なぜテレビを持たないのか?part1~「データが語る放送のはなし」③

木村 幹夫
なぜテレビを持たないのか?part1~「データが語る放送のはなし」③

前回からしばらく間が空きましたが、「データが語る放送のはなし」の第3回です。えっ、この連載自体忘れてた? まぁ地味な連載ですから......今回も地味な内容で申しわけありませんが、最近何かと話題になることもある"テレビ離れ"に関連したお話です。

読者の皆さんは"テレビ離れ"というと具体的にどのような現象を思い浮かべられますか? リアルタイムや録画再生でテレビ放送を見なくなることでしょうか? それともネット配信を含めてテレビ番組自体を見なくなることでしょうか? あるいは、テレビそのものを保有しなくなることでしょうか? 今回は3番目に挙げた家庭におけるテレビ保有率減少のお話です。

テレビの世帯普及率は、
全体ではまだ9割を超えているが......

図表1は、内閣府「消費動向調査」2022年3月実施分におけるテレビの世帯普及率を世帯主の性・年齢別に示したものです。「消費動向調査」は毎月行われますが、耐久消費財の普及状況に関する設問は毎年3月の調査に盛り込まれます。なお、ここでいうテレビとは、「カラーテレビ 薄型(液晶、プラズマ等)」でテレビ放送チューナーの有無などは明示的には記載されていませんが、「カーナビ、パソコン、ゲーム機等に付いている機能は除く」とありますので、そのほとんどがチューナー内蔵のテレビ受信機と考えられます。22年3月時点のテレビの総世帯普及率(テレビが1台でもある世帯の割合)は約93%です。この数値は年々、少しずつ低下していますが、現在でも9割以上の世帯にテレビが少なくとも1台はあると推定されます。

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<図表1 テレビ世帯普及率:%(2022年3月時点)>

しかし、世帯主の性・年齢別に見るとかなりの違いがあります。最も普及率が高い60歳以上の男性が世帯主の2人以上世帯と最も普及率が低い29歳以下男性単身世帯とでは約23%もの開きがあります。若年層男性単身世帯では73%程度しかテレビを持っていません。3年前、19年の調査では、29歳以下男性単身世帯のテレビ普及率は88.6%ありましたので、かなりの勢いで減少していることになります(ただし、19年→20年だけで88.6%→78.4%と10%ポイントも低下しており、その大きな変動の要因は判然としないのですが......)。ご存じのとおり、若年男性(M1層)は、テレビ所有世帯を母数とする視聴率調査で最もテレビ視聴時間が少ない層ですが、テレビを持たない人が多い層でもあるのです。

世帯普及率は14年頃から、
保有台数は06年頃から減少

全体のテレビ普及率と世帯当たりのテレビ保有台数について、その推移をカラーテレビ普及初期の1967年から現在まで示したのが図表2です(ただし、これは2人以上世帯だけのデータです)。テレビ(カラーテレビ。途中でブラウン管から液晶等に移行しています)の普及率は、75年に90%を超え、その後99%程度にまで達して普及上限に至ったようです。その後は、約35年間に渡って飽和水準を持続していたものが、2014年頃から、極めて緩やかな低下に転じていることがわかります。

2206 テレビ普及率.jpg

<図表2 テレビ普及率・保有台数の長期推移(2人以上世帯)>

保有台数の推移からはもっと多くのことが読み取れます。カラーテレビは当初、価格がまだ高かったこともあり、一家に一台から普及が始まりました。その後、価格の低下とともにリビング以外の場所への設置も始まり、(2人以上の世帯では)複数台の保有が当たり前になっていきました。世帯普及率が普及上限に達した後も、保有台数は05年まで傾向として増加し続けました。ピーク時の台数は1世帯当たり2.5台程度です。それが06年より突如減少に転じ、14年には2.08台にまで減少しました。その後やや盛り返したものの、22年時点では2.06台とまた減っています。

台目3台目のデジタルへの完全置換はならず

ここでお気づきの方も多いと思いますが、テレビ保有台数は06年の地上デジタル放送全国展開と同時に減少し始め、地デジ完全移行2年後の14年に当面の底を打ちました。その間の世帯普及率には変化が見られませんので、これは家庭内のリビング以外の場所にある、地デジに対応していない2台目、3台目のテレビの一部が地デジ対応機に置き換えられず、廃棄されたためと推測することができます。地デジ対応テレビは、関係各業界、事業者によるひとかたならぬ尽力に加え、家電エコポイント制度などの後押しもあり、(その普及プロセスを表現する数式を推定するのが困難なほど)驚異的なスピードで普及しましたが、流石にアナログテレビの完全置換には至らなかったことが推測されます。ただ、その理由が宅内の配線などの物理的な理由なのか、経済的理由や社会的理由などそれ以外の何らかの理由によるものなのかはわかりません。

テレビ世帯普及率低下の原因は?

保有台数の減少以上に理由が判然としないのは、テレビ普及率の減少です。保有台数の減少が底を打つのとほぼ同時に、それまで変化がなかった普及率が減少し始めました。なぜでしょうか? 「そんなのテレビ離れが進んだからに決まってるだろ!」というご意見はあるかと思いますが、重要なのは、なぜ"テレビ離れ"、正確には"テレビ受信機離れ"が起きたのかです。

それに対して私が考える仮説は、世帯普及率の減少は「テレビを見る習慣がなくなった人が新たな世帯を起こしたため」というものです。私はテレビというものは、明確な理由や実利というよりも、もっぱら習慣で見るものだと考えています。子ども部屋のようなリビング以外の場所にあるアナログテレビをデジタルテレビに買い替えなかった世帯では、子どもがテレビを自室で見られなくなったと思われます。ひとりでテレビを見る習慣がなくなった子どもが、独立して新たな世帯を起こした際に、(全部ではなく)その一部がテレビを保有しなくなったのではないか、という仮説です。テレビ放送をひとりで見る習慣がなくなった若い人のうち、ネットでの動画視聴などだけで満足するようになった人が、独立に際してテレビを持たないことにした、と言うケースは少なくないと考えられます。

以前、民放onlineに寄稿したネット配信に関する調査レポートのもとになった調査では、テレビを持たない人に対して、テレビを持たない理由を聞いています。その最新の調査(2022年3月)で「以前はテレビ放送を見る習慣があったが、現在、その習慣はなくなったから」との選択肢を選んだ人は、テレビを持たない人の約18%で、NHKの受信料支払い義務発生に続く第2位の理由でした。また、本稿の最初の方で述べたように、若年単身世帯のテレビ保有率はかなりの勢いで低下しています。テレビを持つ高齢者の世帯が退出し、テレビを持たない若い人の世帯が新たに加わってきているため、全体のテレビ世帯普及率は、非常に緩やかに減少しているのではないかと考えています。

当然ですが、以上の私の考えはあくまでも仮説にすぎません。仮説は事実=データで実証されなければいつまでたっても仮説のままです。もっと詳細な調査と分析が必要ですね。次回は「なぜテレビを持たないのか?part2と題して、テレビを持たない理由を調査結果をもとに、さらに掘り下げてみることにします。

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