない。2019年7月から番組を担当している押谷昭宏ディレクターは「宗教的に、専門的になりすぎないよう、知識がなくてもわかる番組づくりを心がけている」とコメント。他宗も含めた宗教者や関連書籍を出版した人、延暦寺の行事関係者など、時代や時節に合わせたゲストを迎える。押谷氏は、印象的なゲストの1人に、本願寺執行長の安永雄玄氏を挙げた。銀行員や経営コンサルタントを経て50歳で得度した安永さんは、寺の経営が厳しくなる中、合同墓や会員制度の創設、境内にブックセンターやカフェを誘致するなど、改革を進めた。押谷氏は「とてもソフトな語り口で話が尽きず、もっと長く話をうかがいたいと思った」と振り返る。
なお、1980年からハワイで日本語放送を展開している放送局KIKU TVでも番組をオンエア。比叡山延暦寺を総本山とする天台宗が73年にハワイ別院を開設したことがきっかけだという。
<『比叡の光』に出演した安永雄玄氏>
福井テレビ『タイムリーふくい』(日、8・30―9・00)は、県内の政治や経済、社会などの話題を取り上げる討論番組。ニュース以外でも地元に特化した報道番組をつくり、福井の現状と未来を真剣に考えようとスタートした。知事や地元選出の国会議員、経済界トップを定期的にゲストとして招き、ニュースや新聞記事の内容よりもう一歩踏み込んだ本音を聞き出していく。1978年に始まった『ふくい'78』を前身とし、2014年に現在のタイトルとなった。
横山康浩報道局長は「知事会見より一足早い発言を引き出す努力もしており、トップニュースになる放送回もある。県内の経営者や行政関係者などから支持されていると自負している」とコメントしている。選挙の前には、毎回出馬表明者が一同に会した討論会を実施。重要な山場と捉える候補者もいるようだ。初当選を果たしたある首長は「前回はこの番組で質問に対してうまく返せなかったが、今回は周到に用意してきた甲斐もあり、この番組でも選挙でも雪辱を果たせた」と発言したとのこと。また、2022年4月には安倍晋三元首相を招き、原発や自衛隊など福井に関わる国政の課題を問うたことも。地方でのテレビ出演はこれが最後だったという。
横山氏は「褒める言葉もあれば、『追及が足りない、浅い』と厳しい意見をもらうこともある。目の肥えた視聴者に支えられている」とし、今後について「福井に徹底的にこだわり、課題を正面から捉える報道番組であり続けたい」と展望した。
<『タイムリーふくい』リハーサルの様子>