前回の最後で、「広告認知効率の違いこそが、購買ファネル分析における最大のポイント」と申しあげました。実は、接触ではなく広告認知を起点とした場合のスコアは、購買にいたるまで、テレビCMとCGM動画広告の差はほとんどないのです(図表1)。
<図表1. 広告認知を100とした購買ファネル分析>
図表1は、接触ではなく、広告の認知までした人全体を100とした比率で表しています。前回同様、右側の組み合わせの部分を見ると、広告認知後は、商品認知、商品好意、購買意向、購買にいたるまで、テレビCMのみとCGM動画広告のみの間にスコアの違いはほとんどありません。当然ですが、両方に接触した人のスコアが単独よりも大きいのは同様です。つまり、「テレビCMはCGM動画広告よりも1.8倍購買に結び付きやすい」のは、「テレビCMの認知効率がCGM動画広告よりも約2倍高い」に依存したものです。
なぜテレビCMは認知されやすいのか?
さて、ここで不思議に思うことはありませんか? テレビCMはほとんどターゲティングを行っていません。対するCGM動画広告は、商品によってその程度にはかなりの差がありましたが、あらかじめ広告主が定めた、広告を訴求したい(あるいは広告を受け入れやすいと思われる)ターゲットに表示されるようになっています。また、両者のCM素材はほとんど同じです。それにもかかわらず、CMの認知効率(=CMを覚えている人の割合)はテレビの方がCGMよりも2倍以上高いのです。
この理由としては次のようなものが考えられます。①CGM動画広告の接触判定には途中でスキップされてしまうものも含んでいる、②CGM動画広告は大半がスマホの小さな画面での視聴なので印象が残りにくい、③そもそもネットコンテンツの視聴では動画広告への忌避感が強い、といったものです。①、②について説明は不要ですね。③は広告への受容性の問題です。part1でご紹介した20年の調査では、ネットの利用時間が長い人ほどネット広告を信頼しない傾向があること、テレビ視聴時間の長い人は広告により潜在需要やさらなる欲求を喚起され、広告自体への受容性が高い傾向があるが、ネット利用時間の長い人には、それとは反対の傾向があることなどがわかりました。テレビ視聴には広告に対する受容性を高める機能があるが、ネット利用には、広告受容性を低める機能があることが推測されます。このような要因が、テレビCMの認知効率を高め、CGM動画広告の認知効率を(テレビとの関係で)低い水準にしているのではないかと考えることもできます。
......などと、理屈っぽいことを書きましたが、放送のCMは民放開始以来、番組とセットでオーディエンスに提供されてきたものであり、スキップできないだけでなく、CM自体が違和感なく番組の視聴・聴取と一体化しているので、忌避感が弱く受け入れられやすいということは大きいでしょう。これは放送だけでなく、TVerなどでの放送コンテンツの配信でも同様のことが言えると思います。放送コンテンツのネット配信では、放送に準じたCM受容性がある可能性が考えられます(これについては別途検証が必要ですが)。
どこまでも割安だったテレビの単価水準
最後に、キャンペーンにおける実際の出稿金額をもとに計算した広告コスト効率の試算結果をご紹介します。ここで言う"コスト"とは、これまで見てきた、接触から購買までの購買ファネル各段階における1人あたり広告出稿額のことを指します。1人の接触者や認知者、購買者を獲得するのに必要だった広告費というわけです。前回も触れましたが、各広告キャンペーンにおいて、テレビCMとCGM動画広告への出稿額にはかなりの差異があります(具体的な金額やテレビCMとCGM動画広告別の配分比率については、ご参加いただいた広告主との取り決めにより公表できません。すみません......)。ですが、出稿金額を各段階の獲得人数で割ることで、出稿額の違いは調整され、コスト効率を比較することが可能になります。
まずは、図表2に5商品平均の各段階別リーチ人数の推定値を示します。日本全国の15歳から69歳男女の人数に、テレビとスマートデバイスの両方を所有する個人の比率(92.6%)を掛けたものを母数とし、それに今回の調査で得られた接触から購買までの比率を掛け合わせて人数を出しています。テレビのみの接触者5,788万人に対し、CGMのみは63万人と約92倍の差がついています。広告認知でその差は約190倍に広がり、最終の購買で約165倍になります。
<図表2. 購買ファネル各段階でのリーチ人数>
次に図表3に、テレビCM(タイム+スポットの総額)、CGM動画広告別の出稿金額を各段階の人数で割った1人獲得単価を示しました。全ての段階でテレビCMが割安であり、CGM動画広告はテレビCMの2.2倍(到達)から4.6倍(広告認知)の単価水準になっていることがわかります。これは商品によって水準には違いがありましたが、傾向は共通していました。
<図表3. 購買ファネル各段階での1人あたり広告単価>
この調査を実施する前は、テレビのリーチは巨大であることと、CGMと違ってほとんどターゲティングを行っていないことから、テレビの接触単価はCGMよりも安いことは予想していました。しかし、認知、購買意向、購買と最終段階に進むにつれ、ターゲティングを行っていないテレビCMは、ターゲティング広告であるCGM動画広告よりも効率が悪く、割高になっていくのではないかと考えていました。結果はご紹介したとおりです(前にも見たように、接触は別として、広告認知以降の単価の違いはもっぱら広告認知効率の違いに起因するものです)。限られた事例ですが、少なくともこの5商品について言えば、テレビはCGMに比べてかなり割安な広告媒体であったことがわかりました。
これを別の表現で言えば、(この調査については)1人あたり単価がこれだけ割安ということは、例え売りものの総量であるPUT(総個人視聴率)が減少している状況であっても、テレビ広告費は、まだ伸ばす余地がかなりあるのではないか? ということが言えそうです。
より幅広い商品・サービスジャンルでの
検証が必要だが......
ここまで見てきた第2回調査の分析結果を改めてまとめると以下のようになります。
- ①5商品の平均リーチは、テレビ79.2%に対して、CGM動画広告は4.1%。両方の広告への重複リーチは3.3%であり、CGM動画広告によるインクリメンタルリーチは0.8%。
- ②広告接触よりも後の購買ファネルにおけるテレビCMとCGM動画広告の最大の違いは、広告認知効率の差異。テレビCMの認知効率はCGM動画広告の約2倍の水準。
- ③この結果として、購買ファネルの各段階における1人あたり広告コストは、接触ではテレビCM1に対してCGM動画広告2、広告認知で同じくテレビCM1に対してCGM動画広告4.6、最終の購買でテレビCM1に対してCGM動画広告4.1とテレビCMの効率の良さ(=安さ)がわかる。
結論としてテレビのリーチの大きさと効果の高さ、それに比べたコストの安さを確認させる調査結果でした。もちろん、両方の広告が当たればより効果が高まるわけですし、商品・サービスによってはテレビでは到達しにくいターゲットのものもあるでしょうから、この結果をもって、一概にテレビへの配分比率を高めた方が良いということにはならないと思いますが、テレビがその効果に比べれば割安な媒体であることは、少なくとも今回の調査においては実証できたかな、と思います。
とは言え、今回の調査はわずか5つの商品、しかもそのうち4つが食品・飲料というテレビとは相性が良いとされてきた商品です。この調査結果を普遍化して、全ての商品・サービスに適用することは適切とは言えないでしょう。今後、より幅広い商品・サービスのジャンルについて同様の調査を行う必要があります。これが今後の最大の課題です。
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