番組のおはなしの後編です。後編では、米国ローカルテレビの(ほぼ)唯一の自社制作番組であるローカルニュースが、ローカル局の営業や経営にどう貢献しているのかを中心に見て行きます。
ナショナルクライアントへの
セールスは外部委託
まずローカルニュースの営業についてお話ししますが、その前に、前回お話ししたネットワーク番組のローカルセールス枠については、自局で売るのではなく、"セールス・レプリゼンタティブ"(通称"レップ")にセールスを委託しています。レップには全国向け広告を売るナショナル・レップと特定のエリア向け広告を売るリージョナル・レップがありますが、多くの場合、ローカル局所有会社が傘下の局のセールスをまとめてレップに委託、ないしは所有会社自身が所有するレップがセールスを行います。つまり日本のローカル局では、東京・大阪などの支社が行う営業活動を、全て外部ないしは所有会社のレップにコミッションを払って委託しているわけです。
なお、シンジケーターから供給されるシンジケーション番組については、完全CM付き、一部CM付き、CMなし(古い番組の場合が多いようです)の3タイプがあるようですが、自社セールス枠について、これもネットワーク番組同様、レップに売ってもらうのか? 局がローカルエリアでセールスするのか? については調べたことがないので不明です(シンジケーション番組と言っても4大ネット以外の準ネットワークの番組も多いので、その場合はレップのセールスになると思いますが......)。
ローカルニュースが広告収入の7割を稼ぐ!
一方、ローカルニュースについては、自局のエリア内で事業を展開しているローカル広告主に対して、基本的に自分たち自身でセールスします。
もうかなり以前になりますが、米国のローカルテレビ局で「なぜ米国のローカル局はローカルニュースにそこまで力を入れるのでしょうか?」と聞いたことがあります。その答えは単純明快でした。「自分たち自身の"売り物"はローカルニュースしかないから」「ローカルニュースがないと売り上げが立たない」というものでした。米国のテレビ局のローカル広告主からの売上は、4大ネット直営/加盟局全体の(再送信同意料収入などを除く)広告収入合計の約65%ですが(2019年時点、NABデータ)、そのほとんどはローカルニュース番組のセールスによるものです。レップがセールスする全国およびリージョナル広告が約30%、政治広告が約5%(選挙がない年の場合)ですから、セールスの圧倒的な柱がローカルニュースであることがわかります。
ローカル営業への依存度はさらに増加?
ちなみに日本のローカル局では、東京(大阪)支社スポット収入とネットワークタイム収入を合わせた全国広告がタイム・スポット収入全体の約7割を占め、ローカル広告は約3割に過ぎません。米国とはちょうど逆の比率です。東京(大阪)支社スポット収入とネットワークタイム収入を合わせた分を、ほぼローカルニュースで稼いでいると考えてみれば、米国ローカル局の営業がどれほどローカルニュースに依存しているかが良く分かりますね。
実は米国のローカルテレビの全国広告費収入の比率は年々、少しずつですが低下しています。ネットワーク番組の視聴人数の減少(米国の場合、全国広告の通貨は視聴率ではなく視聴人数)が主な原因と言われています。そのため大手のテレビ局所有会社には、ネットワークに対して、プライムタイムを短縮して、局で編成しセールスできる枠を増やすように要求しているところもあるようです。ローカル広告への依存度は、今後ますます増えていくと考えられます。
営業費用の2割がローカルニュース制作費
さて、米国のローカルテレビはローカルニュースの制作にどの位のお金を使っているのでしょうか? NAB(全米放送事業者連盟)は毎年、ローカル局の収支に関する調査を行い、報告しています。以前何度もお話ししましたように、米国のテレビ局は独立した法人ではなく、所有会社の一事業部門の位置付けなのですが、局別の収支は把握されています。
そのレポートをもとに、全体とDMA(Designated Market Area)ランキング別にローカルニュースの制作費を収入、費用合計とともにまとめたのが図表1です。なお、独立局(インディペンデント)や教育局(PBS)は、ネットワーク直営/加盟局とは収支構造がかなり異なるので、除外しています。
<図表1.米国系列ローカル局の
DMA別収入・費用とニュース制作費(1局あたり)>
2019年時点で、エリアの規模に関わらず、収入に占めるニュース費(人件費を含む)の比率はほぼ20%であることがわかります。最大の費用項目は"Programming"ですが、これは全地区の19年時点で費用総額の42%に達しています。しかし、この中身は番組制作費ではなく、再送信同意料収入のうちのネットワークの取り分の支払いがほとんどで、残りは著作権使用料などです。従って、コンテンツ制作のための費用はニュース費が(ほぼ)全てで、それは技術費(2019年の全地区で5.4%)、営業費(同10.2%:レップ、広告会社へのコミッションは含みません)、一般管理費(同14.4%)などProgramming以外の全ての費用項目を大きく上回っています。いかにローカル局がニュースに経営資源を重点的に配分しているかがわかりますね。
ちなみにニュース部門の人員数ですが、これはデータにありません。ただ、1局あたりの人員数(フルタイムとパートタイムの合計:米国では正社員、パート、派遣といった区分はありません)は、同じレポートの19年のデータで、系列局の全体平均で73人です。これには日本で言うところの外部スタッフの数も含まれているようですが、この半分程度がニュース部門で働いていると、以前、現地のローカル局の方から伺ったことがあります。
ニュース費の比率が低下したのは......
