NHK放送文化研究所は例年3月に実施している文研フォーラムを今年は初めて夏にも開催することとし、7月28日にオンラインで開いた。
「『ニュース』『メディア』はどう変わる?~国際比較調査『デジタルニュースリポート』2022年から~」と題したシンポジウムでは、日本人の"ニュース離れ"について討論を行った。パネリストとして澤康臣(専修大学文学部ジャーナリズム学部教授)、井上裕子(信濃毎日新聞社取締役メディア局長)、足立義則(NHK報道局デスク)の各氏が登壇した。
英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所がニュースの消費動向などを調べた「デジタルニュースリポート」の結果をもとに議論を行った。進行を務めた税所玲子・メディア研究部上級研究員から、ニュースに関心がある人の割合が16年の64%から50%に低下したことなどを解説。ニュース離れについて「元々ニュースに関心を持つ人が少なかっただけでなく、ニュースと情報の区別がついていない人も多いと思う」(澤氏)、「情報過多が一因ではないか」(足立氏)と意見を述べた。また、日本は他国と比べ、エンゲージメントが低いことに対し、井上氏は同紙が行う「声のチカラ」を事例にあげた。読者から寄せられた疑問や困りごとについて記者が取材して記事にする取り組みで、「読者と双方向で行う報道を狙い、19年から始めている。コミュニティに貢献するのが地方紙の役割だと思う」と語った。
チャットで寄せられる聴講者からの質問・意見が随時紹介された。倫理的に留意するべきことは何かという問いに澤氏は「トレーサビリティと出典の明示がこれからは必要になる。できる限り公開してほしい」と話した。また、「最近、メディアによる権力の監視機能が衰えたと感じる」との意見に対し、井上氏は「監視は記者にとって"基本の基"。特に地方紙は地元の自治体への監視が大切」とデジタル時代になっても本質は変わらないとの考えを述べた。
最後に、足立氏は「メディアは消費者から頼りにされているかと考えるべき」とし、同リポートの調査結果で、日本ではどの媒体にも触れてない人のうち、特に若い女性の割合が高いが明らかになったことについて「ニュースの作り手に女性が少ないことも原因だと思う。多様な視点を入れていくべきだ」と語った。
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続いて、テレビの「ぼかし」をテーマにしたシンポジウムも行われた。数藤雅彦(弁護士)、鎮目博道(テレビプロデューサー)、久保友香(メディア環境学者)、西ヶ谷力哉(NHKメディア総局統括プロデューサー)の各氏が出演した。進行を務めた大髙崇・メディア研究部主任研究員が、昔と比べて最近の映像では顔や表情が分からないようにするためのぼかしが増えたことを提起し、過去の番組映像をもとに議論を進めた。
冒頭、数藤氏がデジタルアーカイブ学会策定の「肖像権ガイドライン」について解説を行った。ガイドラインに対し、鎮目氏は「判断に迷った時の基準になると思う。一方で、放送人として、被撮影者の気持ちを想像するなどの対応も必要だ」と語った。
大髙氏からの「ぼかしが増えると映像の価値が下がってしまうのでは」との提起に、西ヶ谷氏は「顔や表情を映す価値は大きいと思う。そこは時代がどうなろうと変わらないのでは」と話した。さらに、ぼかしを多用する現状に対し、鎮目氏は「なぜ隠しているのか視聴者に説明するべきで、そこが今のテレビには抜け落ちている」と指摘。久保氏も「共有している文脈によって捉え方が異なる。テレビ局と視聴者の間に共通認識を作る必要がある」と話した。
最後に、アーカイブとして映像を残すことについて、「元の映像とあわせ、修正記録のデータを保存すべき」(久保氏)、「映像を放送に使用しなくても、アーカイブとして価値が生まれることもある」(数藤氏)といった意見があがった。