"テレビの実力はそんなものではないはずだ"番外編~「データが語る放送のはなし」⑧

木村 幹夫
"テレビの実力はそんなものではないはずだ"番外編~「データが語る放送のはなし」⑧

"テレビの実力はそんなものではないはずだ"は3回で終了......の予定でしたが、まだご紹介できていない重要な発見(?)もありますので、今回は"番外編"と題して紹介することにします。

過去2回(part2part3)、「テレビの広告効果に関する研究」第2回調査の結果から、テレビとCGM動画広告について、リーチ(広告の到達率・人数)と購買ファネル(広告の接触から購買に至るプロセス)の各段階における効率、および、そこから推計される広告費単価について見てきました。第2回調査ではそれ以外に、商品に関連した情報行動にテレビとCGM動画広告が与える影響や、第1回調査同様、認知から購買にいたる各プロセスにおいて、この2つのメディアに限定しないさまざまなメディアがどう貢献していたのかについても調べています。以下、その結果について見てみましょう。

テレビは店頭での行動を促すメディア

図表1は、調査対象となった5つの商品のそれぞれについて、その商品を認知している人(商品認知者)に対して、当該商品に関連した8つの行動を実際にとったかどうかを聞いた設問の結果(5商品の平均値)です。それぞれの商品の広告(CM、動画広告)認知タイプ別に集計していますが、ここでいう広告認知のタイプとは、①TVCGMの両方で見た人、②TVだけで見た人、③CGMだけで見た人、④どちらでも見ていない(が商品は認知している)人の4タイプです。

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<図表1.テレビCM/CGM動画広告認知パターン別の商品関連行動率
(5商品平均:%)>

まず、表右端の「行動あり計」で見ると、CGM動画広告を見た①と③の行動率(8つのうちひとつでも行動を取った人が、それぞれのタイプの回答者全体に占める割合)が50%を超えているのに対し、TVCMだけを見た②とどちらも見ていない③の行動率は、それぞれ30%程度、20%程度と明らかに低い水準になっています。8つの行動の内訳で見ても、情報検索、比較、話題化、能動的実物確認などほとんどの行動でCGM動画広告を見た人の行動率はTVCMだけを見た人や広告を見ていない人の行動率を上回っています。CGM動画広告の視聴は、こうした情報行動、話題化などに結び付いていることが伺われますが、もともとこうした行動、特にネットを使った情報行動をしやすい人がCGMを良く視聴していると考えることも可能です。この分析だけでは因果関係は判然としませんね。

一方、8つのうちひとつの行動だけは、TVCMを見た人の行動率の方が高くなっています。それはグラフを見れば一目瞭然で、「買い物などの際に店頭で商品を確認した」です。能動的な行動である「商品を確認するために店頭に行った」ではCGM動画広告認知者の行動率の方が高いのに、受動的な行動とも言える「買い物などの際に(ついでに)店頭で商品を確認した」ではTVCM認知者の行動率の方が高いのは、非常に興味深い結果です。 

part1でご紹介した2020年の第1回調査では、具体的な商品・サービスではなく一般論として今回の調査結果と同様の傾向が見られましたが、TVCMは当該CMの商品・サービスについて、詳しい情報の検索や他の商品・サービスとの比較といった能動的な行動を起こさせる効果よりも、印象に深く残ったり、潜在的な消費意欲を喚起する効果をより大きく持っていることが推測されます。意識の深いレベルに残りやすいので、買い物の際に思い出して手に取るという行動の要因になったのかもしれません。

やはりテレビCMは購買プロセスの幅広い分野で貢献

次に、第1回調査同様、TVCGMに限定せずに様々なメディアが購買プロセスのどの部分で貢献しているにかについての設問の集計結果を見てみましょう。図表2は、5つの商品それぞれについて調べた調査の平均値です。それぞれ商品の認知者、行動者、購買者だけを抽出して、商品認知、商品関連行動、購買の別の3設問の中で、認知、行動、購買において寄与したメディアを選択肢の中から選んでもらった問い(複数回答)の結果をひとつの表にまとめたものです。認知は、認知した・興味関心を持ったメディアを、行動は、それぞれの行動を行うキッカケになったメディアを、購買では、購買の参考・キッカケになったメディアを選択してもらっています(ただし、購買では購買者のサンプル数を充分確保できなかった商品5を除外しています)。第1回調査では個別の商品・サービスではなく、一般論として全員に聞きましたが、今回は具体的な商品別に、認知、行動、購買の行為者だけを抜き出して聞いているという違いがあります。完全な意識レベルだった第1回調査に比べ、個別商品の現実の購買行動により迫っている設問と言えます。

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<図表2.購買プロセスにおける各メディアの貢献(選択率の5商品平均:%)>

調査では、ラジオや新聞、雑誌、屋外広告などあらゆる広告媒体が選択肢に入っていましたが、ここではスペースの関係でテレビとネット系媒体、店頭だけの結果を提示しています。なお、表の数字は、商品の認知者、それぞれの行動別の行動者、購買者全体の中で各メディアを選んだ人の比率を表しています(単位は%)。

一見してわかるように、テレビCMと店舗の実物の選択率が、全ての購買プロセスで大きくなっています。この2つは幅広いプロセスで多くの人に影響を与えていると考えられます。よく見れば、テレビCMがまんべんなく幅広いプロセスで多く選ばれているのに対し、店舗の実物は購買に近いプロセスでより多く選ばれているのが、両者の違いでしょうか。

他方、この設問ではネット系メディアは、口コミ・比較サイトやインターネット広告を含め、あまり存在感がありません。ただ、商品の公式サイトの選択率が、口コミ・比較サイトと同等かやや上回るほど高くなっているのは特徴的ですね。

店舗の実物や当該商品の公式サイトの選択率が高いのは、個別の具体的な商品に関する行動を聞いているためと考えられます。また、調査対象となった商品5つのうち4つまでが、食品・飲料という、情報をいろいろと収集したり、サイトやSNSで比較・検討することなく、店舗で手に取って確認したら買ってしまうことが多い商品であったことも影響していると思います。ちなみに、唯一の耐久財である商品5では、他の商品よりは口コミ・比較サイトの選択率が高くなっていました。

それにしてもテレビCMがこれほど幅広いプロセスで貢献しているのは、やや予想外でした。これが食品・飲料の特性を反映しているのか、ある程度の普遍性を持っているのかについては、断定的なことは言えません。ただ、水準の違いこそあれ、唯一の耐久財である商品5でも、認知、行動の全体の傾向にさほど大きな違いはありませんでした。

テレビCMは、認知・興味関心のプロセスでは直接的に貢献し、行動や購買のプロセスでは、意識に深く残っていることでキッカケとして作用するなどして、間接的に貢献していると推測して良いのかも知れません。そのため、幅広い購買プロセスでの貢献が見られるということではないでしょうか?

次はラジオの広告効果について調査

ここまで、テレビの広告効果についての調査結果を見て来ました。この研究は、前回の最後の部分でも触れたように、今後、幅広い商品、サービスのジャンルに範囲を広げて継続していく予定です。同時に、ラジオについて、その広告媒体としての価値を客観的に把握できるような調査・研究に着手しました。ラジオの広告効果についての研究結果もいつかここで報告したいですね。

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