"テレビの実力はそんなものではないはずだ"part1~「データが語る放送のはなし」⑤

木村 幹夫
"テレビの実力はそんなものではないはずだ"part1~「データが語る放送のはなし」⑤

今回から3回連続で"テレビの実力はそんなものではないはずだ"と題して、最近何かとディスられることも多い(?)テレビの広告効果を、データをもとに可視化してみます。

まずpart1では、おさらいとして、2020年8月に民放連研究所が発表した「テレビの広告効果に関する研究」の報告から、生活者の意識レベルでのテレビの広告効果を確認しておきましょう。

テレビはもう"ダメポ"?

皆さんご承知のとおり、インターネット広告費は19年にテレビ広告費を上回り、21年には、一気にマス4媒体広告費の合計も上回りました。21年の地上波テレビ広告費は1兆7,184億円ですが、インターネット広告費は2兆7,052億円と、追い抜かれて3年目で既に1兆円近い差がついています(全て電通「日本の広告費」ベース)。すごい勢いですね......。

でも、この状況はテレビの広告媒体としての本当の価値をそのまま反映しているのでしょうか? 民放連研究所は、電通とビデオリサーチに協力していただき、19年度から継続して「テレビの広告効果に関する研究」に取り組んでいます。この研究は、テレビの広告効果を主にインターネットやネット媒体との関係で客観的かつ定量的に検証することを目的としています。第1回となった調査の結果は、20年8月4日にオンライン報告会(民放連会員社限定)で報告し、説明資料は民放連ウェブサイトで公開しています。

20年3月に実施した第1回調査ではテレビの広告効果を定量的に検証するため、いくつかの問題意識を設定しましたが、そのうちここでは、①テレビは企業のブランディングに貢献するのか ?ネットはどうか?、②テレビは認知だけの媒体なのか? ネットならフルファネルで貢献するのか?――に関する調査結果を中心に、結果のエッセンスだけを簡潔にご紹介します。調査の手法や結果の詳細などは、サイトにある資料をご覧ください。

テレビ視聴はブランディングに貢献するが、
ネット利用の貢献は確認できない

テレビとネットの両方で広告宣伝活動を行っている45の大手企業(ブランド)について、調査回答者のブランドへの認知・評価を聞きました。調査結果を図表1に示します(45社別回答の平均値:%)。

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<図表1 企業・ブランド評価とテレビ視聴時間、ネット利用時間の関係>

まず、認知ではテレビ視聴時間(機械計測、リアルタイム視聴のみ、以下全て同)が増えるとブランド認知率が上がっていることがわかりますが、ネット利用時間(ソフトウェアメータによる計測)にそのような傾向はみられません。評価・イメージでは、全ての項目でテレビ視聴時間が増えるとプラスの評価・イメージが増えていることがわかりますが、ネット利用時間との関係ではどの項目でも違いがほとんどありません。テレビ視聴時間は企業・ブランドの認知、評価にプラスの影響を与えていますが、ネットの利用時間量は、良くも悪くも影響を与えていないとの結果です。なお、この傾向は年齢による違いがほとんどなく、1529歳から60代まで全ての年齢層に共通しています。

テレビは購買プロセスに幅広く貢献するが、
ネット広告は認知だけ

図表2は、購買プロセスのどの部分にどのメディアが貢献しているのかを(一般論として意識レベルで)調べた設問の集計結果です。表側の項目は、上から認知(一番上)、興味・関心(2―3番目)、検討(4-6番目)、購買決定(7-9番目)の各購買プロセスに対応しています。上段が全体の集計結果、下段は10代だけの集計結果です。

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<図表2 各メディアの購買プロセスでの貢献ポイント
(テレビとネット関連のみ抜粋)>

まず全体を見ると、テレビは番組、CMともに「認知」と「興味・関心」で圧倒的に強く、「情報を調べるきっかけになる」でも1位と2位。「欲しいきっかけ」でも1位と2位であり、「印象に残る」では頭抜けています。テレビに抜け落ちているのは「検討」で、この部分は口コミ・比較サイトが強く、ブログ・まとめサイトやポータルサイトがそれに続きます。口コミ・比較サイトは「購入の決め手」の部分でも最も強いですね。ネット広告はバナー、動画広告ともに認知ではテレビに続きますが、それ以外のプロセスでは上位に全く出て来ません。性年齢別でも、この傾向は多少の濃淡はありますが、ほぼ共通しています。

Z世代はYouTuberの影響力が強い

テレビはどの性年齢でも幅広いプロセスで貢献している(と認識されている)のに対し、ネット広告は認知以外での貢献が見えず、検討は口コミ・比較サイトのほぼ独壇場でした。ただ、特徴的な傾向を示したのは、下段に示した10代男女です。テレビと口コミ・比較サイトが強い傾向は他の年代と同様ですが、SNSの評価が全体に高く、YouTuberの評価が興味・関心の部分でかなり高いのが特徴です。10代男女では、YouTuberSNSの影響力がかなり大きいことがうかがわれます。なお、SNSの影響力が大きいのは20代男性、20代・30代女性にも共通する特徴ですが、YouTuberの影響力が大きいのは10代男女と20代男性だけの特徴です。Z世代の男性の特徴でしょうか?

ネットのヘビーユーザーほど、
ネットで見た商品・サービスを信用しない?

この2分野以外の調査結果も少しご紹介すると、例えば、テレビCMの安心感とインターネット広告への不安感の設問では(図表3)、テレビCMへの安心感はテレビ視聴が増えると上昇する傾向があるのに対し、ネット広告への不安感は、ネット利用時間が増えるとむしろ増す傾向がみられます。これは1529歳の若年層に限定しても全く同様の傾向です。ネットのヘビーユーザーほど、ネットで見た商品・サービスを信用しない傾向があるのかも知れませんね。

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<図表3 テレビCMの"安心″とネット広告の"不安″>

テレビの実力はそんなものではなかったが......

この調査結果は、テレビの広告効果は現在でも、幅広い領域、購買プロセスでネットを大きく凌駕していることを確認させるものでした。正直に言って、テレビの効果・影響力の大きさは、私たちの事前の予想以上でした。しかし、今回の調査はもっぱら意識レベルで生活者のインサイトを探っただけで、実際の購買への寄与を個別商品・サービスへの広告接触や情報との関係で検証したわけではありません。こうした具体的な現実の広告効果を検証しなければ、テレビの広告効果を本当に実証したとは言えません。

第2回調査は実際の広告キャンペーンの効果測定

ということで、「テレビの広告効果に関する研究」第2回調査では、この研究の客観性、透明性の度合いをさらに上げる意味でも、日本アドバタイザーズ協会と3社の広告主の皆さまにご協力いただき、テレビとCGMの両方を利用した実際の広告キャンペーンの効果測定を実施しました。テレビCMとCGM動画広告のそれぞれが、購買プロセスのどの段階でどのように寄与し、その効率はどうなっているのかを比較検証しています。2111月から22年1月にかけて実施した第2回調査の結果は、7月20日(水)にZoomウェビナーでご報告します。報告会へのお申し込みは、民放連ウェブサイトの会員ページで7月15日(金)まで受け付けています!無料です!先着1,000名様までです!

ただし、今回は民放連会員社限定の報告会です。すみません......でも、資料は後日、民放連公開サイトでどなたでもご覧いただけるようにしますので、何卒ご容赦のほどを。あっ、あと、そのエッセンスはこのシリーズのpart2part3で2回に分けて、7月末よりご報告いたします。

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