現在でも巨大なテレビのリーチと高い広告認知効率 "テレビの実力はそんなものではないはずだ"part2~「データが語る放送のはなし」⑥

木村 幹夫
現在でも巨大なテレビのリーチと高い広告認知効率 "テレビの実力はそんなものではないはずだ"part2~「データが語る放送のはなし」⑥

前回予告しましたように、民放連研究所は電通、ビデオリサーチの協力を得て、7月20日に「テレビの広告効果に関する研究 第2回調査報告」を行いました。関連する資料は民放連の公開サイトにまとめてアップしています。今回と次回は、その報告からエッセンスをいくつか抜き出して、この分野に明るくない方にとっても、できるだけわかりやすくご紹介します。

広告の接触ログ解析と
ネット調査の組み合わせ

調査結果をご紹介する前に、調査の設計、概要について触れておきます。設問は割合シンプルなのですが、設計が複雑な調査なのでちょっとややこしい話になります。調査結果を理解するうえで重要ですので、しばしお付き合いください。

「テレビの広告効果に関する研究 第2回調査」は、前回も述べましたように、テレビCMCGM動画広告の両方を用いた、3社5商品の全国を対象とする広告キャンペーンの効果測定を行ったものです。実際の広告キャンペーンの効果を、全体とテレビ/CGM別およびテレビとCGMの重複接触の別に計測しています。

この調査は、広告に接触したことの判定が可能な人に対して、広告接触は機械的に判定し、認知から購買までのプロセスについてはインターネット調査で聞いていく「スクリーニング調査」と、その調査の回答者から抽出した各商品400から800人の購買行動者に対して、購買に至る行動における各メディアの貢献度を振り返って聞いていく「本調査」の2つに分かれていますが、その調査概要を以下に示します。

調査の概要

・調査対象者:全国の男女1569
  ※11月調査はアルコール飲料が調査対象商品に含まれるため、2069歳に限定
・調査方法:インターネット調査
・ログ集計:テレビCM接触ログはテレビメーカーログを使用、CGM動画広告接触ログはデータクリーンルームを利用し、調査回答者のIDから判定して両者のマッチングを実施。
・調査期間:
商品1~3 (11月調査)スクリーニング調査 : 20211115日(月)~1119日(金)
 本調査 : 20211118日(木)~1119日(金)
商品4~5 (1月調査)スクリーニング調査: 2022年 1月11日(火)~ 1月17日(月)
 本調査 : 2022年 1月17日(月)~ 1月19日(水)
・サンプルサイズ
①11
月調査:スクリーニング調査 46,221ss(接触判定者数:8,141*商品1,,3共通 
 本調査 [商品1] 400ss, [商品2] 400ss, [商品3] 400ss
1月調査:スクリーニング調査 46,174ss(接触判定者数:10,929*商品4,5共通
 本調査 [商品4] 800ss, [商品5] 400ss 

まず、ネット調査会社のパネルから、全国の1569歳男女約46,000のサンプルを抽出しました(全国の1569歳男女の性年齢構成に合わせて抽出)。スクリーニング調査では、そこからテレビCMCGM動画広告両方の接触ログを取得可能な人を抽出します。11月調査では8,141人、1月調査では10,929人でした。当然ながら抽出後の接触判定が可能な人の性年齢構成は、当初抽出したサンプルのそれとは異なっていますので、集計に当たっては、全国の1569歳男女の性年齢構成に合わせたウェイトバック集計を行っています。なお、iOSの接触ログは取得不可能なため、Androidユーザーの接触データをiOSユーザーにも援用して、全体としてのCGM動画広告への接触データを集計しています。

効果測定を行った5つの商品

この調査で効果測定を行った商品は、商品1:アルコール飲料(新商品)、商品2:アルコール飲料(新商品)、商品3:食品(新商品)、商品4:飲料(定番ブランドの既存商品)、商品5:耐久財(定番ブランドの新商品)の5つです。正直、食品・飲料と新商品に偏っている感はありますね。商品1~3は食品・飲料分野の新商品であり、かなり似通った調査結果を示しました。商品4は飲料(非アルコール)の定番商品です。新商品である商品1~3と似通った結果になった分野が割合多かったのですが、異なる結果の分野もありました。商品5は唯一の耐久財で、かなり異なった結果を予想していたのですが、意外にも商品1~4と共通する部分が多かったです。勿論、食品・飲料との違いはあります。(大変申し訳ありませんが、ご参加いただいた広告主との取り決めにより、個々の商品について、これ以上の情報は公開できません......)。

前置きが長くなりましたが、今回は、世の中全体の状況を反映しているスクリーニング調査の結果から、広告のリーチと購買ファネルでの効率の2つの分野の結果をご紹介します。

テレビCMのリーチは約80%、
CGM
動画広告は約4%。
インクリメンタルリーチは約1%

ログとIDを突合した接触判定により、調査期間内に当該CM"接触した"と判定された人が調査対象者全体に占める割合をここでは"リーチ"と呼ぶことにします。5商品平均の広告リーチを図表1に示します。母数となるのはテレビとCGM両方の接触判定が可能な個人全体です。これを世の中に当てはめれば、自宅にテレビを所有しているスマートデバイス(スマホ、タブレット)利用者全体ということになります。ちなみに、こうした人(個人ベース)は、全国7地区(東京、関西、名古屋、北部九州、札幌、仙台、広島)の合計で約93%いるのだそうです(ビデオリサーチACR/ex2021年時点)。