ところで、20年前の1999年のデータでは、営業費用に占めるニュース費の比率は全体で27%ありました。比率は大きなマーケットほど下がっていることがわかりますね。ニュース費の金額自体は、この間の物価水準の上昇もあり、全体で1.2倍程度、中規模以上のマーケットでは1.3倍程度になっているのですが、費用自体がそれ以上に増えているためです。これは再送信同意料収入の増加によるものです。当然のことながら、再送信同意料収入が増えればネットワークへの支払いも増えるからです。
問題は、利益率が50%もある再送信同意料収入が増えているにも関わらず、局全体の利益水準(利益率)が低下していることです。営業キャッシュフロー(図表1では収入-費用計)の収入に対する比率は、全体で1999年42%→2019年33%と10ポイント近くも低下しています。規模が大きなマーケットほど低下幅が大きく、1-10位エリアでは1999年57%→2019年39%と18ポイントも低下しています。一方、150-175位エリアでは1999年34%→2019年30%です。この背景については次回、詳しくお話しします。
ローカル局で一番の高給取りは誰?
最後に、米国のローカル局でローカルニュースに従事する人がどのように評価されているのかについて見てみましょう。
ご承知のように、米国企業の賃金は職務給です。年齢に関係なく、それぞれの仕事内容や組織・収益への貢献度に応じた賃金が支払われます。テレビ局についても、賃金水準が高いポストほど局への貢献度が高いと見なされている......と考えても差しつかえないと思われます。
図表2に米国のローカル局の職種別の賃金(年俸)をDMAランキング別に集計したものをお示しします。これもNABの調査データで、ボーナスを含む全報酬の平均額です。2016年のデータですので、現在はこれよりも上がっているでしょうね。
<図表2.米国ローカル局の職種別平均年俸(単位:ドル、2016年時点)>
General Managerをはじめとする管理職と営業部門のマネージャーといった賃金水準が高い職種とニュース部門についてお示ししました。ほかにはそれぞれの部門の補助的な職種や技術スタッフ、カメラマン、IT部門担当、ソーシャルメディア担当、広報・宣伝担当、リサーチャーなどのデータがありますが、これらの職種の賃金は表にあるものよりも、全てのマーケット・カテゴリーでかなり低い水準です。なお、経理や人事など管理部門の大部分は所有会社に統合されているためか、このレポートには局の管理部門の責任者である"コントローラー/ビジネスマネージャー"とそのアシスタントしか記載されていません。なお、レポートにはそれぞれの職種の平均在職年数が記載されています。補助的な職種や現場のスタッフは3-5年程度ですが、マネージャーやアンカー、技術職の場合は平均で10年を超えています。
一般的に、米国のローカル局の賃金水準は低く、マネージャークラスやアンカー以外の場合、「エリア内の平均的な労働者の賃金水準よりも低い」という話はよく聞きます。勤務地にこだわらない人については、まず、小さなマーケットの安い賃金の局から働き始め、キャリアを積んで大きなマーケットでより高給のポストを獲得しようとすることが多いようです。
これを見ると、一番の高給取りは日本のローカル局では社長にあたるジェネラル・マネージャーですね。次が営業部門の総責任者ジェネラル・セールス・マネージャーです。続いてローカル営業のマネージャーでその次が全国営業です。ローカル営業が営業の中心ですから納得ですね。そして次がニュース部門の総責任者であるニュース・ディレクターですが、その次はなんと、ウェザーアンカー(午後と夜担当)です。ニュースアンカーやスポーツアンカーよりも多く、現業のスタッフでは一番の高給取りです。マーケットの規模により賃金水準は異なりますが、この順番はほぼ同じです。ただ、DMA1ー25位のような大きなマーケットではニュース部門の賃金水準が絶対水準だけでなく、局内において相対的により高く、ウェザーアンカーはジェネラル・セールス・マネージャーに続く局で3番目の高給取りです。
つまり、ローカル局では、収益の大部分を稼ぐニュース部門は待遇面で優遇されており、その中でもウェザーアンカーが最も高く評価されているといえそうです。ネットワークでは別なのでしょうが、ローカルではウェザーアンカーが局一番の"顔"なんですね。
お天気情報のニーズは高い!
米国のローカルニュースは、ニュースと天気・交通情報が交互に流れるスタイルが一般的です。その分量はほぼ同量の印象があります。お天気情報はローカルニュースの要と言えます。私が20年近く前に伺った(昔の話が多くてすみません......)テキサス州内陸部(ダラス・フォートワース地区)の局は、局舎に隣接して、竜巻観測用のドップラーレーダーを搭載する鉄塔を敷設していました。独自の竜巻予報を行うためです。地区によっては、気象情報は生命に関わる場合もあるため、ニーズが非常に高いようです。前回ご紹介したネブラスカ州の2つの局は、毎日夜中に、気象情報だけの番組を1時間半編成していましたね。
余談ですが、私が(たまたま)お会いしたことのある米国のローカル局のウェザーアンカーの方は、みなさん非常に人当たりがよくて、温和で親しみやすい感じの中高年の方でした。そういう方がお天気情報を伝えると信頼されやすいのかもしれません。
今回は、ここまでです。次回は米国ローカル局の経営の話です。ここ20年ほどの間での変化についてもお話しします。