なぜテレビを持たないのか?part2~「データが語る放送のはなし」④

木村 幹夫
なぜテレビを持たないのか?part2~「データが語る放送のはなし」④

引き続き"なぜテレビを持たないのか"のpart2です。

前回は、内閣府経済社会総合研究所の「消費動向調査」をもとに、テレビの普及率、保有台数の推移を見ました。今回は私たちの調査結果をもとに、テレビを持たない理由を探ってみます。以前、ここでご紹介したネット配信に関するインターネット調査(国内調査)は、過去3回、毎年3月に実施しています。今回は、まだご報告していない2022年3月実施調査のデータを使用しています。

SVODの増加ペースは大きく減速

まずは、回答者の基本的なテレビ視聴環境を確認しておきます。図表3に回答者のテレビ所有率、ネット接続率、有料放送契約率、SVOD契約率(全て世帯単位)を示しました。

調査対象者の基本的なテレビ視聴.jpg

<図表3 調査回答者の基本的なテレビ視聴環境>

テレビ所有率と有料放送契約率は減少傾向、テレビのネット接続率とSVOD契約率は増加傾向です。この調査は日本全国を対象とし、全国単位の性・年齢構成に合わせて回答者の割付を行っていますが(有効サンプル数は3回とも6,188)、テレビ所有率が消費動向調査の水準より低いのは、回答者の全てがネットユーザー(しかも大部分はヘビーユーザー)であるインターネット調査であることに加え、回答者の年齢上限を、調査精度を確保するために69歳にしていることによるものと考えられます。当然ですが、これはこの調査の全ての結果に影響するバイアスであることにご注意ください。

SVODの契約率は、コロナ禍中の20年から21年にかけて大きく増加し、21年から22年にかけては増加率が大きく縮小しています。北米では既にSVOD契約率は減少に転じている可能性も指摘されているようですが、日本でも足元でほぼ横ばいの水準になっていることがうかがわれます。

Amazon Prime VideoNetflixもさすがに減速

参考までにSVODのサービス別契約率を図表4に示しました。上位2サービスとも21年から22年にかけては増勢がかなり鈍化しています。逆に言えば、Amazon Prime VideoNetflix20年から21年にかけての大きな伸びは、コロナ禍という特殊事情によるところが大きかったのではないか? と言うことができるのかもしれません。そろそろ頭打ちになる可能性も考えられますが、これは予測が難しいですね。

家族または本人が契約しており、本人が視聴できるサービス.jpg

<図表4 SVODサービス別契約率>

位はやはりあの理由......

ここで、ようやく本題の"なぜテレビを持たないのか?"です。この調査では、現在テレビを持っていない人(自宅にテレビがない人を指します。ワンセグやカーナビ、ゲーム機に付属した機能、職場、学校等での視聴を除きます)に対して、過去2回、全く同じ聞き方で、テレビを持たない理由を聞きました。その結果を図表5に示します。

テレビを持っていない理由(複数回答、回答総数に対する構成比:%).jpg

<図表5 テレビを持っていない理由
(複数回答、回答者数に対する構成比:%)>
 

21年調査と22年調査の結果にほとんど違いはありません。どちらも1位は「テレビ放送を視聴できるテレビを設置すると、NHKの受信料を払わなくてはいけなくなるから」です。これは以前からテレビ(受信機)離れの一因ではないかと指摘されてきた要因ですが、それをある程度裏付ける結果かもしれません。

ところで、この選択肢を選んだ回答者にはどんな特徴があると思われますか? お金を払いたくないから収入が少ない人? それともNHKの番組に興味がない若年層でしょうか?

全体としての男女差、年齢だけによる差、地域差、職業による違い、既婚・未婚、子供の有無による差はないのですが、意外なことに、この選択肢を選ぶ人には、①40歳以降の男性が比較的多い、②世帯年収が800万円を超えると回答率が多くなる傾向がある――という特徴がありました。ただし、男性の年齢と所得には相関がありますので、単純に中高年の男性に受信料を払いたくない人が多いというだけのことかもしれません。

これはちょっと意外でしたが、"テレビ放送を受信できるテレビを設置するとNHKとの契約義務が生じる"ということを正しく認識している人がその層に偏って存在している可能性もありますので、断定的なことは言えません。

位は、習慣がなくなったから

テレビを持たない理由の2位は、part1でもご紹介したとおり、両年とも"以前はテレビを見る習慣があったが、現在、その習慣はなくなったから"です。これも比較的若い層で多そうな気がしますが、年齢による違いは、30代前半の人にやや多いという程度のものでした。これはpart1で示した「テレビを見る習慣がなくなった若い人が、家を出て新しい世帯を構えてもテレビを設置しないので、テレビの世帯普及率が緩やかに減少している」との仮説を部分的に裏付けているような気がしないでもありませんが、ちょっと弱いかな......。

全体の男女差、既婚・未婚、子供の有無、収入、地域等での違いは、意味のある水準では見られませんでした。いずれにしてもこの設問の回答者は22年調査の場合、回答者総数6,088人のうちの1,819人で、各選択肢を選ぶ人はそのまた一部に過ぎませんので、回答数が少なくて細かい分析は難しいのです。

テレビを見る習慣の維持がカギ

この結果から言えるのは、1位のNHK受信料を除けば、テレビを見る習慣に関する選択肢が比較的多く選ばれ、一般的に良く言われる"ネット配信だけで充分だから""テレビは好きな時間に好きなものが見られないから不便"といった選択肢は、それほど多くは選ばれなかったということです。テレビ放送事業者にとっては、テレビを見るという習慣自体をいかに維持するかが重要、ということを示唆していると言えないでしょうか?

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