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<図表1 広告のリーチ(5商品平均㊧と個別㊨)>

図の円の大きさ自体はイメージですので、数字をご参照ください。5商品平均のテレビCMのリーチは79.2%、対するCGM動画広告のリーチは4.1%です。テレビCMCGM動画広告の両方に接触した人が3.3%いますので、テレビCMだけに接触した人は76.0%、CGM動画広告だけに接触した人は0.8%となります。テレビCMとインターネット広告を組み合わせて出稿することで、テレビではリーチできなかった人にリーチした上乗せ分のリーチを"インクリメンタルリーチ"と呼びますが、今回の調査ではインクリメンタルリーチは平均して1%弱程度だったことになります。なお、CGM動画広告には、最後までみなければならないものもあれば、スキップ可能なものもあります。今回の調査では、スキップした分でも当たっていれば接触と判定されています

なお、大部分の広告キャンペーン同様、5商品ともにテレビCMへの出稿金額はCGM動画広告への出稿金額よりも多くなっていますが、このリーチは出稿金額の水準を調整し、同一条件で比較したものではありません。現実のキャンペーンのリーチをそのまま計測したものです

とは言え、テレビのリーチの巨大さが改めて確認できますね。各種ネット媒体を総動員したとしても1週間程度の期間で8割のリーチを達成することは相当困難と考えられます。また、CGMのリーチの8割がテレビとの重複接触という結果も興味深いです。CGMによるインクリメンタルリーチは、この調査では1%に満たない水準しかありませんでした。食品・飲料というテレビ向きの商品が多かったためとも考えられますが、唯一の耐久財である商品5でもインクリメンタルリーチは0.6%しかありませんでした。

インクリメンタルリーチの大きさは、テレビのリーチの大きさ(テレビのリーチが大きくなると重複リーチが増え、インクリメンタルリーチが減る)に加え、ネット広告のターゲットをどう設定するのかに拠る部分も大きいと考えられます。5商品の中で、CGM動画広告のターゲットが最も限定されていた商品3では、インクリメンタルリーチは1.3%と比較的大きく出ていました。どの商品でもCGM動画広告の性年齢別リーチはテレビのそれとは全く異なるものになっており、若年層を中心にテレビでは到達しにくいターゲットに届いていると言えます。ただし、そのボリュームはテレビ全体に比べればかなり少ないため、インクリメンタルリーチは限定された水準になっています。

テレビの広告認知効率はCGM2.1倍、
購買効率は1.8

まずは機械的に測定されたリーチ(接触)を見ました。続いて、接触した広告がちゃんと認知されたのか、広告の商品は認知されたか、商品に好感を持ったか、買いたいと思ったか、実際に買ったか、について、いわゆる"購買ファネル"の各段階を順を追って見ていきます。今回の5商品は全て流通チャネルで販売されているものなので、認知以降、購買まで機械的には測定できません。従って、広告に接触した人に対してネット調査で聞く手法となっています。

広告の認知については、テレビCMCGM動画広告それぞれのコマ落としの画像を見せて見たかどうかを聞いています(CM素材はテレビとCGMで全く同じ場合もあれば、尺だけ違う場合もあります。1商品のみCGM専用の長尺CMがありましたが、それ以外のCM素材は、基本的にテレビとCGMで同じでした)。同様に商品の認知から購買では、商品名と商品の画像を示して聞いています。なお、購買については当該広告キャンペーンの効果を測定するため「1カ月以内の購入」に限定して聞いています。

図表2に、接触から購買までの購買ファネルの各段階におけるテレビCMCGM動画広告の効率を示しました。これは言い換えれば、広告接触者のうちどのくらいが購買に至る各段階に残っているかを示す生存率分析とも言えます。

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<図表2 購買ファネル効率>

左側の"単体"とある部分は、テレビとCGMの重複接触を含むそれぞれテレビCM全体、CGM動画広告全体の効果を示します。右側の"組み合わせ"は、テレビCMだけの接触、CGM動画広告だけの接触と両方への接触の3パターン別の効果を示しています。以下、右側の組み合わせの部分を中心に見ていきます。

広告への接触者を100とすると、その広告を認知した人(選択肢「確かに見た」と「見たような気がする」の合計)はテレビのみだと42.9%なのに対して、CGMのみでは20.1%とテレビの認知効率はCGM2.1倍になっています。両方に接触だと48.3%ですから、さらに効率が上がります。ミドルファネルを飛ばして、最後の購買での効率を見ると、テレビのみだと3.1%なのに対して、CGMのみでは1.7%と、テレビCMCGM動画広告よりも1.8倍購買に結び付きやすいという結果です。両方接触は5.4%ですから、さらに購買に結び付きやすくなります。

テレビCMの購買への結び付きやすさはCGM動画広告の約2倍という結果ですが、実は、広告認知効率の違いこそが、購買ファネル分析における最大のポイントです。次回は、なぜテレビCMの認知効率は高いのか? について考察してみるとともに、それぞれの媒体への実際の出稿額をもとに推定した広告のコスト効率について見てみることにします。

テレビって本当に割安な媒体だったんですね。

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